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うつ病(抑うつ状態)の心理検査尺度CES-D、日本語訳と英語原文(米国NIMH、Radloff)の対比

心理的な検査、テストというものは、英語圏を中心に多数発表されてるし、中身が単純で似てるので、これ自体に特別な注目ポイントはない。ただ、女性タレントがブログでうつを発表した時に画像まで載せてて、かなりのメディアも記事にしてたので、つい調べることになった。

   

CES-D scale(Center for Epidemiologic Studies  - Depression scale:疫学研究センター・抑うつ尺度)。

  

最後の「scale」(尺度)という英単語を省略したり意訳したりしてることが多いが、省略すると単なる米国国立精神保健研究所(NIMH)のセンター名に近くなってしまう。

   

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センター所属のラドロフ(L.S.Radloff)が1977年に開発して、世界に普及。一般人の自己報告用。平均して90%の精度があるとか言われてるが、日本人や日本語で同じとは限らない。もともと曖昧で論争的な精神状態の計測だから、精度を求めるのも困難。

   

   

     ☆     ☆     ☆

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上の写真は「小林礼奈さん」に渡された、CES-D検査結果用紙。自分でブログに公開してるし、既に各種メディアで拡散してるし、そもそも自分でクリニックのグループの広告にも出てるから、縮小引用は許容範囲だろう。

   

堂々と公表してるから、ステマではない。人気も知名度もある、ゆうメンタルクリニック。私も前から知ってる。

    

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ただ、彼女は失礼ながら名前も顔も知らなかった。グラビア系のタレントのようで、過去のニュースを検索すると、お笑いコンビ・流れ星の瀧上伸一郎との結婚や離婚が話題になってる。離婚後も対立してるらしくて、ストレスも大きくのしかかってるはず。

   

  

     ☆     ☆     ☆

尺度の中身自体は、既にあちこちのサイトの画像で公開されてるので、ここでは元の英語原文(ブラウン大学)と日本語訳(産業医科大学)との対比に注目してみる。単純な直訳ではないのだ。

  

全部で20項目の簡単な質問リストを提示。過去1週間、どのくらいの頻度で質問文のように感じたか、4段階(0点~3点)で回答する。

   

ネガティブな16項目では、少ない方が低い点数。ポジティブな4項目では、少ない方が高い点数。合計点が高いほど、抑うつ的だと判定。16点以上が抑うつ状態。

     

 ほとんど、または全くなし (1日未満)

 たまに、または少し (1~2日間)

 時々、またはかなりの時間 (3~4日間)

 ほとんど、またはずっと (5~7日間)

  

ちなみに上の4段階の日本語は、私が元の英文から直訳したもので、日本で広まってるものとは少し違う。日本向けの画像を見ると、「感じることはなかった」といった日本語が後半に付いてるが、英語原文にそうした言葉は入ってないので、念のため。

  

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どのくらいの頻度で感じたかをたずねてるので、頻度の4段階には「感じた」という言葉が入らないのは自然なことだ。入れると重複になる。

   

   

     ☆     ☆     ☆

1.普段は何でもないことが煩わしい。

  I was bothered by things that usually don't bother me.

これは日本語も英語もほぼ同じ。ただし、英語は過去形で、過去1週間の報告だから過去形の方が正確。

  

2.食べたくない、食欲が落ちた。

  I did not feel like eating; my appetite was poor.

これもほぼ同じ。ただ、食欲が「落ちた」のではなく、poor(乏しかった)ということ。落ちたと訳すと、ずっと食欲がない人の場合におかしな事になってしまう。

  

3.家族や友達から励ましてもらっても、気分が晴れない。

  I felt that I could not shake off the blues even with help from my family or friends.

ほぼ同じだが、直訳は「たとえ手助けがあったとしても」。そう書かないと、もともと家族や友達がいない場合に困る。

  

4.他の人と同じ程度には、能力があると思う。 (頻度が少ない方が高い点数

  I felt I was just as good as other people.

「能力がある」ことに限らず、「good」(良い)かどうかが本来の設問。

   

5.物事に集中できない。

  I had trouble keeping my mind on what I was doing.

これはほぼ同じ内容で、上手い翻訳。

  

6.ゆううつだ。

  I felt depressed.

これもそのまま。

  

7.何をするのも面倒だ。

  I felt that everything I did was an effort.

「面倒」というと、始めるまでの嫌気の意味合いが強くなる。元は effort(骨折り、苦労)だが、意外と訳しにくいから、面倒という訳は適切かも。

  

  

    ☆     ☆     ☆

8.これから先のことに対して積極的に考えることが出来る。 (頻度が少ない方が高い点数

  I felt hopeful about the future.

「積極的に考える」という言い回しは一般にはほとんど使われない堅い表現なので、普通に「未来に希望を感じる(または、感じた)」と訳す方がいい。

   

9.過去のことについてくよくよ考える。

  I thought my life had been a failure.

これはかなり異なる。「くよくよ考える」のではなく、「人生は失敗だったと考える」だけ。

   

10.なにか恐ろしい気持ちがする。

  I felt fearful.

これはほぼ同じ。

  

11.なかなか眠れない。

  My sleep was restless.

なかなか眠れないと言うと、布団に入ったのに寝付けないという意味が強くなってしまう。あまり眠れないとか、十分眠れないと訳すべき。

   

12.生活について不満なく過ごせる。 (頻度が少ない方が高い点数

  I was happy.

不満なく過ごせると、ハッピーでは、かなり違うはずだが、日本人の性格や文化も絡んで訳しにくいのは事実。

    

13.普段より口数が少ない。口が重い。

  I talked less than usual.

これは前半だけにすべき。「口が重い」というと、言うべきことを言わないようなニュアンスになってしまう。

   

14.一人ぼっちで寂しい。

  I felt lonely.

「一人ぼっちで」は無い方がいい。一人でなくても lonely (寂しい)ことは普通にあるので。

  

  

     ☆     ☆     ☆

15.皆がよそよそしいと思う。

 People were unfriendly.

よそよそしいだと、もともと親密な関係に限られてしまう。好意的でないとか、冷たいの方が近い。

    

16.毎日が楽しい。 頻度が少ない方が高い点数

  I enjoyed life.

その時々、あるいは1日単位の感情をたずねるのだから、「毎日」という言葉はない方が適切。

  

17.急に泣き出すことがある。

  I had crying spells.

急に、ではなく一時的にと訳す方が近いが、それだと堅いので、急にという訳で良い。

   

18.悲しいと感じる。

  I felt sad.

これは、時制を除いてそのまま。

  

19.皆が自分を嫌っていると感じる。

  I felt that people dislike me.

皆というより人々だが、皆という訳の方が自然か。

    

20.仕事が手につかない。

  I could not get "going".

これはかなり違う訳で、ほとんど誤訳に近い。仕事の場面に限ったとしても、かなり意味が違う。原文は、何かをやり始めることが出来ない、動き出すことができないということ。ただ、そもそもの英語原文が曖昧すぎるかも。

   

   

     ☆     ☆     ☆

というわけで、英文和訳に限っても、色々と問題を含んでいる検査だと分かった。最も疑問なのは、カッコで日数を示している点。

    

本来は日数ではなく時間がポイントだから、日数を補助的に入れるのなら小文字にすべきだろう。1日どころか、1時間の内にでも色々と気分は変わるものだ。

     

肝心の自己報告については、私の場合、元の英文で計算して、22点前後。診断は「軽度抑うつ状態」。もう少し悪化すると病院に行くレベルらしいから、注意すべきか。

  

しかし根本的に、これほど単純な基準で人間の精神状態を測定しようという発想自体に大きな問題を感じる。人間は、疫学統計の論文を書きやすくするために生きてるわけではないし、向精神薬の開発を簡略化できるようにできてるわけでもない

  

精神科医とかカウンセラーなどは、そういった基本を常に頭に入れておくべきだろう。「ほとんど、またはずっと」。なお、今週は計14151字で終了。ではまた来週。。☆彡

    

      (計 3409字)

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