SMAPの反戦歌『Triangle』、三角(トライアングル)という曲名と歌詞の意味、図式的解説~ヘーゲル哲学の弁証法(正・反・合)
ロシアのウクライナ「侵攻」を機に、SMAPの2005年の曲『Triangle』(トライアングル)が注目を浴びてるらしい。私はこのブログでスマップ関連の記事をかなり書いてるが、正直、この曲は知らなかったというか、題名は覚えてなかった。メロディーは聞き覚えがあるような気もする。
ただ、2005年のNHK『紅白歌合戦』の大トリで歌われたと言われても、16年2ヶ月も前のことだから覚えてない。途中で実家のテレビを消されたかも♪ 反戦歌らしいけど、「三角」という抽象的な曲名は、歌詞の中でどう歌われてるのか。
直ちに歌詞の検索を行うと、「triangle」も「トライアングル」も「三角」も、歌詞に入ってないのだ。英語の特殊な意味とか、スマップ関連の特殊な意味があるのかとも思ったが、なかなか見当たらない。
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トリノ五輪その他、スポーツに関するテレビ朝日のテーマ曲だったらしいから、「tori」と「triangle」を掛け合わせたという側面もあるのかも知れないけど、それでは反戦歌にならないし、歌詞全体ともつながらない。
ということは、やっぱり「三角」なのだ。では、三角とはどんな意味なのか。何を表してるのか。歌詞の権利は厳しく管理されてるので、著作権侵害にならないよう、控えめに説明してみよう。ごく簡単な解説だ。作詞家は、市川喜康(よしやす)。本人twitter はこちら。
ちなみに、CDのジャケットをビクターで確認すると、幾何学的な三角の図形のイラストになってた。意図的に多義性をもたせたわけだろう。
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トライアングル(三角形)と、反戦。私が最初にイメージしたのは、イラクという国の地理的な形だった。大まかに見ると、三角形に見えなくもないし、CDジャケットの三角の傾きともほぼ一致してる。
ここからは、道路標識の逆三角形も思い出される。例えば、「止まれ STOP」とか、「徐行 SLOW」とか。国土交通省HPの一覧より
しかし、それだけでは関連が弱いので、歌詞の中から三角に似たものを探すと、2種類の三つ組が登場してた。まず、「僕の目」「キミの手」「僕らの声」。いずれも、母音の「エ」で韻を踏んでる。め、て、こえ。
それに続いて、「僕の肌」「キミの母」「僕らの愛」。こちらは、母音の「ア」で韻を踏んでる。「は」だ、「は」は、「あ」い。
これら2種類の三つ組は、同じ構造になってる。私、あなた、私達の組合せなのだ。最後は「彼」とか「彼女」みたいな三人称ではなく、私とあなたを含み込んで統一する概念になってる。
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本当に三角形という図形を使って示すと、下のような感じになる。
ここで思い出すのは、お堅くて小難しげな哲学のお話。18世紀末から19世紀序盤にかけて活躍した、ヘーゲルというドイツ哲学者の大がかりな理論だ。ここでの話に合わせて、単純化して書くと、世の中すべての物事の関係、進展を、三角形で認識しようとする。
1番目に、何か、元のものがある。例えば、ウクライナという国家。2番目に、ロシアという国家が激しく対立して来る。そして3番目。今、2つの国が、そして世界が目指してるのは、対立を乗り越えた状態、解決だ。
そうした高次元の状態や解決に至ることを、古い日本語訳で「止揚」(しよう)とか「揚棄」(ようき)と呼ぶ。ドイツ語の動詞だと「aufheben」(アウフヘーベン)。名詞なら先頭が大文字。
基本的な意味は2つ。上に上げることと、何かを否定・中止すること。だから、まさに争いごとの和解にはふさわしい意味とも言える。もちろん、日本語にすると堅苦し過ぎるし、古臭い哲学のイメージも強いが。
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今回の戦争の場合、止揚・揚棄に当たるものは何か? 日本も含めて西側諸国にとっては、単なるロシアの全面撤退かも知れない。しかし、ロシアにとっては今さら受け入れがたいことだろうし、ロシア側に理解を示す他の国も複数存在する。
話を近代のヘーゲル哲学に戻すと、高校の倫理という選択科目も含めて、通俗的な説明ではよく、3つ組を「正・反・合」と書いてる。1番目の元のものが、正。2番目に、対立して来る立場のものが、反。3番目に、2つを合わせたような高次のものが、合。
したがって、今のウクライナ情勢は、正・反のプロセスを経て、合への止揚を目指してるということになる。こうした三つ組みを通じた世の中の進展の筋道が、(ヘーゲル的な)弁証法と呼ばれるもの。ちなみに、単なる弁証法だと、他の種類や意味も色々あるので、念のため。
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抽象的な話はいいから、具体的に何が言いたいのか。何をすべきなのか。そう思う人もいるだろう。
1つの曲の歌詞に、すべての対立を解決する具体策が書いてあるはずはない。ただ、この曲は日本語で書かれた日本のヒット曲。当然、日本という国、日本人という国民・民族を意識してるはず。
例えば、イクラ戦争なら、米国とイラクの間に立つ第三者として、問題の解決に尽力する。
ウクライナ人とロシア人の間に立つ日本人についても、同様。
決して高みの見物などではなく、自分のことのように寄り添いつつ、考えて対処する。そうした三角形的な行為がたくさん実現すれば、日本を中心に「世界に一つだけの花」が咲くのだ・・とまとめるとキレイ過ぎるだろうか♪ 桜の花びらの無料イラストは、イラストACより。
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なお、曲の歌詞に戻ると、冒頭の「都心を少し外れた小さなこの部屋」というのは、要するに日本のことだろう。
現実の対立関係や三者関係は、対等ではなく、大小関係や偏(かたよ)りもある。例えば、米国と中国という超大国の間に立つ日本は、小さな国で米国側なのだ。あくまでその制約の中で、考え、行動することになるから、「見えないものばかり」というのが素直な告白になる。
ウクライナ問題に関しては、少し異なる三角形になってるかも知れない。日本は小国の側のウクライナに寄り添ってる形だが、例えばロシアへの制裁がどの程度まで妥当なのか、あるいは、ウクライナへの支援の種類や量はどうすべきか、少し「徐行」「STOP」して再考する余地があるような気もする。混沌とした対立の中で、何が、より平和的な行為なのか。
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一方、歌詞に戻って、「祖父」と「父」というのは、歴史で言うと、戦前と戦後の象徴だろう。「僕ら」はその後だから、ほとんど何も実体験してない存在。そして、家族のつながり、家系というものも、三角形の連鎖で構成されて、「目」や「肌」や「声」(母国語)に関わって来る。
2世代、2つの三角形の配置を変えると、祖父-父-僕の三角形も縦長に作れる。
ちなみに、精神分析ではエディプス三角形とも呼ばれる。父と母との関係で苦悩したギリシア神話の主人公の名前がエディプスだった。
この程度に三角形のイメージをふくらませておけば、『トライアングル』という題名も歌詞の内容もしっくり馴染んで来るだろう。少なくとも私自身は、最初に曲名と歌詞を見比べた時の違和感がほぼ消えた。
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要するに、自分の外側にある2つのものについて、自分との関わりを見つめ直そうということか。そしてそれが、現実の国際関係の戦争打開にもつながるだろう。そう、期待したいという、ささやかな希望と祈り。単なる他人事として傍観してるだけではダメ。「構えた銃」が、僕らに「突きつけられ」て、真剣な態度を迫ってると。
予想外に長くなって来たので、今日はそろそろこの辺で。。☆彡
P.S. 3月11日の朝、急激にアクセスが増えたのでツイッター検索をかけてみたら、NHKニュース『おはよう日本』で曲が紹介されたとのこと。早速、NHKプラスの動画で確認した。
作詞家によると、アフガニスタンを意識して、「銃を向ける人」と「向けられる人」と「それを見ている自分」の三角関係を意識したタイトルとのこと。
ただ、もっと色々と考えた上でのタイトルだと思うし、考えるに値するタイトルと歌詞だと思う。楽曲に限らず、一般に、芸術作品と作者は別物。作品は作者の意図を超えたものとして、周囲に自由に広がっていく。
(計 3077字)
(追記252字 ; 合計3329字)
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