健康主義(ヘルシズム)vs「人間にとって大事なもの主義」、どちらが新興宗教か?(医師・大脇幸志郎)
先日の朝日新聞・朝刊(20年10月10日)に、ちょっと面白いインタビュー記事が載ってた。普通の考えに反論するシリーズ企画、「異議あり」。今回は、「健康」という強敵への批判。朝日デジタルではこちらの記事。
「健康になれ」 人生も社会も窮屈にさせる
暮らしの歴史・文化を軽視する「現代の宗教」 本当に大事なもの選んで
「不健康でもいい」と唱える医師 大脇幸志郎さん(36)
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この長い記事で一番、面白かったのは、朝日新聞のわりと優秀な女性記者として名前を覚えてた岡崎明子が、肉好きだけど野菜は嫌いと書いてたことだ♪ そこか! ちょっと美魔女系でもある・・とか書くと、ルッキズム(外見主義)とか一部の人達に批判されるから止めとこうか。
真面目な話、岡崎記者は朝日の健康・医療サイト「アピタル」の編集長らしいから、「医者の不養生」に近い面白さがある。そしてそれは、インタビュー相手の大脇医師についてもそうなのだ。「医者の不健康」を前面に押し出されてるから。
中心的な主張は非常にシンプルで、健康より大事なものがある、健康が一番とは限らない、ということ。
今の時期だと、それはホリエモンとかトランプとか、コロナに対する反・自粛主義、反マスク主義の主張に聞こえるわけで、そういった側面は本人も認めてる。ただ、彼がその種のことを主張してたのはコロナの前からだし、世界的に見ても、数十年前から同種の議論はあるらしい。
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彼が今年翻訳した著作が、シュクラバーネク『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(生活の医療社)。英語版もかなりマイナーなようで、手に入れにくい状態になってた(amazon)。
日本の翻訳の出版社は、4年前に出来たばかりの社員2人の小さな会社らしい。大脇との関連は不明だが、本人の著作もここから出てるので(後述)、かなり深い関係なのは確実。
その点を調べようとしたら、Wikipediaの議論(ノート)経由で、意外な情報もヒット。彼は元々、東浩紀の会社「ゲンロン」の社員だったのだ。賛否両論ある福島第一観光地化計画にも関わってるようで、Facebookには、2012年~15年がゲンロン、その後は株式会社メドレーと書かれてた。
東大医学部出身という目立つ経歴は、英語で書いてる。一応書きたいけど、あまり伝えたくもない、微妙な情報ということか。実際、朝日は、ゲンロンという社名も東大医学部出身という経歴も書いてない。
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朝日の記事に添えられた参考情報の「健康増進の歴史」によると、意外と健康主義の歴史は浅いようで、1946年のWHOによる健康の定義に始まるとのこと。
「健康とは単に病気でない、虚弱でないというのみならず、身体的、精神的そして社会的に完全に良好な状態を指す」。
「完全に良好」とか、ちょっと理想主義的な言葉で、時期的なものを考えても、確かに「新興宗教」に似たものは感じる。その善悪はさておき。
新興宗教という言葉は、新しく流行ってる考えや行動パターンを否定的に語る時に使われることが多いが、もちろん、必ずしも悪いものとは限らない。健康主義=新興宗教=オウム真理教=一般社会の敵・・みたいな短絡的な発想の方が、遥かに問題だろう。
大脇はまだ36歳で、受験勉強の秀才、エリートということもあるのか、ちょっと単純すぎてミスリーディングな(誤解を招きやすい)言葉遣いや論法もある。あるいは、本当に微妙な怪しさも感じて、危なっかしいとも思う。国家という存在やナチスの扱いとか。記者による要約、まとめ方の問題はあるとしても。
ただ、よく読めば、少数派とはいえ、一理はある主張なのだ。インパクトのある題名の著書『「健康」から生活を守る』(生活の医療社)でも、インタビューとは違って根拠(エビデンス)のようなものを示しながら、医学的情報と共に真面目に語ってた。電子書籍キンドルの無料サンプルより。目次もかなりお堅い硬派。
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本人が重視してる、タバコの例を考えてみよう。彼も吸わないらしいし、私も全く吸わない。もっと言うと、タバコの煙と臭いは嫌いだ。煙が目にしみるのがイヤで、行かなくなった場所さえある。
ただ、最近のタバコや喫煙者に対する社会的な圧力が行き過ぎではないかと思ってる点では、たぶん一致する。私の職場でも、今ではタバコは完全に少数派となってるけど、一人の同僚は隠れるようにして細々と吸ってて、ちょっと気の毒になるほど。あるいは別の喫煙者は、真っ向から最近の社会に反論してる。多勢に無勢、不利な状況で苦戦しながら。
タバコその他を好むことで、直接的に周囲に迷惑をかけることもあるし(受動喫煙など)、やがて病気で保険制度や家族に迷惑をかけることもあるだろう。
しかし、「生活をつまらなくしてまで、健康第一の生き方でいいのでしょうか。人はだれしも、健康より大事なものを持っています」、「健康は大事だけど、常に一番ではないかもしれない」(朝日)。
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こうした主張を、この私の記事タイトルでは、「人間にとって大事なもの主義」と書いておいた。より正確に言うと、「自分にとって大事なもの主義」に近い。
もちろん、大事なものは一つとは限らないし、時と場合によっても変化しうる。代表的なものを挙げると、命、健康、家族、愛、お金、楽しみ、趣味とかだろう。大事なものが分からない場合でも、これは違うというように、否定的に絞り込んでいくことなら可能。
それらを総合的に判断することを、大脇は「綱引き」と呼ぶ。タバコや酒が、楽しくて趣味だとしても、命や健康が少し(確率的に)失われて、家族に迷惑をかけて、家族との愛情関係も薄れるのなら、どこかで妥協点を見出す必要がある。例えば、タバコ1日10本までとか、吸う時は家の外、職場の外に出るとか。あるいは、ビール1日1缶とか。
こうしてみると、健康に気を使うというのは、周囲とも折り合いを付けやすいし、お金もそれほどかからず、生活全般の改善に関わる、かなり良い妥協点なんだと思う。
別に、本物の新興宗教みたいに礼拝対象やバイブル的書物、教会みたいなものがあるわけでもないし、ちょっと変な目で見られることもない。強制的な寄附金や儀式もないし、「あの人、健康に気を付けてるんだって」とかいうヒソヒソ話もないのだ♪
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私はそもそも、人間は「一番大事なもの」を決めて、それを基準に生きる存在ではないと考えてる。もっと適当で、単なる慣習、習慣にも左右される。
例えば今、私はブログを書いてるが、これは今現在の時点でも、一番大事なものではない。今、この瞬間に一番大事なものは多分、仕事だ♪ コラッ!
にも関わらず、ブログを書いてしまうし、それが悪いともあまり思ってない(多少は思う)。良いとも思ってないけど、書く。理由、動機、原因などがハッキリしてるわけではない。なぜかというのは、複雑で微妙な話なのだ。
私自身は、新興宗教という言葉をネガティブに使うことはほとんど無いし、迷信という言葉もあまり使わない。でも、もし使うのであれば、むしろ、「人間にとって一番大事なものがあって、それを自分で理解できて、それを軸に生きるべきだ」、というような主張の方が、新興宗教や迷信に近いだろう。
では、このくらいで妥協して、仕事に戻るとしよう♪ ちなみに私のブログにも自主規制があって、週間15000字以内と決めてるのだ。絶対に守るとは限らないし、周囲からの圧力も(あまり)無いけど、適度で快適な線引きのラインだと思う。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
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