あさま山荘事件(72年)から50年、元・連合赤軍幹部・吉野雅邦(無期懲役)の手記~NHK『クローズアップ現代+』
昨日も書いたが、今現在、世界を動揺させてるロシア軍のウクライナ「侵攻」(?)は、半世紀前に10年以上も続いたベトナム戦争と似た側面がある。
強い国が弱い国に、軍事力その他、色んな形で攻め込む。ロシアがウクライナへ。アメリカがベトナムへ。背景には、世界規模の巨大な政治的対立が存在。東vs西、共産主義・社会主義系vs資本主義。
ベトナム戦争は、ちょうど50年前に日本全国を揺るがせた、「山岳ベース事件」(リンチ殺人、死者12人、または14人)と「あさま山荘事件」(死者3人)にも影響を与えてる。
極端に簡単にまとめるなら、左翼の過激派たちに、米国や日本に対する強い不満を抱かせたわけだ。それが、暴力革命への志向につながった。
☆ ☆ ☆
私が今回、『クローズアップ現代+』をNHKプラスの動画で見たキッカケは、先日のNHKニュースウォッチ9のあさま山荘事件・ミニ特集。いくら何でも簡単で単純すぎるまとめ方になってたから、NHKスペシャルとかないのかと思って検索すると、ヒットしたのが『クロ現』だった。
期待した内容とは違って、1人の実行犯に焦点を当てたものだが、それはそれで興味深かった。死刑ではなく無期懲役となった吉野雅邦は、まだ千葉刑務所の獄中にいて、原稿用紙86枚(約35000字)もの手記を書いたらしい。当時23歳、現在73歳。
いまだに仮釈放になってないのは、他の様々な人物や事件との関連が原因・理由ということだろうか? あさま山荘事件だけでも、主犯の坂口弘(当時25歳、現在75歳)は死刑囚のまま、未執行。同じく主犯の坂東國男(同)は、クアラルンプール事件(75年)の「超法規的措置」で釈放された後、今も国際手配中。
その他の諸々の関係もあるので、吉野を仮釈放すると、左翼過激派たちを悪い方向に刺激すると考えてるのかも知れない。吉野自身は深く反省してるとしても。
私は普段から、左翼やリベラルに対しては冷めた態度を示してるが、情報はそれなりに目配りしてるし、全否定するわけでもない。60年前~50年前の日本の状況だと、運動に参加してたかも知れない。小難しい理屈もお祭り騒ぎも好きだし、身体を動かすのも好き。強大なものへの反抗精神もあるから。
しかし、さすがにリンチ殺人(「総括」)や民間人・警察官の銃殺まではしてないはず。現実的に考えると、途中のどこかで組織から脱走してただろう。確信は持てないにせよ。。
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さて、『クロ現』の放送。「50年目の"独白" ~元連合赤軍幹部の償い~」は、ナレーションを除くと、あさま山荘(長野県・軽井沢町)の下で、女性がスピーカーで泣き叫ぶ声から始まってる。
「出てきて お願い こんなことになっちゃって うぅぅぅ・・・」
説明は入ってないが、常識的に考えれば、おそらく吉野の母親だろう。実際、両親が現場に説得しに行ってたようだ。『クロ現』取材ノートを見ると、「まーちゃん、早く出てきてちょうだい、お願いよ、こんなことしちゃって」とも書かれてた。23歳の「まさくに」は、まだ、まーちゃんと呼ばれる子どもだったのだ。
連合赤軍の中心人物2人、森恒夫(獄中自殺)と永田洋子(獄中死)は既に逮捕されてた。残党が逃げ込んだのがあさま山荘で、人質を取って立てこもる。1972年2月19日~28日、食料の備蓄はちょうどそのくらいあったらしい。途中、クレーンで吊るした巨大な鉄球で壁を壊すシーンはあまりにも有名。
最終日には、NHKと民放を合わせて世帯視聴率9割にも達したらしいから、ほとんどの家庭がテレビで見てたことになる。ウィキペディアによると、極寒の中、警察が食べてた日清カップヌードルが大ヒットにつながったとの事。71年9月の発売だから、まだ新商品だった。
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吉野は、少なくとも1人を殺害して、他の数人の殺害にも関与してるようだから、死刑でもおかしくなかった。少なくとも、今現在の基準なら死刑だろう。
ところが、東京地方裁判所の石丸俊彦裁判長が下した判決は、無期懲役。判決文は700ページもの長文。「法の名において生命を奪うようなことはしない。被告人は自ら生命を絶つことも、神の支えた生命であるから許さない。被告人は生き続けて、その全存在をかけて罪を償ってほしい」と語りかける。その後、検察の控訴も棄却されて、無期懲役が確定。
この裁判長は退職後、吉野に自分から手紙を出して、やり取りが続いたらしい(2007年死去)。非常に珍しいことで、司法の在り方として良いことなのか分からないが、人間的には素晴らしいサポートだと思う。ここでは時間がないので省略しよう。吉野はこの温情判決を、必ずしも喜んでなかったらしい。死刑の方が気が楽だったかも、といった言葉も残ってる。
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番組のタイトルにもなってる吉野の独白の文章は、残念ながら、全文公開されてないようだから、画面とナレーションから分かる部分だけ引用してみよう。
「⑤ 思想転換の契機(内妻と娘の死)
私の思想転換は、法廷の場での体験のみによるものでは勿論ありません。
一つには、自分が正当とみなして選択し、歩んだはずの結果が、当初は全く思いもよらない惨憺たるものであった、その衝撃を受けての過去の捉え返しによるものです。
私にとって最大の悔いは、かつて生涯の伴侶と思い定めた金子みちよを、こともあろうに、胎内のわが子もろともに死に至らせてしまったことでした。
どこで間違ってしまったのか。・・・・・・」
「特に痛感したのは私達が"革命を目指した"ことの愚かさです。」
「人々に幸せをもたらす いわば打出の小槌のようなものと捉えていました。」
「私が、組織、指導者に隷従するに至った経緯を振り返ると、自主、自立の精神の欠如に気付きます。」
「もともと、自己肯定感が希薄で、"滅私"を心懸ける傾向が強く、結局、組織にとって、使い勝手のよい駒となり果てたのです。」
「人を愛するためにまず必要なのは、自分の存在を肯定的に捉え、自分の足でしっかりと立ち歩む姿勢を保つことではないか、と思えます。
かつての私のように、自分を疎かにし、他人や組織に従属し、自分を失うような状態では、人を対等な人格として尊重できず、相手の立場や心情を思いやることはできない、と思えるためです。」
☆ ☆ ☆
「思想転換」「革命」「隷従」・・硬くて古い言葉遣いに、50年前の左翼らしさが表れてる。知的能力はそれなりに保たれてるようで、上の引用だけ見ると、73歳にしてはしっかりした文章だろう。特に「一つには・・」で始まる文は複雑な構造で、普通は書けない言葉のつながりを示してる。文字も上手いようだ。
いずれ、どこかのサイトか出版社で全文公開されるだろう。中心人物の1人による貴重な証言が増えることになる。それでも、オウム真理教事件と比較すると遥かに情報が少ないというか、不足してる。
ちなみに死刑囚・坂口弘には、『あさま山荘 1972』(上・下・続)という著作があった。30年前の本だが、単行本どころか電子書籍まである。地味に売れ続けてるのだろう。
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上の写真で吉野と仲良く笑顔を見せてるのが、最愛の彼女。暴走する彼にずっと寄り添った末に、リンチで死ぬことになった、みちよさん。遥か前から、進む方向がおかしいことには気づいてたのだろう。暴力的な姿勢にはずっと反対してたらしい。
「ねぇ、組織をやめて 2人で喫茶店をやらない? そうしよう、ね」。吉野が友人に出した手紙に書かれた、みちよさんの言葉が涙を誘う。喫茶店は当時の若者文化の流行のようで、今ならクラブとスタバの中間みたいなものか。半年後にはGAROのヒット曲『学生街の喫茶店』が発売。1年後には、あべ静江の『コーヒーショップで』がヒットしてる。
みちよさんが、組織や暴力への疑問を強く抱きつつ、それでも「2人分の」命をかけてまで付いて行ったということは、吉野にも愛されるだけの魅力があったわけだ。致命的な失敗と罪だけでなく。
裁判長が吉野にかけた言葉は、今でも重く心に響き続けてる。
「君の金子みちよさんへの愛は真実のものであったと思う。そのことを見つめ続け、彼女と子どもの冥福を祈り続けるように」
既に事件から半世紀が経過。そろそろ仮釈放になって、晴れてお墓参りできるようになっても不思議はない。
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なお、連合赤軍とのつながりもある日本赤軍の元最高幹部、重信房子(76歳)は、懲役20年の刑期満了で、今年の5月に出所予定らしい。もともとアイドル的な人気があったという話もあり、既にその筋では注目を浴びてるようだ。
一方、プーチンの今回の決定は、今後どのように評価されるだろうか。今現在、欧米側の普通の視点で見るなら、かつての赤軍派とは比較にならないほどの罪のような気もするが。。 ともあれ、今日の所はこの辺で。。☆彡
(計 3619字)
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