「戦争は外交の失敗」という言葉(名言、定義、警句)の出典3つ、カハル・デイリー、トニー・ベン&ドラッカー(英語原文)
このブログ(ココログ)の運営母体であるniftyは、ネットメディア「リアルライブ」のニュースをよく掲載してる。なぜかYahoo!よりかなり多い気がする。
リアルライブはネットやテレビの簡単なまとめ記事が多いから、分かってれば避けるようなメディアだが(個人の感想♪)、ニフティのニュースの見出しではメディアが分からないから、ついクリックすることがある。もちろん、たまには面白いこともある。
今回クリックした記事は、こんな長い見出しが付いてた。ここでは元のサイトの記事にリンクを張っとこう。
坂本龍一「戦争は外交の失敗」 加藤登紀子が共感投稿で物議 「ウクライナが悪いと?」 賛否集まる
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坂本の言葉は2014年のもので、珍しくノーカットYouTube動画が今でも正式公開されてる(ANN NEWS)。それを今回、ツイッター経由で知ったらしい加藤が、自分の返信ツイートで共感を示したようだ。いかにも人文・芸術系リベラルの代表者らしい姿勢。
加藤は、別人のツイート(「滑稽新聞」)に返信してるだけなので、本当に自分で動画を見たのかどうかは不明。私なら、別人ツイートの根拠となってる動画を自分で探して見た上で、そちらにもリンクを張って説明も補足する。その別人ツイートに書かれた坂本の言葉は断言調になってるが、実際の坂本の言葉はもっと会話調で個人的な思いを伝える形だった。
加藤のツイートは、ウクライナの外交の失敗という意味「も」(意図せず?)含んでしまうから、有名人として「炎上」(リアルライブの表現)するのは自然なことだろう。日本も含めて西側では、強いロシアが弱いウクライナに侵略戦争を仕掛けてる、と考えられてるから。ちなみに加藤のツイートは、限られたユーザーしか返信できない設定になってた。
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さて、私の関心は、大御所の左派文化人の考えとか「炎上」より、元の言葉の出典に向かった。おそらく、かなり前から外国語(特に英語)で言われてる事だろう。
当ブログでは過去、様々な名言の類の記事を、基本的に原文まで自分で調べた上で、正確に説明して来た。当たり前の事のように見えて、実は世界的に見てもごく少数しか行われてない。
英語の名言サイトのようなものも色々あるが、ほとんどは出典不明、あるいは未確認のまま。間違った言葉や出典を載せてることもよくあるが、検索サイトで上位にランクされればアクセスは集まる。そしてまた、怪しい情報がさらに拡散されて行く。SNSの問題がしばしばクローズアップされるが、商業サイトや個人ブログにもかなり問題がある。
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では、本題に入ろう。「戦争は外交の失敗である」という日本語を普通に英訳すると、「war is the failure of diplomacy」とかだろう。このフレーズをそのまま引用符で囲んで、Googleで完全一致検索を行うと、最初にヒットするやや古い用例は、1972年のものだった。
アイルランドの哲学者、カハル・デイリーの論文「Violence or Non-Violence?」。暴力か、非-暴力か?。学術情報サイト・JSTORより引用。
「戦争は、クラウゼヴィッツによると、別の手段で行われた外交である」。この定義は有名だが、不幸なものだ。・・・中略・・・むしろ、暴力はすべての理性的議論の終わりである。同様に、戦争は外交の失敗である」。
話が逸れるが、冒頭のクラウゼヴィッツの言葉(?)は、1832年の『戦争論』(On war)からの引用だと思うが、デイリーによる言い換えか引用ミスの可能性もある。普通、有名なのは、「War is a mere continuation of politics by other means」だろう。戦争とは単に、他の手段を用いた政治の継続である」。
これについてはまた、別記事を書くかも知れないし、後ほどこの記事に追記するかも知れない。とりあえず、元の流れに戻ろう。とにかく、私が基本的な検索をかけてすぐ見つかった用例は、日本はもちろん、世界的にもほとんど知られてないようだ。興味のある方は、Googleで日本語か英語の完全一致検索を試してみることをお勧めする。
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それに対して、be動詞は抜きにして、「war "failure of diplomacy"」で検索すると、最初にヒットしたわりと古くて有名そうな言葉は、1991年、英国の政治家トニー・ベン(Tony Benn)のもの。デイリーの20年近く後。写真は英語版ウィキより。
日本ではほとんど話題になってないが、労働党の中でも左派だったらしい政治家だから、戦争反対、外交で解決ということを強く主張するのは当然か。とにかく、毎度お馴染み、英語版ウィキクォートで簡単に出典が見つかった。引用句版のウィキ。
All war represents a failure of diplomacy.
すべての戦争は、外交の失敗(の1つ)を表している。
日本人にとっては細かい話だが、ここでは不定冠詞aを使ってある。先ほどのデイリーの時は定冠詞theだった。
政治家と哲学者の違いもあるだろうし、文脈や発言形態の違いもあるだろう。このベンの言葉は、湾岸戦争が一旦停止した時の対談の中での発言。Speech(スピーチ)と書いてるが、日本語のスピーチより広い意味で、単に発言ということだ。
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そして最後。3つ目の用例は、日本で非常に有名なドラッカーの「小説」の台詞。あくまで作り話、フィクションの中のセリフだから、ドラッカーが語ったわけではない。もちろん、小説に関連したものも含めて、本人が自分で語った可能性もある。
とにかく、1982年に出版した初の小説『The Last of All Possible Worlds』(すべての可能な世界の最後)の序盤に、主人公ソビエスキーの台詞でこう書かれてた。英語版のキンドル電子書籍の無料サンプルより引用。
I see it as the failure of diplomacy.
私はそれ(戦争)を、外交の失敗とみなします。
この台詞は、デイリーと同じく、クラウゼヴィッツの有名な言葉やそうした考えに反対する形になってるが、ここでもクラウゼヴィッツの言葉が原型とは違ってる気がする。やはり色々と変形されて拡散してるということか。
ちなみにこのドラッカーの小説は、翻訳(邦題『最後の四重奏』、訳者・風間禎三郎、ダイヤモンド社)がキンドル電子書籍にあったから、無料サンプルを見てみたが、載ってなかった。一般に無料サンプルは、同じ著作なら、英語の方が日本語より(遥かに)長い。
紙の古い翻訳本では、「私は、“戦争は外交の失敗"以外の何物でもないと考えております」と翻訳されてるという情報があった(はてなブログの2年前の記事)。いずれ自分で確認するつもりだが、この訳文は文脈的に強調し過ぎだと思う。
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以上、代表的な英語の出典を3つ挙げてみた。最後に、私としては、内容的にどう考えるか。
戦争を外交や政治の延長と考えるクラウゼヴィッツの言葉は、一理ある興味深いものではあるが、人間心理や感情的に受け入れにくいことに加えて、発想が基本的に古いと思う。
少なくとも、ロシアや米国といった現代の核大国については適用できない。というのも、核兵器の戦争はすべてを終わりにしてしまうリスクがあるからだ。人間的な営みの継続などではなく、終焉、破滅になってしまう。核でなくても、一般に大量破壊兵器は政治の継続とは言えない。
また、AIが判断する戦争というのも、人間の外交や政治の延長とは言いにくい。たとえ元のAIを人間が作ったとしても。
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一方、「戦争は外交の失敗」という言葉にも、様々な問題がある。今回の炎上騒ぎのように、「侵略戦争は侵略された国の外交の失敗」(ウクライナの失敗)と解釈される余地があるし、もともと外交などあまり無かった可能性もある。
むしろ、「戦争には、外交の失敗または不在という側面もある」(by テンメイ)と言うべきだろうが、こういった細かくてハッキリしない表現だと、一般には普及しないのであった。特に、単なる一般人の言葉では♪ それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 3357字)
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