愛とはメモリーだから・・~ブロガー仲間・キッドさんの小説『おタクの恋』
先日、私の知り合いの若い女性が、真っ黒に日焼けした人を見て、「松崎しげるみたい」とつぶやいた♪ 思わず私が、「古いね」と突っ込むと、彼女は「日焼けっていうと松崎しげるでしょ」と応答。昭和のイメージが強い歌手だけど、実は平成(~令和)でも地道に活躍し続けてるらしい。
その松崎しげるの最大のヒット曲と言えば、『愛のメモリー』。1977年(昭和52年)の曲とはいえ、サビの部分は多くの人が聞き覚えあると思う。
試しに今、歌詞を検索してみると、一番最後はこう書かれてた(作詞・たかたかし)。
二人に死が訪れて 星になる日が来ても あなたと離れはしない
愛と死を幻想的に結びつけるという発想は、日本の時代区分でいうと、主に昭和(以前)のものかも知れない。恋愛マンガの代表作の一つ、『愛と誠』(1973~76:昭和48年~51年)のラストも、まさにその形になってた。ヒロイン・愛と、ヒーロー・誠の死とが、文字通り一体となって、美しくも哀しい物語の結末を迎えたのだ。
そう言えば、ユーミン=松任谷由実(当時は荒井由実)の『ひこうき雲』も昭和48年。「あの子の 命は ひこうき雲・・」。『翳りゆく部屋』が昭和51年だ。「わたしが 今 死んでも・・」。
☆ ☆ ☆
前置きが長くなったが、先月(2019年8月6日)、私のココログ仲間のキッドさんが突然、一時復活。昔の長編小説『おタクの恋』のPR記事をアップしてた。
1993年、スコラ刊、名義は城戸口寛。著作権がどうなってるのか不明だけど、投稿サイト『小説家になろう』の18禁エリアで全文公開。続編となる新作も書き上げたらしい。お元気そうで、何よりです♪ アマゾンより。
商品の説明にはこうある。「ちょっとヘンな高校生・海宮晶はノーマルな恋がしたかった。正真正銘の多重人格小説」。「実在しない(疑似人格)たちと主人公の会話を折り込みつつ綴るデビュー作」。疑似人格たちの言葉は、本物の言葉や内心の思いとはハッキリ区別されてて、すべてが溶け合う難解な文学ではない。直木賞狙いか♪
刊行は93年となってて、国立国会図書館のデータベースでも確認した。ただ、実際の執筆は80年代だろうと推測する。小説内の色んな記述を総合すると、物語の舞台は1980年代半ばくらいか。昭和50年代後半~昭和60年。バブル景気の直前くらい。
ただ、70年代の香りも漂ってる。喫茶店、ラブレター、メロンソーダ♪ そして、愛と死、そして各種の「暴走」の時期なのだ。暴走族、校内暴力、テロ・過激派。若者・ティーンエージャーの神、尾崎豊が「盗んだバイクで走り出す」と叫んだのは1983年(『15の夜』)。 日本で精神医学的な知識や問題が普及したのも、ほぼこの辺りの時期だったはず。
そうした意味で、『おタクの恋』は、同時代の空気を全面的に反映してるのだ。おそらく、ご本人自身のメモリー=記憶と共に。。
☆ ☆ ☆
何度か書いてるように、キッドさんとの出会いは、私の側から見ると強烈だった♪
「自閉症の自転車好き~『僕の歩く道』第1話」というウチの初期のドラマレビュー(2006年10月)に対して、トラックバック(キッドさん側の記事の短いPR情報)を頂いたので、あちらに御礼のコメントを書いたら、凄いコメント返しを頂いたのだ。下が、初対面のご挨拶(笑)
「テンメイ様、コメントありがとうございました。
うっかりして、テンメイ様が
自閉症なのかと思ってました。
・・・(略)自閉症でこんなブログが
書けるなんて・・・(略)。
分裂しがちな者ですが、どうぞヨロシク。」
もちろん、これを読んだ私がもし「失礼だと思います」とかクレームを付けたら、「失礼と感じる方がむしろ、自閉症の人達に対して失礼だと思います」といった反論が直ちに返って来る可能性がある。珍しい方だが、知的に理論武装されてて言語能力も高いのはすぐに分かった。
とはいえ、精神系(サイコ)の世界への造詣が深くて、最初から「分裂しがち」と自称してるほどだし、ちょっと緊張する。その後、女性に対して非常に優しく紳士的に接することはすぐ分かったが(笑)、男性ブロガーとしては当初、とまどいや躊躇(ちゅうちょ)があった。まさか10年以上にわたって数百ものコメント&レスをやり取りすることになるとは夢にも思わず。
☆ ☆ ☆
キッドさんのブログには、いつもかどうかは知らないけど、一番上に
「愛とはメモリーだから・・・。」
と書かれてるのが標準。現在もそうなってる。
私の慎重な書き方なら、「愛の本質の一つは記憶」とかだろう。ただ、愛とメモリー(記憶)の間に密接な関係があるのは間違いないし、各種の理論でもそうなってる。
古代ギリシャのプラトンの恋愛論&想起説も、そうした理論の代表。ここ100年くらいなら、精神分析理論が有名だ。『おタクの恋』のあちこちにも、フロイト(およびユング)の精神分析の香りが漂ってる。
例えば「上位自我」とは、フロイト派の英語「super-ego」のキッドさん的な訳語(ドイツ語はUber-Ich)。普通は、超自我と訳す概念で、心の中で命令や禁止をもたらそうとする領域のことだ。この部分が強固な人は、勤勉で優秀。ただし、強すぎると、フツーの自我(わたし)や無意識的な衝動などとの折り合いがつかなくなってしまう。
他に、「コンプレックス」という言葉を、劣等感という狭い心理的意味ではなく、「複合」という広い意味で使ってるのも、フロイト、ユング的な発想。要するに、人間とは様々な層や部分が重なり合い、組み合わさってる複合体であって、その意味ではみんな、大なり小なり、分裂的で多重人格的なのだ。
☆ ☆ ☆
とはいえ、物事には程度の差や、限度というものもある。小説の主人公、高校3年生の海宮(ウミミヤ)晶は、完全にヤバイ少年だ。
普段は現実に適応できてるし、それほど困ってるようにも見えないから、精神医学的には精神病と診断されない可能性も高い。ただ、日常的に違法行為を反復してるし、愛のメモリーが絡むと、超過激な罪も犯してしまう。無意識に突き動かされて、意識的コントロールが出来なくなるのだ。現実の重要な記憶=メモリーも、心の奥に封じ込められてしまう。
彼は身近な人間の家庭(お宅)を調べ上げ、パソコンのフロッピーディスクに保存するだけでなく、自分の頭で記憶してる。お宅のオタク。略して、「おタク」ということか♪ 盗聴器、盗撮、不法侵入、無断尾行。ちなみに、「ストーカー」という言葉が日本で広まったのはわりと最近で、21世紀のこと。一方、「おたく」「オタク」は、80年代前半に普及した言葉だ。
「恋の成就のためにあらゆる手段をつくす」(冒頭の説明より引用)。普通この表現は、一生懸命に頑張るとかいった努力を指すもの。ところが海宮は、完全に一線を超えてしまうのだ。彼の敵たちもまた完全に常軌を逸した計画を実行する。ネタバレはなるべく避けたいので、ご自身でご確認あれ。小説とはいえ、オイオイっ!と突っ込みたくなるエピソードが満載♪
敵の事情はさておき、海宮にとっては結局、愛のメモリーのなせる技=業(わざ)なのだ。昔のある女性へのメモリー。昔のある男性へのメモリー。さらに、小説では明示されてないけど、それらを遡れば結局、彼の幼児期における両親へのメモリーが浮上するだろう。
☆ ☆ ☆
最後に、時代的にも内容的にも、この小説と重なる洋楽を紹介しとこう。かつてカリスマ的存在感を誇った英国のロック・ミュージシャン、ピーター・ガブリエル(Peter Gabriel)。芸術的な音楽ビデオ制作の先駆者としても有名(MTV大賞)。
特に名作と評価される3枚目のアルバム(1980年)には、『Family Snapshot』という曲がある。ジャケット画像は英語版ウィキペディアより。ホラーではないのでご安心♪
この曲の歌詞は、テロや殺人の狙撃をイメージしたもの。終盤までは、銃弾の発射へのプロセスを描いた歌詞のように見える。
ところが、タイトルの『ファミリー・スナップショット』を普通に英文和訳すると、「家族の写真」。少し特殊な翻訳なら、「家庭の速射」。
つまり、歌詞の一番最後で、意外な展開が待ってるのだ。本物の銃撃かと思ったら、家庭で子どもがおもちゃのピストルをもて遊びながら、「お母さん、お父さん、帰って来て」と叫んでたのだ。
「2人とも、どんどん遠くなって行く。僕はどんどん淋しくなってるんだよ。ちょっとは僕のこと、相手にして」。だから、「僕は光の中に撃ち込む、光の中に飛び込むんだ」(I shoot into the light)。
☆ ☆ ☆
結局、その歌詞は、本物の犯罪者の様子と子供時代を重ね合わせてるのか、あるいは単なる子どもの叫びと空想か、意図的に曖昧にしてることになる。もちろん、そのどちらでもあるというのが真実に近いかも知れない。
いずれにせよ、曲の内容もタイトルもまさに、「おタクの恋」なのだ。「家庭の愛」、「家庭のテロ」。家庭の愛と結びついた暴力、攻撃。
そう考えると、『おタクの恋』の凄まじい展開も、一人の男子高校生の「家庭の愛」、「ファミリー・スナップショット」だろう。行動も幻覚・妄想も、その源泉は、幼児期の家庭の記憶にある。
「愛とはメモリーだから・・・」。それでは、今日はこの辺で。。☆彡
(計 3796字)
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