瀬戸内寂聴、追悼~朝日新聞・毎月連載『寂聴 残された日々』、最終回のエッセイ「卵焼きの思い出」(21年10月14日)
作家・僧侶としてお馴染み、瀬戸内寂聴(じゃくちょう)の訃報が伝わったのは昨日、2021年(令和3年)11月11日の昼頃らしい。この日の朝日新聞・夕刊(4版)は、1面トップで伝えてるが、見出しと2行のリードのみ。記事はギリギリで間に合わなかったようだ。
私は、本になった著作は1冊も読んでないが、彼女の文章はあちこちで見かけて、たまに読んでた。最近だと、すぐ思い出すのは、朝日新聞の月1回の連載、「寂聴 残された日々」。
原則として、毎月、第2木曜日に掲載だから、実は昨日が11月分のエッセイ(またはコラム)の掲載日。ところが、文化面のトップは別の記事で、短いおことわりが付いてた。
「今月の『寂聴 残された日々』は瀬戸内寂聴さん静養のため、休みます」。ということは、遅くとも1週間か2週間くらい前には、かなり体調が悪化していたということか。原稿を早めに書き溜めておく余裕もなかったと。
そう思ってニュース検索すると、京都新聞の報道がヒット。先月(10月)、肺炎で入院した後、一度退院して、また入院していたらしい。彼女なら100歳は行くだろうと思ってたが、99歳と半年で永眠。ただ、流石に最後までしっかりした文章を遺してた。
☆ ☆ ☆
ここでは、「寂聴 残された日々」の最後の(?)エッセイを軽く振り返っておこう。いつも心に沁みる話だったが、やはり直近の10月14日(第76回)の何気ない文章には、強く印象に残るものがある。「76 卵焼きの思い出」、「姉と焼いたあつあつ 母の涙」。
冒頭は、「わたしの子供の頃、秋は、いつもいい天気だった」。これだけで、同じ「瀬戸内海」出身の私は深く共感できる。
そう。秋に限らず、瀬戸内海の辺りは晴れが多いのだ。雨が少なすぎて、たまに断水になるほど。彼女は徳島市の出身だから、瀬戸内海の右端あたりが故郷になる。「瀬戸内」という名字も、元をたどればおそらく瀬戸内海とつながるのだろうと想像する。
☆ ☆ ☆
十一月の運動会もいつも晴れ。おそらく意図的に、ひらがなを多用して、こう書いてる。少女時代の瀬戸内晴美の作文か絵日記みたいに。
「うちでも、かならずおかあさんが、おいしいおべんとうをいっぱいつくって、果物やおかしなんかも、ふろしきにつつみこんでやってきた。この日の卵焼きの厚くておいしかったこと」。
私も時々、田舎の小学校の運動会を思い出す。小学生の運動会とは別に、校庭を借りて、地域の運動会も別にあった気がする。娯楽が少ない田舎街にとって、運動会は貴重なイベント。的屋(テキヤ)と共に、母親が朝早くから作ったお弁当が楽しみで、テントの下で一緒に食べるとホントに美味しかった。
母親が病気で寝ついた時、寂聴は姉と2人で卵焼きを焼いて、あつあつを母の枕元に運ぶ。すると母が涙を流したので、寂聴はビックリした。嬉しい時、幸せな時にも人は涙を流すのだと、初めて知ったらしい。
そんな感じで、いかにもいいエピソードを書いてるのだが、エッセイの最後は胸を打つ展開で締めくくってる。その最愛のやさしい母は、防空壕で焼死。最後の言葉は、「お父さん、孫たちを頼みます。私はもういい」。
この孫たちというのは、当時、北京にいた寂聴とその娘・理子(みちこ)のことのようだ。
☆ ☆ ☆
自分の死が近づく中、寂聴は、母の死ぬ間際の姿を思い出してる。ひょっとすると、あの世について明るく語る僧侶の寂聴も、亡き母だけでなく、自分がこの世に残していく特別大切な人たちに思いをはせていたのかも知れない。
それと共に、反戦活動への思いも非常に強かったのだろう。だからこそ、この「卵焼きの思い出」と題するエッセイは、母の卵焼きで始まって、その母の防空壕での焼死で終わってるのだろう。
つまり、寂聴の最後のエッセイのタイトルは、「母が戦争で焼死した思い出」という意味なのだ。ともあれ、彼女の安らかな眠りを祈りつつ、合掌。。
(計 1640字)
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