方丈記「猿の声を聞いて 涙をこぼす」(原文「猿の聲に袖をうるほす」)、『カネ恋』最終回SPに合わせた意味と現代語訳
(☆追記: 21年1月8日、新しい記事をアップ。
テレビ未放映、『カネ恋』幻の第5話~第8話における『方丈記』の引用と意味(大島里美『シナリオブック』) )
☆ ☆ ☆
三浦春馬の死という「ほころび」を見事に「つくろった」TBSドラマ、『おカネの切れ目が恋のはじまり』。鴨長明『方丈記』をこれほど巧みに引用した作品は初めてだろうし、もう今後も二度と現れないと思う。
特に、脚本の大島里美と主演(ヒロイン)の松岡茉優は素晴らしかった。少なくとも最終話のラストシーン辺りは、三浦の自殺(or自死)の後に撮影してるはず。心情的な重圧、プレッシャーが大変だったと思う。
方丈記の説明の前に、ラストを画像付きで解説しとこう。ちなみに過去の3話の記事は以下の通り。
鴨長明『方丈記』と座布団、三浦春馬にたむけるラブコメディー~『カネ恋』第1話
方丈記「かむなは小さき貝を好む」、『カネ恋』第2話に合わせた意味と現代語訳&プチジョグ
方丈記「いかにいはむや、常に歩き」、『カネ恋』第3話に合わせた意味と現代語訳&プチジョグ
☆ ☆ ☆
「とても長旅だったから 疲れましたね」
疲れて突然眠ってしまったペットの猿彦(ロボット・サルー)を、やさしく抱き締める玲子(松岡)。まさか、三浦の代役としてこれほど活躍するとは、ロボットのAIでも予測できなかったはず。
しかし眠りの後には、目覚めがやって来る。ラストは予想通り、三浦春馬が帰って来た。姿は見えないまま、風のように玄関の扉を開けて。玲子は頷いて、笑顔で迎える。本編はここで終了。演出は平野俊一。
そして、再現映像の上に、最後まで見て頂いてありがとうございますとかテロップを入れて、最後の映像は、相合傘。台詞もキレイに決まってた。
帰りますよ ♪
帰りますか ♪
その後は、三浦の笑顔ですべて終了。過去形や完了形じゃなくて、現在形・未来形の言葉で、
春馬くん ずっと大好きだよ (キャスト・スタッフ一同)
三浦春馬さんのご冥福をお祈りしますとか、どうぞ安らかにとかじゃなくて、「春馬くん」。日常的な愛情表現で挨拶してるのが、いいね♪
初回の記事で指摘した、猿の小皿用の座布団=敷物にも、慶太の手作りの小皿が飾られた。欠如=不在の象徴が、存在=帰還の象徴へと変わってた。
☆ ☆ ☆
本格的なレビューを書く余裕はないので、そろそろ方丈記に入ろう。最終回は何かヒネって来るだろうと思ってたけど、このヒネリは斬新だった。
まずドラマ冒頭、夜明けシーンでの引用は、ちょっと平凡な使い方。引用箇所も、予想通り、方丈記の一番最後の辺り。
静かなる暁(あかつき)、 このことわりを思ひつづけて、みづから心に問ひて曰(いわ)く
(静かな明け方に、この修行みたいに質素で孤独な隠遁生活の理由を思い続けて、自分の心にたずねてみる。)
世をのがれて、山林にまじはるは、心を修めて、道を行はんとなり
(世間から隠れるようにして、自然に包まれた狭い部屋で暮らしてるのは、心を整えて正しい道を進むため。)
しかるを、汝(なんじ)、姿は聖人にて、心は濁りに染めり
(それなのに、玲子、あなたは外見だけ悟ったようなフリをして、内心はドロドロに濁ってるでしょ。慶太さん(三浦)とのキスのことばかり思い出して。)
原書のくずし字はいつものように、国立国会図書館デジタルコレクション、『鴨長明方丈記』(鴨長明学会)より。慶長7年(1602年)の転写本(手で書き写してる)。
玲子だけじゃなく、慶太も悶々としてたけど、彼は急にどこかへ出かけてしまって姿を見せない。オモチャ会社も無断欠勤。最後の時点では、この辺りまで撮影してたわけか。
で、大幅に脚本を変えて、慶太の代わりにロボットペットの猿彦と板垣(北村匠海)を前面に出したと。父・富彦(草刈正雄)と母・菜々子(キムラ緑子)も同様。
視聴者としては、彼らの向こう側、あるいは、すぐそばに、常に三浦を見ることになる。心眼、心のまなざしで。。
☆ ☆ ☆
一方、終盤の方丈記の使い方はヒネリが効いてて、思わずリアルタイムで笑顔になった♪ わかりやすい現代語訳で、少し前の部分を引用して来たのだ。しかも、ブロガー泣かせのバラバラの映し方で♪ トリミング(部分カット)した5枚の映像を合成するハメになった。
静かな夜は月を見る。猿の声を聞いて 涙をこぼす
(方丈記の原文: もし夜しづかなれば、窓の月に故人を忍び、猿の聲に 袖をうるほす)
(ドラマ版の現代語訳: 静かな夜にはキレイな月を見て、今は亡き三浦春馬さんの姿を思い出す。慶太さんの声を聞いて、涙をこぼす。)
まるで篝(かがり)火みたいに 草むらには蛍が飛び交い 夜明け前の雨は 風に舞う 木の葉に 似ている
(方丈記の原文: くさむらの蛍は 遠く眞木の島の篝火にまがひ、暁の雨は、おのずから木の葉吹くあらしに似たり)
(ドラマ版の現代語訳=超訳: 草むらの蛍を見ると、遠くから春馬さんの魂が帰って来たみたい。私はずっと涙を流して心も乱れてたけど、いつの間にか再び夜明けが来た。あなたも再び帰って来るのかも。。)
☆ ☆ ☆
この最後の「超訳」は、方丈記の原文からはちょっとズレてるけど、ドラマでの使い方から私が解釈したものだ。
実際、この引用文のテロップは夜の場面で映されて、一匹の蛍が小皿や玲子のもとに飛んで来た後、夜が明ける。そして、春馬=慶太が風のように帰って来たのだ。玄関の戸を開けて、玲子の髪をなびかせて。。
全4話の最後になって、ようやく「猿」へのこだわりの意味が分かった気がする。しかし、方丈記の猿に注目したということは、三浦の訃報の後ということか。あるいは、奇跡のような偶然なのか。脚本家や制作スタッフの説明を聞いてみたい気がする。
ともあれ、主演2人をはじめとして、皆さん、どうもお疲れさま♪ 前例のない事態の中、素晴らしい作品を見せてくれたことにあらためて感謝。良きイカめし、亡き三浦春馬に祈りを捧げつつ、それでは今日はこの辺で。。☆彡
P.S. アクセスが多いので、方丈記の全体(青空文庫)の中でどこが使われてたのか、冒頭から最後まで8枚の図で示した。赤線の枠で囲んだ部分が、各回の引用箇所。青線は、全体と関わる部分(当サイトの第1話レビューで指摘)。
P.S.2 10月20日発売の『お金の切れ目』シナリオブック(カドカワ)には、幻の5話以降の脚本も収録されてるとのこと。
P.S.3 10月23日、シナリオブックを拝見。ネタバレによる営業妨害はなるべく避けたいので、しばらくブログ記事には書かない予定。ネット通販で購入しようと思ってる方は、大きな写真入りの帯の有無にご注意あれ。
他に、初版のまえがきには執筆者であるプロデューサー・東仲恵吾の名前を入れ忘れてる。重版以降で訂正の予定(kadokawaのサイトで告知)。
cf. NHKドラマ『太陽の子』の物理学、ウラン235濃縮(遠心分離)と核分裂反応式、熱中性子の断面積の数式
(計 2537字)
(追記308字 ; 合計2845字)
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コメント
分かりやすい解説ありがとうございます!
投稿: 素晴らしい | 2020年10月10日 (土) 08時41分
> 素晴らしい さん
はじめまして。お褒めの言葉、ありがとうございます。
最初はもっと短い記事でしたが、多くのアクセスを
頂いてたので、かなり補足しました。
まさかの事態の中、素晴らしいドラマだったと思います☆彡
投稿: テンメイ | 2020年10月11日 (日) 03時07分
春馬さんが亡くなることが必須の方丈記だったのですか?
投稿: | 2020年10月11日 (日) 18時18分
> 名無しさん
はじめまして。質問コメント、どうもです。
まだ撮影情報が少ないのですが、亡くなる前に、
方丈記と猿への注目は決まってたでしょう。
すると、猿の声の話の直前に「故人」という言葉が
あるわけで、かなり奇跡的な偶然ですね。
ただ、猿が死んだとは書いてないので、
元の脚本で慶太が死んでたかどうかは分かりません。
10月20日にシナリオブックが発売されるので、
それを読めば色々と分かるかも知れませんね。
なお、当サイトはコメントに名前を求めているので、
よろしくお願いします ☆彡
投稿: テンメイ | 2020年10月12日 (月) 02時05分