オリビア・ニュートン=ジョン追悼、最大のヒット曲『Physical』(1981)のMV映像レビュー
オリビア・ニュートン=ジョン(Olivia Newton-John)というと、私の感覚では、『Have You Never Been Mellow』(邦題・そよ風の誘惑、1975年)が代表曲。個人的にはこの曲がベストだし、少なくとも日本ではそうだろう・・と思ってたが、レコード売り上げとかヒットという観点だと違うらしい。
下は同名のアルバムのカバー。英語版ウィキペディアより。ビートルズその他でも有名な、英国・アビーロードスタジオでの録音。この写真は日本でも使われたものだが、シングルのカバーはかなり違ってる。
既に27歳だから、意外なほど遅咲きのスターだ。可愛い女の子というより、キレイなお姉さん、美しい女性。英国生まれでオーストラリア育ちという経歴も関係してるのかも。彼女が最も成功したのは、3番目の国である米国の市場だから。
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米国その他、世界レベルの商業的成績でいうと、オリビアの最大のヒット曲は『Physical』(フィジカル、1981年)。
特に全米では10週連続ビルボード1位だから、素晴らしい☆ 映画なら、ミュージカルの『Grease』(グリース、1978年)。楽曲と映画、これら2作の成功が断トツのようだ。
そこで今日は、『Physical』のMV(ミュージック・ビデオ)を細かく分析してみよう。上はシングル・レコードのカバーで、英語版ウィキより。あえぐような官能的な表情を見せてる。同名アルバムのカバーはまた別。
前から書いてるように、映像の分析は、世界的にも非常に少ない。映画やドラマでも、MVでも同様。ということは、記事を書いても需要も少ないわけだが、私自身が興味あるので問題ない。単なる歌詞の(簡単な)解説なら、あちこちにあるだろうし、奥行きが足りない。
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利用したのは、YouTubeで公開されてるVEVOの公式映像。一応、リマスター版とされてるけど、昔のままの動画と比べてもそれほど変わってない気がした。静止画と比べて動画の変換は遥かに難しいし、たぶん元の動画が古過ぎるのだと思う。
ミュージック・ビデオというものが一般的になったのは1970年代後半くらいからで、一躍メジャーにしたMTVが誕生したのが1981年の夏。
『フィジカル』のビデオは82年2月に発表されてるから、かなり初期の作品だし、そもそもオリビアは音楽ビデオの世界で先駆者の1人らしい。ビジュアル、ルックスに恵まれてるのも、分かりやすい理由の一つだろう。結果的に、完全に正しい選択と判断だった。年齢的にも33歳だから、童顔にも助けられて何とか間に合った形か。
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では、実際の映像を見て行こう。全体は1つのコミカルな物語。当時、急激に流行り始めたらしいフィットネス・クラブ(ジム)で、オリビアがエアロビック・ダンスの派手なコスチューム(レオタード)を着用。女性インストラクターとかトレーナーとして、太った(ふくよかな)男性たちをビシビシ鍛えるストーリー。
ちなみに、全米No.1とNo.2のクラブがほぼ同じ時期に誕生してる。これは、70年代に広まった有酸素運動(本来の意味のエアロビクス)の影響もあると思うが、いつの間に無酸素運動の筋トレが前面に出て来たのかは、まだ調べてない。無酸素の方がダイエットに効果的だという理論は、当時まだほとんど無かったと思う。
この曲は、歌詞もビデオも明らかにセクシャル(性的)で、当時でさえかなり問題視されたらしい。今の日本では絶対に作れないはず。例えば、上のカット。オリビアの手が「男性」を撫でてるようにも見える。完全にギリギリを狙った、1秒ほどの短いシーン。
この辺りの英語の歌詞に、「I gotta handle you ・・・」と書かれてる。あなたを操作しなきゃ♪ 私が言ってる事、わかるでょ♡ 歌詞というか、曲の作者(ソングライター)は、Steve Kipner と Terry Shaddick 。
ヒット曲『カントリーロード』の素朴な歌詞とは大違いだが、実は『そよ風』の歌詞には、軽くほのめかすようなフレーズもかなり入ってる。オリビアの清純なイメージと爽やかなメロディーで、性的な暗示(ほのめかし)が隠されてるのだ。
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オリビアのコスチュームもギリギリで、色使いとか派手だが、露出は少ない。上のように胸をアピールするカットでも、胸の形さえ浮き上がらないようになってる。6人のふくよかな男性も、エッチな視線にはなってない。
上からの連続映像で出て来る、股を開いて腰(お尻)を突き出すカットでも、上下逆転させて周囲も切り取ってるから、それほどエロチックでもない・・と私は思う。制作者サイドと共に♪ 股間もカラータイツとレオタードで二重にガードされてるし、表情も明るく健康的。
最初、短めのレッグウォーマーを身に付けてるのかと思ったが、アップで確認するとソックスみたいだ。シューズはジャズ・ダンス風のものか。今なら、ジョギングシューズみたいな靴がフツーだと思う。私は時々、ジムに行ってるけど、ダンスレッスンに参加したことはまだない。遠くからチラ見するだけ。
上のシーンは、オリビアがランニングマシン(トレッドミル)のスピードを上げて、男の生徒を鍛えてる所。いきなりマシンの負荷を最大レベルまで上げるパワハラ的シーンもある。
なお、レッグウォーマーとレオタードが目立つ映画『フラッシュダンス』は1983年。それを考えても、『フィジカル』の音楽ビデオは時代を先取りする企画になってる。
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端的に言うなら、女性インストラクターは「女王様」だ。それに気づくと、上の画像はボンデージ的な調教のパロディだと分かるし、後でなぜテニスが出て来るかも分かる。ラケットが、お尻叩きとかに使うSM調教グッズ(パドル)のパロディになってるのだ。
途中でバテバテでダウンした生徒たちにあきれたオリビアは、シャワーを浴びに行く。セクシーな表情のサービス・シーンであると同時に、あらすじ的な転換点。
ここはギターのソロ演奏が目立つ箇所だが、ギターの代わりになってるのは、筋トレ器具のエキスパンダー♪ 案外、エアギターのはしりのお遊びかも。
シャワーを浴びること自体、次にする事の準備という意味も含んでるし、「液体を受ける」ことのメタファー(比喩)にもなってる。歌詞は、もう話すことなんてないわ。フィジカル(肉体的、身体的)になりましょ♡ 「Let's Get Physical」が曲の原題だったらしい。
話がズレるというか、ズレてないのかも知れないが、実はオリビアの祖父は、ノーベル物理学賞に輝いたボルン。アインシュタインともつながってる大物だ。物理学を表す英単語は Physics だから、曲名と歌詞は「物理学的にいきましょ」という意味も含むことになる。
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で、彼女がシャワーを浴びて出て来ると、バテバテだったふくよかな男性たちも準備万端。小さい下着1枚のムキムキ・マッチョになってるのだ。顔までイケメンで、ポーズもしっかり取ってる。
驚いたオリビアは、喜んで男性と背中合わせ(&お尻合わせ)に。この背中というのがポイントで、もし右側の男性が逆向きになってたら、完全に「3P」モードになってしまうからマズイのだ。男2人に女1人が挟まれる形。左側の男性が何気にモッコリしてる点も見逃せない。このカットでは、オリビアの胸もやや目立ってる。
さあ、一緒に「テニス」しましょ♡ 美しいプロポーションの全身を誇示するオリビア。白いショートパンツとソックスの間に、細長い美脚が伸びる。テニス(tennis)という言葉が、音声的にも文字的にも、「男性自身」とそっくりな点も興味深い。精神分析的な見方。
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最後は、現代だと無理そうなオチがついてる。イケメンのマッチョたちは、ゲイ(男性同性愛者)のカップルになって、2人ずつ仲良く部屋から出てしまう。
取り残されて慌てたオリビアが隣の部屋に向かうと、ふくよかな男性が1人残ってた。いつの間にか、こちらもテニス・ラケットを持って。
というわけで、最後は仲良く「テニス」のゲームをプレイ。歌詞は、「Let's get animal」。動物になりましょ♡ ハーハー、息を切らせながら、美女と野獣が動物的なボディー・ランゲージ(身体言語)をかわす。あなたのボディー・トークを聞かせて♪
メロディーやアレンジがいいのはもちろんとして、歌詞とビデオが非常にセクシャルで攻めてるのがよく分かった。ひょっとすると、これを見る人には、オリビアではなく男性俳優目当ての人が結構、含まれてるのかも。ふくよか派にせよ、マッチョ派にせよ、BL派にせよ。
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なお、この曲は当初、ロッド・スチュワートやティナ・ターナーといった大物に提供される予定だったが、結局はオリビアの元へ。それが最大のヒットとなったのだから、半ば偶然のラッキー。
もちろん、そうした幸運には、実力や努力も必要なのであった。音楽、映画、乳がんとの長年の闘い。73年間の輝く人生を終えたオリビア・ニュートン=ジョン、どうか安らかに。。☆彡
(計 3711字)
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