英語のことわざ(慣用句)、「部屋の中の象」(elephant in the room)に気付かない~出典はロシア寓話「好奇心の強い男」(クルイロフ作)
面白い・・と私は思ったが、ネット検索すると、文学的な出典まで目配りした日本語の情報は非常に少ない。この状況自体が、まさに「部屋の中の象」的なことか。
「ハッキリ目立つ大きな物事」(象)が「身近」(部屋、居間)に存在するのに、誰も気付いてないか、気付かないフリをしてるのか。下は、dmm英会話ブログより。
遅まきながら、私はやっと象を発見したから、簡単なブログ記事にまとめとこう。「部屋の中のブヨ」みたいに小さなものでも、「好奇心の強い」読者の一部は見つけてくれるだろう。。
☆ ☆ ☆
まず、なぜ私が象に気付いたのかを書いとこう。昨日(2022年5月9日)、ロシアのプーチン大統領が戦勝記念日の演説をしてたから、全文をチェック。「ナチズム」「ネオナチ」という非難の言葉が強調されてるから、ファシズムとの微妙な違いも含めて、色々と調べてみた。
私は単なる一般的な政治社会用語として調べ始めたのだが、ウクライナのネオナチに関する海外(欧米)の記事がかなりヒットした。メジャーなメディア・通信社が色々と書いてるのだ。どうも、扱いが繊細で微妙な問題らしい。
日本の報道や世論だと、ウクライナは善なる被害者、ロシアは悪の加害者、「ウクライナのネオナチ」といったプーチンの話は誤り・フェイク、といった感じになってる。
それらを少しでも否定する人、少しでも中立的立場を取ろうとする人は、現実が見えてないとか、陰謀論者とか、批判されることになる。東京大学の入学式で微妙な祝辞を述べた映画監督・河瀬直美が典型だろう。直ちに批判が相次いだ後、直接関係ない話で文春砲にもバッシングされてた。
欧米でも基本はそうだと思うが、流石に言うべきことは言うし、書くべきことは書いてる。これは、メディア・リテラシー的に注意が必要な状況だろう。特に、同調圧力が強くて情動的な日本社会に住む者にとっては。
☆ ☆ ☆
朝日新聞HPの論説コーナー、「論座」の記事が目に留まった。
ウクライナには「ネオナチ」という象がいる~プーチンの「非ナチ化」プロパガンダのなかの実像(上)(中)(下)
執筆者はルポライター、清義明(せい・よしあき)。失礼ながら正直、大丈夫か?と思ってしまったが、しっかりした内容で興味深い主張だ。
要するに、ウクライナのネオナチは明白な事実なのに、単なるプーチンのプロパガンダ、侵攻・侵略の口実であるかのように扱われてる。実像(実際の象)をよく見てみよう・・という話だ。
アゾフ大隊(アゾフ連隊)の件とか、どの情報をどの程度信頼していいのかよく分からないので、とりあえず今回はこれ以上、触れない。それより、「部屋の中の象」という言い回しと出典に注目してみよう。
☆ ☆ ☆
上の論座の記事の冒頭では、こう書かれてた。
英語で「象が部屋にいる」という言い回しがある。・・・「あんなにも大きな象が部屋にいたとしても、あえて見なかったことにする」という意味である。誰もが知っていることだとしても、なかったことにしたほうがいい。そういうことは確かに世の中にはあるかもしれない。
プーチンが、「ウクライナを非ナチ化する」と宣言したとき、大方の人々は狐につままれたような反応で、そのうち識者や国際政治学者はこぞってプロパガンダであると断定しだした。だが、本当にそうなのだろうか。・・・
私の手元にある『ウィズダム英和辞典 第4版』(三省堂、2019年)を引くと、「the elephant in the (living) room」というイディオムが載ってた。意味は、「誰もが知っていながら口をつぐむこと」。
英語版ウィキペディアの項目の冒頭では、こんな感じに要約してある。
何か巨大なものが無視されてるのは、それが不快だったり、危険だったりするため、抑圧の心理メカニズムが働いてるから。そんな背景説明も書かれてる。
☆ ☆ ☆
英語版ウィキでさらに本文を読むと、出典として、ロシアの寓話作家クルイロフ(Krylov)の作品が挙げられてた。「The Inquisitive Man」。好奇心の強い男(または、人)。
ロシア語の原題をGoogle翻訳で英訳すると、curious だったから、「変な人」という意味も少し入ってる可能性がある。その方が、内容に合ったタイトルだし、皮肉も効いて面白い。ただ、ロシア語的には、詮索好きのような意味合いが普通みたいだ。
日本では、数種の翻訳本を除くとほとんど紹介されてない。上は岩波文庫『クルイロフ寓話集』。しかし、英語版ウィキソースを見ると、英訳が掲載されてた。全文でも非常に短い寓話で、イソップ物語に似てる。
あらすじをまとめると、次の通り。好奇心の強い男がある日、友人と出会って話しかけられた。「どこ行ってたの?」。男は、「自然歴史博物館で3時間過ごしてたんだ」と答えた。
小さなブヨまで含めて、いろんな物を見たと聞いて、友人がたずねた。「当然、象も見たよね。山みたいに感じただろ?」。すると、男が答えた。「誰にも言わないでくれよ。実は、ゾウには気付かなかった!」。
☆ ☆ ☆
上が、ロシア語版ウィキソースの原文のラスト。先に引用した英訳とは微妙に違ってる感もあるが、ロシア語は分からないので、単なる印象つぶやきに留めとこう。上の左下の5文字が象を表す単語で、普通のアルファベット表記に直すと「Slona」だが、Google翻訳の発音は何度聴き直しても「ファンナ」と聞こえる。
この寓話はその後、文豪ドストエフスキーの『悪霊』でも引用されたらしい。出典がまさに今、話題の国、ロシアというのは、偶然なのか、必然なのか。帝政ロシアだった当時から、巨大な物事が語られない社会状況、無言の圧力があったのかも。
それは、相手の国であるウクライナでもそうかも知れないし、ウクライナを支持する国々でもそうなのかも知れない。私も、好奇心の強い日本人として、象には気付くようにしたいし、「あそこに象がいたよ」、「そこに今、象がいるよ」と話せるようにはしたい。
そのためには、意識的な注意力や努力、勇気だけでなく、無意識の抑圧や排除のメカニズムを理解することも必要だろう。時間が来たので、今日はこの辺で。。☆彡
(計 2573字)
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