全国学力調査(テスト)2019年、中学・数学の正答率の低い問題の感想、批判
春の全国学力調査(全国学力テスト)の結果が7月31日に発表されて、昨日・8月1日の朝日新聞・朝刊に大きく掲載されてたので、ごく簡単に感想を書いとこう。
中学の数学だと、式や最後の答だけなら、誰がやってもほぼ同じになる(以前の原田・船木問題は例外)。しかし、文章による説明だと、模範解答とされてるものにも疑問を感じてしまう。正直、私が模範解答を採点すると、あまり高い点数にはならない。必要な言葉が抜けてたり、逆に余計な言葉が入ってたりするからだ。
以下、正答率の低い2問を見てみよう。問題・答・分析などは、国立教育政策研究所HPで無料公開されてるので、縮小コピペで引用させて頂く。
☆ ☆ ☆
まず、朝日が大きく扱ってた中3数学の問題6。全体的なアイデア自体は、実用的・現実的で面白いと思う。
(1)真面目に書くと、やや面倒な話になる。
(点Pのy座標)=(冷蔵庫Aの使用年数0年での総費用)=(冷蔵庫Aの本体価格)
(点Qのy座標)=(冷蔵庫Aの使用年数8年での総費用)=(冷蔵庫Aの本体価格+8年間の電気代)
∴(点Pのy座標と点Qのy座標の差)=(点Qのy座標)-(点Pのy座標)=(8年間の電気代)
よって、答はエ。
普通は、「8年間で増えた総費用だから、その間の電気代」とか、省略して考えて答える所だろう。実際の教室での授業だと、「修理代は入れないの?」とか生徒から突っ込みが入って、「冷蔵庫はあんまし故障しないだろ」とか先生が言い返すと、「ウチの冷蔵庫、壊れたよ」とか反論されることになる♪
この問題の正答率は4割弱(39.5%)。5割近い生徒が、オ(8年間の総費用)と答えてる。これは点Qのy座標だけ見てるわけで、要するに、2点のy座標の差という話が意外と分かりにくいということだ。裏を返すと、意外と教えにくいのかも知れない。教師にとっては当たり前のことで、しかも教えにくいとなると、授業では省略されがちになるかも。
☆ ☆ ☆
それより、次の(2)が引っかかる。
この問題。生徒にとってまず引っかかるのは、キレイな答が出ないこと。連立方程式にせよ、グラフにせよ、ちょっと嫌な感じになる。文章の説明力を見る問いだから、キレイな答が出る設定の方が親切で適切だと思う。
CはBより、本体価格が5万円高いけど、年間の電気代が4500円安い。ということは、11年ちょっとで総費用が同じになるけど、(100/9)年という年数は算数や数学の授業で出て来るだけで、日常的には全く出て来ない。
☆ ☆ ☆
それより問題なのは、模範解答(正答例)だ。アの方程式を選んだ場合だと、「冷蔵庫Bと冷蔵庫Cについて、使用年数と総費用の関係から連立方程式をつくり、それを解いて使用年数の値を求める。」
私は、この正答例の文章を読んで本当に解ける生徒は少ないと思う。というのも、BとCで年数と費用の関係を見るのなら、合計4つの値が出てしまうと考えても不思議はないからだ。
だからと言って、x₁とy₁、x₂とy₂、2組の変数を持ち出してそれぞれ方程式を立てて、2本の方程式に同じxとyを代入して連立方程式にする・・とか説明すると、ますますパニックが拡大する。
というわけで、本来なら説明の最初に、「総費用が等しくなる時の使用年数をx年、総費用をy円とすると」といった感じの前置きが必要なのだ。それだと長すぎると言うのなら、せめて正答例には、「使用年数x」と「総費用y」と書くべきだろう。直前のグラフでxとyを導入してるのに、直後のこの問いで使ってないのが不自然で不十分なのだ。
その意味で、正答例は、10点満点だと8点か9点だと考える♪ グラフを選んだ場合の正答例「・・・交点の座標を読み取り・・・」も、正確には「交点のx座標を読み取り」と書くべきところだから、8点か9点しか出せない。
☆ ☆ ☆
次に、図形と証明を扱ってる問題7。
(1)は余りにも有名な合同条件だからいいとして、(2)は微妙な問いだ。要するに、予想2を「・・・ならば~~~」という形の条件命題と考えて、高校以上の論理をこっそり想定してるのだ(「ならば」の真理値表の変化)。
この条件命題が間違ってるのは、「・・・」が正しいのに、「~~~」が正しくない場合のみ。つまり、①をみたしていのに、②をみたしていない図を示せば、予想2の間違いを示せる。
ただ、囲みの文章で後半に入る時の接続詞が「数学の文章的に」不自然なのだ。「また、図2は」と書くのではなく、「しかし、図2は」とか、逆接の接続詞(ところが、など)を入れないと、滑らかな日本語にならない。一歩ゆずっても、「一方」と書いて、流れの変化を示すべきところ。
ところが(笑)「また」と書いてしまってるのは、やはり高校以上の論理学の悪影響だろう。初歩的な論理では、「しかし」と「また」のどちらも、「かつ(and)」で単純に処理してしまうから。
☆ ☆ ☆
それより引っかかるのは、次の(3)。
「四角形ABCDがどんな四角形ならば、AF=CEになりますか。『~~ならば、・・・・・・になる。」という形で書きなさい。
こう指示されれば、「ひし形(の四角形)ならば、AF=CEになる」が自然な正答のはず。ところが、解答作成者たちは、これだと「記述が十分でなく」として減点するらしい。完全な正答例は、「四角形ABCDがひし形ならば、AF=CEになる」。
「四角形ABCDがどんな四角形ならば」と問われて、「四角形ABCDが・・・」と答える日本人はほとんどいないはず。日本語は分かり切った主語(特に直前に出たもの)は省く言語で、「日本語の論理」ではそれで正しい。主語をしっかり欧米的に入れさせたいのなら、例えば問いの側で、「四角形ABCDが~~ならば、・・・・・・になる。」という形で書きなさい、と誘導すべきだろう。
なお、主語の省略というのは、初歩的な論理学の一部でも(暗黙のうちに)行われてる形になってる。例えば、「人間は動物である」という命題は、現代の述語論理でより正しく言い直すなら、「xが人間ならば、xは動物である」(全称は省略)。この仮の主語xを省略して、「ならば」の代わりに「は」としたのが、元の伝統的な命題なのである。
☆ ☆ ☆
もちろん、これは選別のためのテストではなく、調査のためのテストだから、細かい減点(あるいは不十分という判定)は重要ではない、といった弁明はできなくもない。
ただ、少なくとも現場の中学の数学教師には、正答例と不十分とされた例をしっかり把握して授業に反映する人も一定数いるはず。歴史と権威のある全国調査なのだから。
もっと重要なのは、まもなく始まる新テスト(大学入学共通テスト)だ。こちらは入学者の選別に関わる試験問題だから、遥かに客観的で正確な問題、解答、採点が必要となる。ところが、なまじ記述式など取り入れるために、採点や採点者の余裕が無くなってしまいそうな気配だ。
英語の「聴く」「話す」も含めて、あと1年半で本当に上手く準備できるのか? もし先延ばしにするのなら、今がもうタイムリミットだろう。私は当事者ではないけど、不安なまま準備せざるを得ない受験生たちが気の毒になる。
ともあれ、今日はそろそろこの辺で。。☆彡
(計 2962字)
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