東京五輪・男子マラソンのフランス人選手・アンドゥニ、給水所ボトル倒しは故意でなく、取り損ねただけ(映像の分解写真付)
世界中で話題になってしまってる、TOKYO2020オリンピック・男子マラソンの給水所の問題。後半の勝負所の直前で、フランスの選手が給水所のボトルをわざとなぎ倒して、自分の分だけはちゃんと取った、とか叩かれてるのだ。
動画を標準の速度で見ると、確かに一瞬の出来事で分かりにくいし、見たこともない場面なので、故意の妨害に見えなくもない。
しかし、分解写真の静止画を複数、注意深く見れば、無実の罪なのは明らかだ。酷暑の札幌で必死に走った直後にバッシングを受けてるモルア・アンドゥニ(Morhad Amdouni)選手は、あまりにも気の毒。
既に、メダル2個の名ランナー・有森裕子も、人気解説者の金哲彦も、故意とは思えないといった感じのコメントを出してる。ただ、細かい画像分析まではやってないので、私が示しておこう。
ここに人種問題まで絡んで来るとさらに厄介になるし、日本では、先日のサッカー仏代表の「日本差別」(?)騒動があったばかりだし。。
☆ ☆ ☆
先に、あちこちで引用されてるフランス紙・フィガロ(Figaro)の記事を見ておこう。執筆は、Cedric Callier 。
タイトルのフランス語を直訳すると、「マラソンで競争相手たちの給水を故意に妨害した、フランスのモルア・アンドゥニの悪質な振舞い」。volontairement(故意に)、mauvais(悪い)とハッキリ書いてる。
見出しでは故意だと断定してるわけだが、リード(前置き)や本文を読むと、そうでもない。
良ければ不器用、悪ければ、スポーツマン精神に反するといった感じで、一応は両論併記。意図的な失敗かどうかは本人しか分からない(Seul l'interesse peut savoir)とも書いてある。
ただ、33歳のアスリートが、わざとではなくボトルを転倒させるようなことがあるだろうか?、と疑問を投げかけてる。
☆ ☆ ☆
これに対してまず、重要な事実を2つ指摘しとこう。フランス語のウィキペディアに書かれてることで、ほとんど指摘されてないが、彼はずっと長距離選手で、19年4月が初マラソンなのだ。9月の世界選手権は出場せず、その後はコロナ禍だから、今回がまだ2回目で2年4ヶ月ぶり。
しかも猛暑の給水所は初体験だから、フィガロが故意だと考える根拠2つの内の1つ(年齢33歳のベテラン)は的外れだ。
もう一つの重要な事実は、その給水所の僅か1km後から、彼が遅れ始めてるということ。先頭集団について行けなくなってる、余裕のないタイミングだったのだ。
公式サイトの記録を見れば、彼の5kmラップ(区間タイム)が30km以降、大幅に落ちてるのが分かる。15分台から16分台に急落してるのだ。
☆ ☆ ☆
論より証拠。百聞は一見に如かず。先に答、真実を書いとこう。
彼はテーブルの最初と中間で、ボトルを2回連続で取り損ねて、その度に数本ずつ他のボトルも倒してしまったのだ。単なる失敗の連続だ。最後にようやく取れたのは、確率的にも普通の事。
分解写真で確認しよう。まず上が、直前のレース映像。右上あたりに大迫の顔と帽子が見えてる(日の丸のテロップの上)。その大迫の2人前がアンドゥニで、上では左肩と左胸が映ってる。先頭から見て4人目、左の列。今、手を伸ばしてる選手のすぐ後ろ。
上ではアンドゥニが右手を伸ばして、親指を広げて、明らかにつかもうとしてる。
単に、なぎ倒して他の選手の給水を邪魔したいのなら、親指を広げない方がカンタンだし、そもそも奥側の列のボトルも倒さないとほとんど意味がない。
上を見ると、最初の1本だけ倒してしまってる。秒速5.5mくらいの速さだから、僅か0.2秒でも1m進む。失敗して動揺しながら走り続けてる時、続く数本のボトルに手が当たるのは自然なことだ。
☆ ☆ ☆
上が2回目の挑戦。この手(2本の内の前側)の動きは完全に、ボトルをつかみに行ってる。親指と手のひらの使い方に注目。なぎ倒す手の動きではない。
上が2回目のミス(その直前にも軽くミスしてるかも)。ボトルが1本だけ手前に来てるのは、1本だけ手前に引き寄せた証拠だ。続けてなぎ倒すのなら、次の数本と一体化してドミノ倒しになるはず。
あと、そもそもこんなに顔がテーブルに近づいてるのは、余裕がない証拠だ。慣れてない上に、疲れの極致。おまけに連続でつかみ損ねたからこそ、こんな市民ランナーみたいな斜めの姿勢になる。他の選手との違いに注意。
上が、2回目の取り損ねの直後。ここでアンドゥニの右手は完全に、テーブルから自分の側にズレてる。これは、取り損ねて落とした1本のボトルを追いかけた証拠だ。なぎ倒すのなら、右手はテーブルから手前にズラすはずはない。
下手な態勢と共に、目線にも注目。なぎ倒すのなら、残ったボトル全体に向けるか、わざと目をそらすはずだが、彼の目線は右横の1点、つまり一番取りやすい1本に向けられてる。つかもうとしてるのだ。
☆ ☆ ☆
自分だけ取ろうとしたのなら、上のような不自然な態勢をしてまで取るはずはない。すぐ次に、新しい給水テーブルがあるのだから。2人後ろにいる大迫は慌てて、奥のボトルに手を伸ばしてる。
フィガロが故意だと考えるもう1つの理由が、「最後の(in extremis)」ボトルをつかんでることだが、3回連続で取り損ねる方が確率統計学的に不思議なこと(1回の失敗率1割とかで計算すれば自明)。おまけに、少しも「最後」ではない。すぐ先の2つ目のテーブルにもボトルは並んでる。
上図の左下に、早くも次の「Water」(水)がプレート付きで並んでる。そこでは彼は何もしてない。妨害説が不自然なのは一目瞭然。
ちなみに大迫は最初のテーブルの奥側に残ってたボトルを取ってるし、アンドゥニのすぐ後ろの選手は次のテーブルですぐボトルを取ってた。
直接的な被害者がいないという点は、わりと意見が一致してるようだ。フタを閉めたペットボトルだから、片づけるスタッフもそれほど面倒ではない。
☆ ☆ ☆
なお、東スポがアンドゥニのものらしきフェイスブックの主張から「引用」してるが、おそらくフランス語を翻訳してるのではなく、他の情報を使ってる(英語の報道とか)。
ただし、私は彼のフェイスブックに直接アクセスできないので、推測の指摘に留めとこう。いずれにせよ、自分は最初からボトルを取ろうとしたけど、水で濡れてたから手が滑った、と主張してるのだ。
上は ネット上の拾い物画像に過ぎないので、単なる参考資料。もし、上のフランス語だけを東スポが記事にしてるとすれば、不正確な翻訳だ(特に最後の箇所)。
とにかく、人の噂も七十五日。東京五輪関連の妙な騒動が早めに収束することを祈ろう。ではまた。。☆彡
(計 2777字)
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