戦前の東京大学(旧制・第一高等学校)の数学の入試問題2~代数、昭和11年(1936年)
クイズ番組を中心に、不思議なほどの東大ブームが続く令和の今、先日に続いて、戦前の東大(第一高等学校)の数学の入試問題を紹介しよう。昭和11年、1936年の入学試験での出題で、前回の幾何(図形)に続いて、今回は代数。整数の2元2次・連立方程式。
わりと大きくて重そうな弾丸を人力で運ぶ問題だから、現在だと出題しにくいはず。兵隊とか軍隊、戦地とまでは書いてないけど、戦前ならではの実用的な整数問題だ。
数十年、数百年前の資料を、一般人が手軽にネットで見れるようになってから、まだ10年~20年くらいか。言葉の問題もあって、せっかく無料公開されてる資料はまだまだ利用されてないどころか、閲覧が全く追いつかないほど次々に情報公開されてる。
お金も手間ひまもかかってる作業だから、少しずつでも利用して行きたい。使わないままだと、デジタル化の勢いも失われてしまうはず。
なお、1本目の記事は次の通り。
戦前の東京大学(旧制・第一高等学校)の数学の入試問題~幾何、昭和11年(1936年)
出典は同じで、『高等学校・専門学校・大学予科入学試験問題詳解 昭和11年度』、欧文社(今の旺文社) 。国立国会図書館デジタルコレクションにて公開中。あえて、画像処理でキレイに修正することは避け、元の古めかしい画像のままで引用。
☆ ☆ ☆
6. 弾丸若干個を人夫若干名にて某地へ運ぶに各人各回同数ヅツ運び往復9回を要するものとす。もし人数を7名増し各人毎回の運搬数を20個減ずれば8回にて了るべく、又人数を4名減じ各人毎回の運搬数を10個増せば10回を要すべしといふ。人夫の数及び弾丸の数を問ふ。
(現在の日本語に直した問題文) いくつかの弾丸を、何人かで、ある地点まで運ぶ。各人が各回、ある一定の数を運ぶなら、往復9回かかる。もし人数を7名増し、各人の毎回の運搬数を20個減らすと、8回で終わる。また、もし人数を4名減らして、各人の毎回の運搬数を10個増すと、10回を要する。もとの人数と、弾丸の総数を求めよ。
☆ ☆ ☆
解答 (私が作成)
もとの人数をx人、もとの1人1回あたりの運搬数をyコとすると、xは4以上の整数、yは20以上の整数で、条件より、
9xy=8(x+7)(y-20)
9xy=10(x-4)(y+10)
∴ xy+160x-56y+1120=0 ・・・①
xy+100x-40y-400=0 ・・・②
①-②: 60x-16y+1520=0
∴ 15x-4y+380=0 ・・・③
不定方程式③を満たす1組の解として、(x,y)=(4,110)がすぐ見つかるので、
15×4-4×110+380=0 ・・・④
③-④: 15(x-4)-4(y-110)=0
∴ 15(x-4)=4(y-110) ・・・⑤
もとの条件である①かつ②は、②かつ③と同値(つまり必要十分)であり、③と⑤は論理的に同等の数式。
結局、条件式は、②かつ⑤と考えてよい。ただし、xは4以上の整数、yは20以上の整数。
⑤の右辺は4の倍数だから、左辺も4の倍数。よって、xは4の倍数のはず。そこで、⑤にx=4,8,12,・・・を代入してyを求め、そのxとyで②が成立するかどうかを調べる。
x=4,y=110 ②は不成立
x=8,y=125 不成立
x=12,y=140 不成立
x=16,y=155 不成立
x=20,y=170 不成立
x=24,y=185 不成立
x=28,y=200 成立
(28×200+100×28-40×200-400=0)
x=32,y=215 不成立
x=36,y=230 不成立
ここで、②を変形すると、(x-40)(y+100)=-3600
両辺の符号はマイナスだから、x-40<0 ∴ x<40
よって、x≧40の場合はすべて不適で、これ以上、代入して調べる必要はない。
したがって、x=28,y=200であり、
もとの人夫は28人。 ・・・(答)
また、弾丸の総数は、
9xy=9×28×200
=50400個。 ・・・(答)
☆ ☆ ☆
現在だと、この種の問題の条件は不等式のことも多いけど、ここでは等式になっている。2変数で等式2本の整数問題(連立方程式)だから、簡単そうにも見えるけど、弾丸の個数が多いので意外と面倒。
その点を考えると、本の模範解答(下図)のように、代入法で1文字消去した方が良いかも知れない。ただ、私としては、現在の不定方程式の解き方を応用する方法を選択した。整数問題では、因数分解や、具体的な数の代入が有効なことが多いので。「研究」と名付けられた解説を読むと、計算練習や計算能力の大切さが強調されてた。
なお、上図で、「(3)ニ代入」が「(3)代入」と書いてあったり、「28」が「3」に見えたり、「50400」が「50 00」に見えたりしているので、念のため。
負(マイナス)の数のことを「原数」と書いてるのは、おそらく「減数」の誤植だと思うけど、この言葉を検索してもなかなかヒットしない。古すぎる言葉だからか、あるいは、この解答作成者の独自の言葉づかいなのかも。
以前の海軍兵学校の問題も含めて、100年前の受験生たちも優秀だったことが実感できたし、数学の基本は不変だとあらためて確認できた。それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2142字)
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コメント
この記事もすごくいいです!!
投稿: gauss | 2020年10月 4日 (日) 01時48分
> gauss さん
度々コメントどうもです。また入力成功しましたか。
そのパターンのシンプルな誉め言葉は
入力できるようですね。
僕の設定ではないので、念のため♪
この記事は最初、解答の後半で②と書くべき所を
③と間違っていました。
最近、記事を書き終えた後、すぐ読み返して
チェックするのが面倒になっています。
知的な持久力が衰えて来てるかも。
「間違って」、「面倒」、「衰え」。
ネガティブな言葉を3つ挿入したコメントの
入力が成功するかどうか、試しに実験。
すると・・・成功。
昔は、どんな入力でもこちらに非公開で通知
されてましたが、システム変更以降、ある種の
言葉が門前払いで拒否されてるようです。
まあ、禁止ワードだけのトラブルではありませんが、
僕のこのコメントと直前のコメントは、普通に
入力成功してるので、今後のご参考にどうぞ♪
で、確認ボタンを押してみると、オォッ!
やはり、わりと長い文章でも送信可能になったのかも ☆彡
投稿: テンメイ | 2020年10月 5日 (月) 13時29分