オー・ヘンリー『賢者の贈りもの』(The Gift of the Magi)、英語で再読した感想
なるほど。これは普通の高校生には辛い英文だ♪ 『The Gift of the Magi(メイジャイ)』。今でも授業で使ってる先生、いるのかね?
私が読んだというか、無理やり読まされたのは、高校1年か2年の英語の授業だった気がする。平成ブロガーにとっては、10年くらい前か♪ 同じ作者オー・ヘンリー(O.Henry、米国)の『最後の一葉』の記憶とごちゃ混ぜになってるかも。下は英語版ウィキペディアより。
多分あの先生の授業だったな・・と、名前と顔は何となく浮かんで来る。同級生もみんな忘れてるだろうね。目立たない先生の、目立たない授業(失礼♪)。辞書引きまくりで直訳くらいは出来ても、色んな意味でピンと来ないし、最後のオチの中身も語り口も分かりにくい。唐突な断定に見えてしまう。
教室内は沈んだ空気が立ち込めてて、まるでこの物語の冒頭みたいな雰囲気かも。俗世間の小市民の世界なのだ。
☆ ☆ ☆
さて、この記事を書こうと思ったキッカケは、毎日更新のネタに困ったから(笑)・・ではなくて、朝日新聞で見かけたから(HPの記事はこちら)。19年12月4日の夕刊、「時代の栞」シリーズで、見出しでは「1952年刊の短編集収録」と書いてるけど、それは岩波文庫の翻訳本の出版日付け。下はアマゾンの中古本(価格は1円+送料etc)。
原作は1905年の新聞小説だから、100年以上も前の短編小説だ。現代日本とは全く違う背景のストーリーで、その点に注意する必要がある。貨幣価値だと10倍~20倍くらいの違いか。20ドルは今の日本円で2000円ほどだから、仮に15倍すると3万円。給料や家賃の話を考えても、ほぼ合ってると思う。
下は英語版ウィキペディアより。初版本(1906年)のカバーではないけど、色合いも渋くて分かりやすいイラストだと思う。この絵だけでもう、文章は要らないほど♪ 悲しみを内に秘めた、男女の深い愛なのだ。女性の髪はもうちょっと短くて奇妙な方が話に合ってるだろうけど、イメージ的に美化された姿ということで。。
☆ ☆ ☆
さて、どうして朝日がこの小説や本を選んだかというと、クリスマスの前だからだろう。あらすじはどこにでも書かれてるけど、何も見ずに私自身の言葉でまとめると、次の通り。
─── クリスマス前日の若くて貧しい夫婦。宝物は2つだけ。妻・デラの美しく長い髪と、夫・ジムが祖父から受け継ぐ懐中時計。妻は愛する夫のために、素敵なプレゼントを贈りたいのに、ほとんどお金が無くてしばらく泣く。その後、髪の毛を売りに行ってバッサリ切り落とし、その代金で夫の時計に合う上品なプラチナの鎖を購入。
やがて夫が帰宅。妻の姿を見て、言葉を失う。彼は彼女へのプレゼントとして、長髪に合う高価な櫛(くし)を買ってたのだ。櫛を見て泣き叫ぶデラをなだめた後、今度は彼女がプレゼントの鎖を見せる。するとジムは、櫛を買うために時計を売ったと伝え、行き場を失ったプレゼント2つはしばらくしまっておこうと話す。そして、普通のチョップ(骨付き肉)でクリスマスイブのお祝いを静かに始めた。
ところで、クリスマス・プレゼントの始まりは、生まれたばかりのイエス・キリストに贈り物を持って来た東方の賢人たち(マギ)だった。若夫婦は愚かだったが、最も賢明なのだ。彼らこそ、東方の賢人たちなのである。 ───
☆ ☆ ☆
では、この英語の読みにくさ、難しさを確認してみよう。著者の死後、作品の公開後、いずれも100年経ってるから、著作権は消滅済みで、原文はウィキソースで公開中。日本語訳は青空文庫にあるし、この物語だけならamazonの電子書籍(kindle本)の無料サンプルで全文読めてしまう。
全文が読みにくいけど、最初にハッキリ引っかかるのは上の箇所とか。
「・・人生は、むせび泣き、すすり泣き、そして微笑みからできてる。ただし、すすり泣きが圧倒的に多いけど。
家の女主人が、第一段階から第二段階へと移って行く中・・」
(以下の訳文も含め、私の翻訳)。
要するに、激しくむせび泣きした後、ちょっと落ち着いてすすり泣きに変わる間に、という意味だけど、一読して「stage」(ステージ)が泣き方の種類や段階を表してると理解するのは難しい。私も最初は、意味を保留したまま先に進んだ。そもそも大人の男は滅多に泣かないから、泣き方をレベル分けする発想がない。
☆ ☆ ☆
そんな箇所より遥かに難しいのは、しばらく先の上の箇所。作者本人が「dark assertion」(謎めいた主張)と書いてるほど♪
「週8ドルと、年100万ドル ── その違いは何か? 数学者や才人は、あなたに間違った答を与えるだろう。例の東方の賢人たちは価値ある贈りものを持って来たが、違いの正解は贈りものの中にもない。この謎めいた主張は、後で明らかにされるだろう」。
私は数学好きだから、週8ドルなら年400ドルとすぐ暗算。年100万ドルとの違いは、2500倍♪ これこそ、間違った答の典型か。
一方、聖書に登場する東方の賢人たちが、生まれたばかりのイエスに贈ったのは、黄金と香(乳香:frankincense)と薬(没薬:myrrh)。その中に、週8ドルと年100万ドルの違いの正解なんてあるわけない♪ 下は英語版ウィキソースの新約聖書(米国標準版)、マタイによる福音書・第2章11節。
私の解釈だと要するに、“あの賢人たちでさえ贈らなかった最高のものを夫婦はプレゼントしあった。だから、週8ドルと年100万ドルの違いなんて無いどころか、週8ドルの人生の方が遥かに価値あるものなのだ”、ということだろう。
☆ ☆ ☆
そう解釈してはじめて、物語のラスト、唐突な大絶賛の断言も何とか理解できる。夫婦を愚かな未熟者(foolish children)と呼んだ直後、一転して、最も賢い(wisest)と繰り返して終わるのだ。
「贈り物を与え、受け取る者たちの中で、彼らのような者こそ最も賢明だ。どんな場所でも、彼らが一番賢い。彼らこそ、東方の賢人たちなのだ」。
この直前には過去形で書いてたのに、ここでは現在形。つまり永遠の真理として書かれてる。若夫婦は、自分の最も大切な物を売ってでも相手に素晴らしい贈りものを与えた。つまり、例の賢人たちにさえ(直接的には)見られない、最大の自己犠牲を実行して、お互いの愛を深めたからこそ、最も賢いのだ。
ちなみに、ちょっと似た話が、NHKの人気番組『チコちゃん』で話題になってたが(仏教説話)、あの場合のウサギの自己犠牲は、一般市民にとってはやり過ぎだ♪ 自分が死んでしまったから。それに対して、髪の毛はまた伸びるし、時計もまた買える。もしかすると、質屋から買い戻せるかも知れないから、やり過ぎではない。
☆ ☆ ☆
とはいえ、東方の賢人たちにも、独自の賢明さがある。救世主の誕生をあらかじめ認識したし、贈り物をした後は、キリストの身に配慮して、余計な事を言わなかったらしいから。
結局、東方の賢人たちにせよ、若夫婦にせよ、最も困難で最も価値あることを成し遂げたことになる。だから、共に「the Magi」(賢人たち)なのだ。もちろん、こんな読解や理由の説明は、話題の大学入学共通テストの記述式問題には使えないけど♪
フルマラソンの影響で、いまだにすぐ眠くなってしまうから、私はそろそろ自分に眠りをプレゼントしよう。これこそ、最も賢い贈り物だろう。今現在、個人的には♪ 現代日本の全体だと、朝日新聞の小見出しのように、「相手思う気持ち 多彩に」ということか。特に、無理しない範囲での個人的なプレゼントやお祝いが主流。派手で豪華だったバブル期からは激変した。
ごく一部の超富裕層は、バブル期どころじゃない凄いプレゼントをしてるんだろうな・・とか想像しつつ、ではまた明日。。☆彡
(計 3197字)
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