新型コロナの集団免疫に必要な免疫(抗体)獲得者の割合(閾値)、基本再生産数からの理論と計算式
2019年12月頃から生じた新型コロナウイルス感染症(COVID19)が、20年3月頃から急激に世界的に蔓延。その辺りから、「集団免疫」(Herd immunity)という言葉が時々使われるようになった。herd とは、管理された群れのことで、普通は家畜などを指す。
要するに、集団内の大勢の人々がかかって獲得した抗体によって、さらなる拡大を抑える機能・効果のこと。例えば人口の60%とか70%とかいう数字が挙げられて来た。どうせ非常に大まかな話だから、半分前後と思っておけば問題ない。
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それを政策的に目指すとなると、まだワクチンが開発されてない現在、非常に多くの感染者や死者数を認めることになるので、国民の合意も含め、なかなか難しい。
ただ、最近の様々な調査によると、確認されてる感染者数を大幅に上回る人達が、既にウイルスに抵抗する抗体を持ってるようだ。つまり、いつの間にか(あまり気付かない間に)感染してるということ。あるいは、感染とまでは言わないまでも、ウイルスと接触してるとか。
ということは、今後も感染者や抗体保有者が大幅に増え続けて、特に意図しないまま、集団免疫を獲得できる可能性がある。その前にパンデミック(大流行)が収まる確率の方が高いだろうが、ここで理論と計算を簡単にまとめとこう。
実はいまだに、不正確な言葉遣いが目立つし、具体的な計算式の説明もほとんど見かけないので。これは9年前、東日本大震災の後の放射線被ばく量の時と似た状況。特にマスメディアは、計算式を避ける傾向が非常に強いのだ。
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まず、大阪大学の阪大病院・感染制御部が一般向けに公開してるパンフレットを見てみよう。「I.C.T(感染制御チーム)Monthly no.233」、2015年12月の月報で、インフルエンザに関して説明されてる。
一般向けの説明だからか、前半はやや不正確な表現になってる。「集団免疫率・・・基本再生産数から算出されます」という部分は、正確には、「感染拡大を抑えるための最小限の集団免疫率は・・・」などと書くべき所だ。単なる集団免疫率なら、基本再生産数とは関係ない。全員にワクチンを投与するだけでも、集団免疫率は1に近づく。
基本再生産数R₀の説明も、「一人の感染者から生じ得る二次感染者数」とだけ書いてるが、正確には前置きとして、「免疫も対策も無い状態で」という言葉が必要。要するに、対策なしで、1人の感染者からウイルスを与えられる人数と考えれば分かりやすい(感染するしないは別)。
それを理解して初めて、「実効再生産数」との違いが分かる。実行ではなく、実効(effective)。例えば、基本再生産数が2でも、免疫獲得者や対策が増す中での、実際の二次感染者数は1.5に減ったりする。その時々で変化するこの実際の値が実効再生産数だとすべきなのに、例えばつい最近のロイター通信も、これを基本再生産数と報じてしまってるのだ。
とはいえ、国や組織、時代によって、認識や言葉遣いの違いがあるのは事実で、仕方ないから、その時の言葉遣いがどうなのか注意して区別したい。ちなみに国立がん研究センターの説明も、そこで引用されてる論文も、実効再生産数のことを基本再生産数と書いてるようだ。5月1日の厚労省・対策専門家会議のpdfは、正しく「実効再生産数」の推移を示してる。
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とにかく、1人のインフル感染者から、2人にウイルスがばらまかれるとしよう。集団免疫率50%の場合、ばらまかれた2人の内、1人だけが感染する。だから結局、元の1人の感染者から、別の1人の感染者が生じるだけで、順番で治癒(一部は死亡)していくから、人数的な拡大は一応抑えられるわけだ。
この50%という数字が分からなかったとして、x%とおき、計算で求めてみよう。基本再生産数は2。集団免疫率x%なら、x/100の割合の人が免疫を持ってる。ということは、免疫を持ってない人(=感染してしまう人)の割合は、1-x/100。
2×(1-x/100)=1
∴ 1-x/100=1/2
∴ x/100=1-1/2
∴ x=(1-1/2)×100
結局、x=50(%)。最後の式で、2の代わりにR₀と書いてるのが、阪大の説明の式。英語版ウィキペディアでは、上の導出を一般的な形で表してる(上側3本の式、%は使わず)。ちなみに日本語ウィキは、英語版を翻訳する際に不正確な訳も混ざってるので、注意が必要だ。
上で、Sは免疫を持たない人の割合(当サイトのこの記事では、記号は省略)。pは集団免疫率。pcは、感染拡大を抑える集団免疫率の閾値(しきいち、いきち)。つまり、ギリギリの限界(最小)の値で、これより集団免疫率が上がると、感染は収束して行く。
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では最後に、新型コロナの場合に必要な集団免疫率の計算。基本再生産数は、WHOが感染初期の1月末に1.4~2.5程度と推定。仮に、社会にとって悪い側を想定して、2.5と仮定してみよう。計算方法は同じ。
(必要な集団免疫率)= 1-1/2.5
=0.6
=60%
もし基本再生産数が3と仮定するなら、0.666・・・、つまり67%。よって、余裕をもって考えると、集団免疫率70%が必要とかいう話になる。
下図は、基本再生産数4、集団免疫率3/4(つまり75%)の場合。4人グループごとに1人だけ感染して行く様子。専門誌の論文より。
ちなみに、1-1/R₀、または(1-1/R)×100(%)という公式は、基本再生産数R₀が1以上の時しか使えない。1未満だと、左辺の集団免疫率がマイナスになってしまうので。1未満なら、集団免疫率ゼロでも感染拡大はもともと抑えられてることになる。
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なお、1以下の小数や分数で表される割合と、100以下の整数で表されることが多いパーセント表示との混同もありがちなので、注意が必要だ。例えば、経済産業研究所の説明は、やや専門的な内容にも関わらず、割合とパーセントを混同してしまってる。
「人口のZ%が免疫をもつ」という設定なら、上図の下段の式の1-Zは間違い。正しくは、1-Z/100。
最後に、話は逸れるが、重要な状況で専門家が間違えるくらいだから、小学校の算数で割合とパーセントが混同されがちなのは仕方ない。60「パーセント」を直訳して「100分の」60と言うことにすれば、60/100だから、1以下の割合だけで済む。ただ、今さらパーセント表示をなくすことは無理だから、両方を上手く切り替えるしかない。
ちなみにパーセントとは、「per cent」。つまり、「100あたりにつき」という意味だ。ここでのセントは、貨幣単位ではなく、100という意味。それでは今日はこの辺で。。☆彡
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