哲学者ニーチェ名言「深淵を覗(のぞ)く時、深淵もこちらを覗いている」、ドイツ語原著『善悪の彼岸』と原文~『レッドアイズ』最終回
日テレのドラマ『レッドアイズ』については、第2話で暗号記事を書いた後、名言の原文記事を5本書いて来た。
ソルジェニーツィン「善と悪の境界線はすべての人の心の中に」、意味とロシア語原文(第6話)
『レッドアイズ』第7話のバルザック引用「孤独はすばらしいが・・」は、半ば間違い(フランス語出典付)
詩人ロバート・W・サーヴィス「死ぬのはとても簡単で・・・」、英語出典と原文~第8話
第9話のチャーチル名言「地獄の真っ只中にいるのなら、そのまま突き進め」、ほぼ間違い
チャーチル名言「これは終わりではない。終わりの始まりですらない」、英語出典と原文~最終回
ロシア語、フランス語、英語、英語、英語。 最後を締めくくるのは、偶然なのか必然なのか、ドイツ語。亀梨和也&山下智久主演の名作『野ブタ。をプロデュース』の第1話と同じ、ドイツの哲学者ニーチェを扱うことになった。チャーチルの名言の少し前に出たテロップ。
深淵を覗(のぞ)くとき、深淵もまたこちらを覗いている
ニーチェ
☆ ☆ ☆
野ブタについては、去年の再放送の直後、本格的なレビューを新たに書いてる。
哲学者ニーチェ「神は死んだ。人間は仲間と創造のゲームで遊べ」~『野ブタ。』第1話(再放送)
写真は英語版ウィキペディアより。ニーチェは、普通の考えや価値観を徹底的に批判・否定した過激な思想家で、野ブタの場合は彰(山P)が「神は死んだ」という超有名な言葉を引用した後、仲間が集まってゲームで楽しく遊ぶ方向に進む。
土9のドラマだから、明るくポジティブな方向に持って行ったわけだけど、実は白岩玄の原作小説はネガティブな方向に進む暗い内容だった。
普通のものを否定すると、型破りで目立つことは出来るけど、社会で生きるのが大変になる。周囲はフツーの人達、フツーの社会だし、自分の中にもフツーの部分があるからだ。もちろん、内なる怪物(モンスター)と共存・共生する形で。
☆ ☆ ☆
『レッドアイズ』最終話の場合、心理カウンセラー・鳥羽和樹(高嶋政伸)は、自分の心の奥底、無意識から湧き出る巨大な破壊衝動や快楽への欲望に正直に生きて、現実の社会で抑えつけられた。
ただ、彼が刑務所に入っても、死刑を執行されない限り、人格的には変わらないはず。実は、伏見(亀梨)らも、凄まじい怒りや攻撃性を密かに持ち続けることになる。理性的な振舞いは、あくまで表面的なものに過ぎない。
・・・というような考えを20世紀に一気に広めたのが、同じドイツ語圏(オーストリア)の精神分析家フロイトで、その深層心理学のもとにニーチェ哲学があるのは有名な話だ。ここでは簡単な指摘に留めとこう。
☆ ☆ ☆
上が、Friedrich Nietzsche(フリードリッヒ・ニーチェ)の1886年の原著、『Jenseits von Gut und Böse』。副題は「Vorspiel einer Philosophie der Zukunft」(未来の哲学への前奏曲)。インターネット・アーカイブで公開中。
日本語では普通、『善悪の彼岸』と訳されるけど、直訳するなら「善と悪の向こう側に」となる。
もちろん、ここでの善と悪とは、フツーの善と悪。困ってる人を助けるのが善とか、人を殺すのが悪とか。そうした平凡な価値観やキリスト教的な考えを過激に攻撃して、「向こう側」の考えや生き方を目指したのがニーチェだった。
しかし、別にニーチェとか持ち出さなくても、そうしたフツーの倫理に限界があるのはすぐ分かる。覚醒剤が切れて困ってる人に手渡すのは善ではなさそうだし、死刑囚を国家が殺すことは日本では認められて、国民もそれほど反対してない。
☆ ☆ ☆
上の下半分、第4篇に位置する第146節の後半が、「深淵」の引用句の部分だ。前半も含めて、ドイツ語を直訳してみよう。
Wer mit Ungeheuern kämpft, mag zusehn, dass er nicht dabei zum Ungeheuer wird.
怪物と闘う人は、気を付けて欲しい、そこで自分が怪物にならないように。
Und wenn du lange in einen Abgrund blickst, blickt der Abgrund auch in dich hinein.
そして君が長く深淵を覗く時、深淵もまた君の内側まで覗くのだ。
☆ ☆ ☆
ここで、「深淵」が擬人化されてる。ドラマなら、分かりやすいのは、鳥羽とか、同種の危険思想の持主のこと。フツーの考えでは、悪の確信犯。
一方、深淵を「危ない考え」とすると、「危ない考えもまた君の内側をのぞく」という意味になる。のぞくと、君の心の奥にも巨大な危ない考えがうごめいてるじゃないか、ということになる。ほら、それを解放してみなさい。途方もない快楽が得られるから。。
そうした危ない考えを理論と実践の両面で世界的に普及させたのがフロイトで、内なるモンスターとは、例えば「エス」(それ、英語に直訳するとIt)と呼ばれてる。この言葉、概念は、ニーチェの『善悪の彼岸』でそのまま出て来てるのだ。
「私が考える」(われ思う)、という見方は間違い。「エスが考える」と言い直してもまだ不十分。要するに、私とか、何か主体的で中心的なものが動作を行うのではなくて、単に考えがある、衝動が生じて膨らんでいる。それだけのことなのだ。
あまり長く書いてると、私もズブズブと深みにハマりそうだから、そろそろ終わりにしとこう♪ それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2266字)
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