『レッドアイズ』第7話のバルザック引用「孤独はすばらしいが・・人が必要だ」は、半ば間違い(フランス語出典付)
ドラマ『レッドアイズ』で前回(第6話)、ソルジェニーツィンの引用なんてお堅いものが登場。ひょっとして、また・・と思って、第7話もTVer動画で流し見したら、今度はバルザックが登場。同じく終盤、事件が一段落ついた直後だった。
孤独はすばらしいが、孤独はすばらしいと言ってくれる人が必要だ
オノレ・ド・バルザック
☆ ☆ ☆
先に、結論から簡単にまとめとこう。これは半ば間違いだ。大間違いとまでは言わないけど、少しの間違いとも言いにくい。
まず、人物を誤解してる。オノレ・ド・バルザックは上の写真で、ドラマの間違い。正しくは、同じフランスのバルザックではあるけど、全く別人のジャン=ルイ・ゲ(ズ)・ドゥ・バルザックの言葉。下図の写真が本物で、これは単純な凡ミス。
ネットで少し調べるだけで分かることだから、脚本家・福田哲平や演出家・長沼誠だけの責任ではない。あと、内容も多少ズレてる。単純化して強調してるのだ。
要するに、原文やフランス語・英語情報を調べずに、日本語の名言サイトとか名言本みたいなものを軽く調べただけで書いてると思われる。よくある事だが、地上波テレビのゴールデンタイムのドラマだから、もう少し正確さが欲しい。
以前から何度も書いてるが、名言サイトや格言集の類は、信頼性が低いものが非常に多い。特に、出典を明記してないもの(大半)は、個人サイトや商業サイトはもちろん、ビジネス本でも怪しいと思った方がいいと思う。
☆ ☆ ☆
上が、フランス語版ウィキクォート(ウィキの引用句版)からの引用。Jean-Louis Guez de Balzacの読み方は、ジャン・ルイ・ゲ・ドゥ・バルザックか、ゲズ・ドゥ・バルザックか、2通りあった。
ゲとゲズのどちらが正しい発音なのか、まだ不明。フランス語の普通の発音なら、ゲ、だろうけど、17世紀の人名だとハッキリしない。
いずれにせよ、17世紀の作家であって、特に日本では無名に近い。それに対して、19世紀前半の有名な作家が、ドラマが間違って書いてたオノレ・ド・バルザック(Honoré de Balzac)で、だからこそ誤解が生じた。
フランス語の原文はわりと簡単で、私が少しずつ区切って日本語に直訳してみよう。ウィキではなく、下図の原書の表記に従う。途中の切り方がわずかに違って、原書の方が訳しやすいのだ。
☆ ☆ ☆
La solitude est certainement une belle chose;
孤独は、確かに美しいものだ。
Mais il y a plaisir d'avoir quelqu'un qui sache répondre,
しかし、応答してくれる誰かを持つ喜びというものもある。
à qui on puisse dire de temps en temps, que c'est une belle chose.
孤独は美しいものだと、時々話しかけることができるような相手を。
☆ ☆ ☆
簡単に最大のポイントだけ指摘すると、別に友達が「必要」とまでは書いてない。友達がいるのは喜び、楽しみだと書き添えてるだけだ。深読みとか解釈=改釈せず、普通に読むなら。
フランス語の出典は、1657年の『Entretiens』(談話)。ちなみに1658年という仏語ウィキクォートの記述はおそらく間違い。ネット上で原書が公開されてた。多分、1年後の版だけ見た人が、58年と書いてしまったのだろう。複数の版で年が違うことはよくある。
英語版ウィキクォートだと、出典が1665年の『Dissertations chrétiennes et morales』とされてる。ハッキリとは分からないが、おそらく少し後の全集とか著作集みたいなものの中で、こちらのタイトルが副題か見出しに使われてたのだろうと推測する。
☆ ☆ ☆
なお、どうして私が間違いに気付いたかというと、普通に調べても信頼できる情報が全く見当たらなかったし、この種の間違いが非常に多いことを経験的に知ってたから。
あと、英語の「quotepark」(引用句の広場)というサイトの説明の最後に、「Misattributed」(間違って関連付けられている)と添えられてたから。
英語圏では、「Solitude is fine, but you need someone to tell you that solitude is fine」とか言われてるらしい。人名は完全に間違って、内容もかなり間違って。
最後はフランス語版ウィキクォートとグーグル・ブックスの原書で調べて、ほぼ完了。スタッフのどなたか、今のところ視聴者は(ほとんど)気付いてないようだけど、早めの訂正をお勧めしとこう。少なくとも、ブルーレイやDVDの発売前に。
ちなみに先週のソルジェニーツィンの言葉は、内容がちょっと単純化されてるだけで、ほぼ本物だった。ロシア語で確認済み。下のリンク参照。ではまた。。☆彡
cf. ソルジェニーツィン「善と悪の境界線はすべての人の心の中にある」、『収容所群島』での意味とロシア語原文(『レッドアイズ』第6話)
(計 2081字)
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