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コロナワクチン(vaccine)の有効率(efficacy)の計算と意味、有効性(effectiveness)との違い

ファイザー(Pfizer)とビオンテック(BioNTech)が2020年11月9日に行った、コロナ(Covid-19)のワクチンの発表で、世界が妙に熱狂している。

   

特に、株式市場は暴騰に近い上昇で、米国大統領選挙がほぼ決着した直後の勢いがあるとはいえ、まるでいきなりコロナが絶滅して、さらに他の多数の問題も一気に解決したような反応だ。

   

   

     ☆     ☆     ☆

私は第一報のニュース記事をあちこちで読んで、色々な疑問を持った。特に、「90%の感染防ぐ」(ブルームバーグ)とか「9割超に効果」(ロイター)といった数値の計算と意味。

   

ワクチン接種で9割の人に効いたとして、1割は効かないということ。しかし、もともとワクチンなど関係なく、感染率(正確には感染確認率)は1割より遥かに小さい。

  

もし素朴に(間違って)考えると、9割に効くコロナワクチンに価値はない。ということは、この9割の計算方法がポイントのはず。

  

100人に接種して90人が感染しない、という(当たり前の)事ではないはずだ。

   

  

     ☆     ☆     ☆

ネットで調べると、情報は色々あるものの、ワクチンの「有効率」と「有効性」について英語と具体的計算、発表をまじえて明快に説明したサイトがなかなか見当たらない。そこで、私が書いてみよう。日本語と英語の出典を明記、リンクも付けてある。

  

先に簡単に結論だけ書くと、

 ワクチン無しの時と比べて、感染者を9割減らせる

という意味だ。

  

ワクチン無しの時と比べて、10分の1になる。あくまで、ワクチン無しの時と比べた相対的な割合の話。

    

日本なら、現在までの感染者数10万人を1万人まで減らせるということ。世界なら、5000万人を500万人に減らせた。もし、今年の1月に2回接種していたなら。。

   

    

     ☆     ☆     ☆

まず、ファイザー&ビオンテックの発表の英語原文を確認しよう。多くのネット記事は、そこへのリンクさえ付けてないので、探すのが面倒だった。

   

以下は、ファイザー英語サイトのニュース記事に付いてたリンク先の発表。まだ正式な査読済み論文はないらしい。

  

201110a

   

ファイザーとビオンテックは、第3相(フェーズ3)の研究の最初の中間(暫定)解析で、COVID-19に対するワクチンの候補が成功を収めたと発表。

   

本文の最大のポイントは次の一文。

  

201110b

   

ワクチンを接種した被験者と、接種してない被験者の間において、ワクチン有効率(vaccine efficacy rate)が90%を超えることが示されている。

  

ちなみに、接種してない人には、代わりに単なる偽薬(プラセボ)が投与されてる。というのも、もし片方のグループだけ何も接種しないと、接種した人としない人の間で心理的な違い(プラセボ効果)が生じてしまうからだ。

  

有名な、「プラセボ対照試験」の形。ワクチンを接種されたグループは「治療群」、偽薬を接種されたグループは「対照群」と呼ばれる。

   

  

     ☆     ☆     ☆

さて、このワクチンの「有効率」(efficacy)。医師の多く(ほぼ総て)も誤解してるという厚労省関連の説明があった。インフルエンザワクチンに関する2017年の資料より。

   

201110c

    

例えば、接種してない人の20%が感染症にかかって、接種した人の6%がかかったとする(上図の赤いマーク)。相対的には、接種した人は、感染リスクが6/20になってる。つまり、0.3。これを「相対危険」(relative risk)と呼ぶ。

   

あるいは、接種してない人の10%がかかって、接種した人の3%がかかったとする(上図の青いマーク)。この場合も、3/10=0.3が相対危険。

  

すると、相対的には、1-0.3=0.7だけ危険が減ったことになる。これを、「有効率」70%と呼ぶ。式全体は、

  

(ワクチン有効率)=1-(6/20)

        =1-0.3

        =0.7

        =70%

    

これは、100人に接種して70人が感染しないという意味ではない。どのくらい感染率を下げたのか、その減少率のことだ。

  

ワクチンなしだと、100人中の20人が感染。ところがワクチンによって、100人中の6人感染へと減ったわけだ。

   

   

     ☆     ☆     ☆

医学(疫学)の論文も、pdfファイルでチェックしてみよう。原めぐみ他、「ワクチン疫学研究の原理と方法」(日本衛生学雑誌、2013年)より。

 

201110d

   

下側の式が、前述の厚労省の例の計算。  

(1-接種者の発症率/非接種者の発症率)×100 (%)

   

一方、上側の式で、前述の感染者20%が6%に低下した場合の有効率を計算すると、

{(非接種者の発症率-接種者の発症率)/非接種者の発症率}×100 (%)   

(20-6)/20×100=70(%)

  

確かに同じ値、70%が有効率となる。数学的にも、式変形してるだけだから、当然同じ。

     

有効率は、管理された実験・観察研究に使う概念。一方、有効性(effectiveness)というのは、広く社会(全体)で統計的に求めるもので、計算式は同じでも、もとになる数値データが異なるし、計算結果も(多少)異なることになる。

   

   

     ☆     ☆     ☆

念のため、英語版ウィキペディアの「vaccine efficacy」の項目も参照しておこう。

    

上の論文と同じことが書かれてるし、出典とする英語論文も同じだった。ワクチン有効率は頭文字で「VE」と略されてる。相対危険が「RR」で、VE=1-RR。

     

201110e

    

いずれにせよ、ワクチン開発もコロナとの闘いも、まだまだこれから先が長い。「コロナと共に」(ウィズ・コロナ)が、「コロナとワクチンと共に」(ウィズ・コロナ&ワクチン)にはなるかも知れない。

  

しかし、完全な「コロナ無し」(ウィズアウト・コロナ)にはもう戻れないのだ。少なくとも数年、おそらく数十年の間は。それでは今日はこの辺で。。☆彡

   

       (計 2344字)

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