大坂なおみのツイートの「depression」、診断がない時点で「うつ病」と訳すか、「うつ」「うつ症状」か
いまや、テニスの女王と言うより、女性アスリートの頂点と言ってもいいくらいの位置まで登りつめた、大坂なおみ。もともと精神的な不安定さはあったし、まだ23歳の若さだから、色々あっても、ちょっとずつ大人になるんだろうと思ってた。
ところが、全仏オープンの記者会見拒否問題が拡大して、棄権。ツイッターの長文の英文投稿で「depression」に長く苦しんでると明かした途端、非常に特殊で複雑な問題へと変化した。
最初は、手のひら返しのような優しくいたわる反応が世界中に溢れてるように見えたけど、徐々に、違和感の表明も増えてる。実は私も、あの英語を読んで以来、ずっと引っかかってた。
☆ ☆ ☆
あれはそもそも、「うつ病」と訳すべきなのか? また、彼女はうつ病の診断を受けてるのか?
もちろん、単なる訳語の問題ではない。精神科医の診断を受けた「うつ病」(と略される精神疾患)と、単なる自覚的な「うつ」とでは、社会的な扱いも当然変わって来る。
もし、単なる自覚的なうつなら、手のひら返しの反応はどうなのか、ということになるのだ。今までブログには書かなかったけど、やはり私と同じような疑問を抱いてる人がかなりいるようなので、今の時点での考えを軽くまとめとこう。
☆ ☆ ☆
まず、現状把握。朝日新聞、日経新聞、読売新聞といったメジャーなマスメディアは、「うつ病」という書き方と「うつ」などの書き方と、両方を使ってる。
それに対して、スポーツ新聞、夕刊紙、ネットメディアなどだと、「うつ病」が中心になってる。
では、英語の原文はどうなってるか。今現在(日本時間 2021年6月3日・夜)でも、まだアカウントのトップに告白投稿があった。
☆ ☆ ☆
「・・・I have suffered long bouts of depression since the US Open in 2018 and I have had a really hard time coping with that」。
この英文のポイントはもちろん前半で、depressionの訳語は、読売の全文和訳記事だと「うつの症状」。朝日と日経は「うつ病」。
ただ、どの翻訳を見ても軽くスルーされてる重要な語句があるのだ。直前の、「bouts of」。これは病気の期間や発作の複数形を示す言い回しだから、うつ病と訳す方が自然のような気もする。
とはいえ、診断や医者、カウンセラーとかの話は無いし、後の文に登場するanxiety(不安)、nervous(緊張)、stressful(ストレスを感じる)といったものなら、誰でも感じるもの。まして世界のトップなら、病気でなくても当然だろう。
☆ ☆ ☆
一方、現在の精神医学の世界標準マニュアル(の片方)となってるDSM-5(精神疾患の診断統計マニュアル・第5版)の英語を見ると、単なるdepressionという病名はない。
主要なうつ病の正式名称は、Major Depressive Disorder。訳語は、「うつ病(DSM-5)」(かなり変な訳)か、「大うつ病性障害」。
英語のままだと、基本的に depress・・・で始まる単語は、depressive という形容詞の形で病名に使われてるのだ。
「したがって、うつ病とまで訳せるかどうかは微妙」・・とか書こうと思ってたが、試しに最新のデータベースに基づく三省堂ウィズダム英和辞典を見ると、用例的にやっぱり、大坂の depression は病気を表す方が普通のようだ。単なるうつ状態だと、不定冠詞や形容詞が前に来ることが多そう。
Weblioで用例を調べても、「I have depression」を「私はうつ病だ」と訳してた(Email 英文集)。
☆ ☆ ☆
以上から暫定的な結論を出すと、診断の話や診断書の提示がない現時点で、あの大坂の投稿における depression をうつ病と訳すのは自然だろう。少なくとも、うつ症状とか、うつと訳すよりは、文脈的にナチュラル。
なお、「うつ病(DSM-5)」の診断基準の項目に、不安、緊張、ストレスは入ってない。詳しくは、1つ前のバージョンであるDSM-Ⅳ-TRの記事を参照(ポイントには変更なし)。
ところが、最近は「不安」という要素も注目されてるようで、「不安うつ病」という新たな形まで研究されてるから、話は一段とややこしくなる。「不安性の苦痛を伴ううつ病(DSM-5)」といった診断も普通に可能。
とにかく、もし本当に大坂なおみにうつ病の診断がおりてるのなら、一般向けに公表する必要はないから、大会運営サイドやプロテニスの団体に提示して、特別な配慮をしてもらうのが正攻法だろう。記者会見の大幅な短縮くらいはすぐ出来るはず。
まあ、彼女の場合、もっと劇的なインパクトを持って事態を全面的に改革したいのかも知れないけど。それでは今日はこの辺で。。☆彡
P.S. この記事のアップの翌朝、(珍しく)東スポが真面目な記事をアップ。NHKは「取材に基づき」、「気分が落ち込む」とだけ訳してた。もし本当に、大坂本人か周囲の人達に取材したのなら、それが正しいのかも。
(計 2104字)
| 固定リンク | 0
« 楽天モバイル、低速のauパートナー回線から高速の楽天回線への手動切替方法(屋外で再起動)&プチジョグ | トップページ | 投手の手から一瞬「消える魔球」(米国)、野球規則では不正投球でボール判定か♪ »
「テニス」カテゴリの記事
- 上皇さまが皇太子時代、美智子さまと出会って恋愛・結婚された、軽井沢会テニス・トーナメントの試合(昭和32年、1957年・夏)(2022.12.25)
- テニスの大坂なおみが3ヶ月ぶりの記者会見で涙、「いじめっ子」(bully)記者?の質問と応答の英語全文&日本語訳(2021.08.19)
- 大坂なおみのツイートの「depression」、診断がない時点で「うつ病」と訳すか、「うつ」「うつ症状」か(2021.06.03)
- 大坂なおみの全米オープンテニス優勝、セリーナの発言(英語原文と和訳)&12km走(2018.09.10)
- 美誠(みま)パンチとテニスの思い出♪&多摩川(2016.08.18)
「医学・医療」カテゴリの記事
- 冷たい野菜ジュースを飲んで「アイスクリーム頭痛」?(寒冷刺激による頭痛、国際頭痛分類ICHD)&筋肉疲労18km(2023.01.27)
- 「敗血症」(英語 sepsis)という日本語の病名の語源・由来、漢字と英語からの説明(2022.12.03)
- コロナ(感染症)の患者数の推移、数学理論による計算(SIRモデル)の入試問題(青山学院大・経済学部、2021年)(2022.11.19)
- 踵の痛みは足底筋膜炎か?、走るスピードを急に1割アップ、厚底カーボンプレートシューズまで使い始めたのが原因・・(2022.11.14)
- いきなり半強制的な抗原検査(医療用)、判定結果は・・&荷物ウォーク(2022.09.12)
「英語」カテゴリの記事
- 量子もつれ(エンタングルメント)の実験的検証~ノーベル物理学賞2022、授賞・受賞理由(英文和訳)(2022.10.07)
- 高梨沙羅が失格で涙、スキー・ジャンプのスーツの測定規則と方法(今季FISガイドライン・英語)&15kmジョグ(2022.02.09)
- 小室圭さんも受験したニューヨーク州司法試験、2021年2月の過去問(記述・MEE)の内容と感想(2021.11.10)
- 小室圭さんの英語優勝論文「ウェブサイトの法令順守問題と起業家への影響」(NY州弁護士会・ビジネス法ジャーナル)、まとめと感想(2021.10.23)
- コンピューター計算による気候変動予測~真鍋淑郎氏のノーベル物理学賞2021、授賞理由と理論(英語原文と日本語訳)、数式(2021.10.06)
コメント