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NHKドラマ『太陽の子』の物理学、ウラン235濃縮(遠心分離)と核分裂反応式、熱中性子の断面積の数式

昨夜(20年8月15日)、NHKで放送された終戦記念のドラマ『太陽の子』(GIFT OF FIRE)。放送1ヶ月前に、主要な登場人物の1人、「石村裕之」を演じた俳優・三浦春馬の訃報が届いたこともあって、大きな話題になってる。

   

既に、実在人物としての三浦と裕之が重なるといった感想は、ネット上で無数に流れてるので、ここではほとんど誰も書かないような科学的な話を書くことにしよう。

  

このドラマのメイン・キャストである石村修(柳楽優弥)は、京都大学で核物理学を専攻する学生(実在モデルは不明)。実在した物理学者・荒勝文策(國村隼)の元で、原子爆弾(「太陽」、FIRE)の開発に取り組む様子を映す中で、多数の物理的な要素が入ってた。解読できた範囲だけでも、まとめとこう。

       

日本における原爆開発としては、大日本帝国陸軍の「二号研究」(理化学研究所・仁科芳雄ほか)の方が有名だと思うが、ドラマが扱ったのは、もう1つの研究。大日本帝国海軍の「F研究」。Fは、Fission(核分裂)の頭文字か、六フッ化ウランのフッ素の元素記号Fか、よく分からないようだ(日本語ウィキペディア)。

  

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上は、タイトルロールの取材協力3人の1人として名前が出てた、京大名誉教授・政池明の研究書『荒勝文策と原子核物理学の黎明』(京都大学学術出版会)。画像はamazonより。目次を見るだけでも、本格的な内容だと分かる。2018年だから最新レベルか。442ページ、5280円。

      

   

     ☆     ☆     ☆

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修が苦労して窯焼き工房から手に入れてたのが、上の「硝酸ウラン」。今だと普通は「硝酸ウラニル」と呼ばれてる物質で、化学式は、UO₂(NO₃)₂ 。これを修のために手に入れようとした、工房の和風美人の娘さんが亡くなったから、骨の灰のイメージにもなってる。だからこそ、仲間の失礼な発言に対して、修は激怒してた。

      

構成要素の原子記号は、ウラン(U)、酸素(O)、窒素(N)。簡単に言うと、ウラン以外は、空気みたいなもの。ここから、ウラン燃料の原料の代表である6フッ化ウランが作られる。下は原子力百科事典ATOMICAのサイトより

   

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第1式で、UO₃(三酸化ウラン)を作成。

第2式で、H₂(水素)と反応させて、UO₂(二酸化ウラン)を作成。

第3式で、HF(フッ化水素)と反応させて、UF₄(四フッ化ウラン)を作成。

第4式で、F₂(フッ素)と反応させて、UF₆(六フッ化ウラン)が完成。

  

   

     ☆     ☆     ☆

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同じ「ウラン」(原子番号92、陽子92コ)の中でも、中性子の数だけ違う「同位体」が色々ある。天然ウランの99.3%は、U238(陽子92コ+中性子146コ)。0.7%だけが、核分裂を起こすU235(陽子92コ+中性子143コ)

  

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ちなみに上図は私が作ったものだが、元素記号Uの左上に質量数(陽子数+中性子数)、左下に原子番号(陽子数)を書いた図は、専門的なサイトだとほとんど見ない。左下の92は省略されてるのだ。当たり前だからか、あるいは質量数だけに注目するということか。

  

  

     ☆     ☆     ☆

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天然では僅かなウラン235の割合を高めるのが「濃縮」。京大では、理研(理化学研究所)とは違う「遠心分離法」を選択。円筒の中で超高速回転させて、重いU238を外側に、軽いU235を内側に集める方法。

  

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ただ、計算上は毎分10万回転が必要で、戦時中には実現できなかったようだ。黒板で、毎分回転数をNとして、N=10⁵(=10万)を導いてたが、今のところ数式は解読できてない。最後の式だけは判読できた。

  

N=・・・=10×5×10⁴ / r₀ で、「r₀=5cmト仮定」すると、N=10⁵

     

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遠心分離機は、0(ゼロ)、A、Bと進化する様子が描かれてた。実在した物と対応してるのかどうかは不明。

   

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     ☆     ☆     ☆

荒勝が「Atomic Bomb」(原子核爆弾)と黒板に書いた時の左側には、核分裂反応式と図が書かれてた。

   

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団子みたいなウラン235に、左から中性子nを衝突(吸収)させると、一旦、ウラン236になった後、多数の核分裂反応が起きる。その内の代表的な2種類だけ書かれてた。

  

 235U92 + n → 236U92 → 核分裂

→ 144Ba56 +89Kr36 + 3n (バリウム144、クリプトン89、中性子3コ)

→ 95Y39 + 139 I 53+2n (イットリウム95、ヨウ素139、中性子2コ)

   

どちらの分裂でも、高速の中性子が2~3コ飛び出して、さらに次の核分裂が発生。これが続いて行くのが核分裂連鎖反応。下図はエネルギー総合工学研究所HPより引用。ちなみにこの連鎖反応を制御して、熱エネルギーを取り出すのが、平和利用の原子力発電

  

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    ☆     ☆     ☆

最後に、1945年8月6日の朝、広島に原爆が落とされた後、荒勝が鉛筆で書いてたメモ。化学反応式に見えるが、あれは数式。あそこだけ見るなら、数学・算数の足し算で、米国大統領トルーマンが英語で演説するのをラジオで聴きつつ、「廣島」と旧字の漢字で記してた。

        

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σ u c = σ u f  +σ u a

   = (4.0 ± 2.1)× 10 ⁻²⁴ cm²

σ u a =(1.1 ± 2.1)× 10 ⁻²⁴ cm²

廣島 one bomb(?)

   

この式は、例の政池氏のpdfファイルにそのまま載ってた。「熱中性子によるウラン原子核の分裂・吸収断面積の測定」という項目。

   

ご本人が作ったファイルではないかも知れないが、入力ミスらしきものが2つある。まず、α(アルファ)とa(エー)の混在。たぶん、aが正しい。あと、面積の単位cm²の「²」が抜けてる。科学者も簡単なミスがあるということだ。

   

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σ u c : シグマ・ウラン・キャプチャー。熱中性子のウランによる捕獲(capture)断面積

     遅い中性子が、どのくらいウラン原子に当たるかを表す量。

σ u f : シグマ・ウラン・フィッション。熱中性子によるウラんの核分裂(fission)断面積

     遅い中性子が、どのくらいウラン原子に当たって核分裂を起こすかを表す量。

σ u a : シグマ・ウラン・アブソープション。核分裂を伴わない熱中性子吸収(absorption)断面積

     遅い中性子が、どのくらいウラン原子に当たって核分裂を起こさないかを表す量。

  

意味を考えれば、σ u c = σ u f  +σ u a は当たり前だが、その後の数値を正確に求めたのが荒勝の功績らしい。この理論的な数値をどう利用するのかは不明。爆発の威力、速度、確率、爆弾の大きさなどの計算につながるのだろうと想像する。

   

  

     ☆     ☆     ☆

他にも、アインシュタインらの顔写真と共に、有名なE=mc²を変形した式などが登場してた(質量とエネルギーの等価性)。

   

とりあえず、今日はもう時間切れ。物理や数学など分からなくても、心にしみる感動的で印象的な作品だった。なお、今週は少なめ、計13523字で終了。また来週。。☆彡

  

   

   

cf. 鴨長明『方丈記』と座布団、三浦春馬にたむけるラブコメディー~『カネ恋』第1話

 方丈記「かむなは小さき貝を好む」、『カネ恋』第2話に合わせた意味と現代語訳&プチジョグ

 方丈記「いかにいはむや、常に歩き」、『カネ恋』第3話に合わせた意味と現代語訳&プチジョグ

 方丈記「猿の声を聞いて 涙をこぼす」(原文「猿の聲に袖をうるほす」)、『カネ恋』最終回SPに合わせた意味と現代語訳

       

      (計 2782字)

    (追記184字 ; 合計2966字)

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