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ソルジェニーツィン「善と悪の境界線はすべての人の心の中にある」、『収容所群島』での意味とロシア語原文(『レッドアイズ』第6話)

亀梨和也の連続ドラマはかなり見て来たけど、今季の日テレ『レッドアイズ』を見たのはまだ2回目。疲れ切った頭でボーッと第6話(TVer動画)を見てると、お目当ての暗号はハッキリ出てないけど、スリルとアクションはフツーに楽しめる。

   

小牧(松村北斗)が大学時代の後輩・悠香(森田望智)に手錠をかけて、一件落着。緊張感が緩んだ瞬間、意外な言葉が暗い画面に重く映し出された。古い人名と共に。

  

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 善と悪の境界線はすべての人の心の中にある

   アレクサンドル・ソルジェニーツィン

   

  

     ☆     ☆     ☆

ソルジェニーツィンというと、旧・ソ連の強権的な政治・社会を批判して追放された、ノーベル文学賞受賞者(1970年)。古くて特殊で重すぎるからか、最近の翻訳書の動向を調べても、非常に地味な扱いみたいだ。名前を聞くのも珍しいほど。

     

この種の名言・格言の引用には、偽物や怪しいものがかなり紛れ込んでるから、素直なマニアック・ブロガーは直ちに検索でチェック♪ 本物だった。脚本家・まなべゆきこに謝罪。しかも、すぐ原文までたどり着けたということは、世界的にも有名らしい。

  

ドラマ放映直後のツイッターの様子を検索すると、この言葉はかなり引用されてたけど、ソルジェニーツィンという名前まで引用したツイートは少ないし、『収容所群島』という書名に触れたツイートはわずか1つくらいしか見当たらない。

  

私も知らなかったけど、せっかくロシア語原文までチェッツクしたことだし、基本的なことを簡単にまとめとこう。

  

  

     ☆     ☆     ☆

まず、例のシーンの映像について。演出家・茂山佳則に意図があったかどうかはともかく、あれは「収容所」の表現になってた。

  

つまり、あの言葉が映し出された数秒間の間に、画面の左右の金網が閉じて行ったのだ。下の画像は、最初の瞬間の映し方。金網がまだ両側に大きく開いてる。これが中央に向かって閉じた後の画像が、最初に引用したもの。

    

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カメラの望遠レンズをズームアウトして、このシーンの終わりを印象付けると共に、登場人物3人に目線を絞り込む。すると、ちょうど「すべての人」という文字のあたりに、3人の姿が重なることになる。

   

   

     ☆     ☆     ☆

で、あの言葉。先に、意味について触れとこう。多数のツイートを見てると、「善悪というものは曖昧であって、それぞれの人の心で決まるものにすぎない」・・といった感じの意味にとらえてるものがいくつかあった。

    

言葉やドラマの解釈は基本的に、読み手や受け手の自由だが、もしその意味なら、引用文は「善と悪の境界線は(それぞれの)人の心の中にある」とする方が自然。

  

「善と悪の境界線はすべての人の心の中にある」というドラマの書き方は、もっと普通に、誰にでも良い部分と悪い部分があるという意味が中心だ。直接的には、小牧と悠香のことを表してる。

  

小牧はもともと、犯罪で逮捕された悪いハッカーだったが、今では犯罪を取り締まる側の善いハッカーになってる。逆に、以前は小牧にとって善い後輩だった悠香は、今では悪い犯罪者となってしまってた。

   

その意味で、善悪の基準は明白なのだ。もちろん、その基準が正しいのかどうか、今の悠香は本当に悪者なのか、深く考えることもできるが、今回のドラマはそこまで触れてない。

   

   

     ☆     ☆     ☆

そして、言葉の出典となってるソルジェニーツィンの代表作でも同様。普通にその箇所を読むと、直接的には、誰にでも何にでも善い部分と悪い部分がある、というような意味なのだ。

  

それだと当たり前じゃないか? そう思うのは自然なことだけど、時代や社会の背景を考えると、当たり前ではない。下は新潮社のかつての単行本セット(Amazonより)。帯を読むだけでも、強制(=矯正)収容所やレーニン・スターリンの専制は悪とされてるのが読み取れる。

    

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引用されてた箇所は、この長編小説というか長編作品の最初の辺り。第1部・第4章。

  

英語版の訳書『The Gulag Archipelago』がインターネット・アーカイブで公開されてるので、引用してみよう。日本語訳だと、いつものように、無料のものは見当たらない。

  

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     ☆     ☆     ☆

If only it were all so simple! If only there were evil people somewhere insidiously committing evil deeds, and it were necessary only to separate them from the rest of us and destroy them.

     

もしも、それが全くシンプルな話であったなら! もし、どこかに悪い人々がいて、こっそり悪い事をしてるのであれば。そして、必要なのは、彼らを残りの人々から区別して破壊することだけであったなら。 

 

But the line dividing good and evil cuts through the heart of every human being. And who is willing to destroy a piece of his own heart?

  

ところが(実際には)、善と悪を分ける境界線は、すべての人の心を通り抜けているのだ。そして、自分の心の一部分を破壊しようとする人など、いるだろうか?

   

   

     ☆     ☆     ☆

原文の直訳だと、「心の中にある」ではなく、「心を通り抜けている、通過している(cuts through)」。

    

ロシア語原文と英語対訳については、下のGoogle翻訳を参照。ロシア語は、ロシア語版ウィキクォートで発見した。横切る(cross)という意味の言葉を使ってる。

  

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もし「善悪が心の中にある」と言いたいだけなら、そもそも「善と悪の境界線」と言う必要はないのだ。わざわざ「境界線は・・・通り抜けている」と書いてるのは、その後の箇所で、その境界線が揺れ動くと語ってるから。

  

誰でも思い当たる事だろう。ある時、ある状況では、善い自分が優勢になってる。ところが、別の時、別の状況では、悪い自分が優勢になってる。。

   

  

     ☆     ☆     ☆

それにしても、やっぱり普通の言葉、考えにすぎないのでは? 人によっては、そう思うかも知れない。

    

そもそもソルジェニーツィンは、ソ連の悪の部分を告発した最初のあたりの代表者。ということは、勇気ある告発者の彼自身は、善と思われがちだ。

  

ところが彼は、自分の中の悪にも自覚的で、「悪い人達」と自分をハッキリ分けることはしない。だから、例の箇所の直前には、政治的な悪の暴露だけ期待する人はこの本をすぐ閉じて欲しいと書いてた。ということは、周囲の期待とは多少違うことを敢えて語ってるのだ。

     

収容所というと、ソ連も有名だけど、圧倒的に有名なのはナチスドイツのアウシュビッツ。それは絶対的な悪とされてるのであって、それらにも少しは良い部分があった、などというような事を政治家がうっかり語ると、大変なことになる。

  

実際、自民党の麻生氏は2回、謝罪に追い込まれた(2013年、17年)。出版の世界でも、昔から代表的なタブーなのだ。

   

というわけで、半世紀前にソルジェニーツィンがソ連の悪を告発しながら、「善と悪の境界線はすべての人の心の中を通り抜けている」と語るのは、あくまで内省的で勇気ある文学者だったから。政治的批判よりも、文学的誠実さを選んでるのだ。

  

  

     ☆     ☆     ☆ 

なお、「収容所」に似たものとしては、ドラマの地下室や捜査本部も挙げられるし、われわれ視聴者が今おかれてる状況も挙げられる。本来の日常生活でも、コロナ自粛でも。

   

その意味では、ソルジェニーツィンを今読み直す価値はあるし、その言葉を目立たせたドラマにも価値があるだろう。それでは今日はこの辺で。。☆彡

  

  

   

cf.『レッドアイズ』第2話の暗号解読方法と英文~アルファベットを13文字ズラした換字式暗号「rot13」

 『レッドアイズ』7話バルザック引用「孤独はすばらしいが・・人が必要だ」は、半ば間違い(フランス語出典付)

       

        (計 3164字)

   (追記52字 ; 合計3216字)

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