デカルトが「虚数(nombre imaginaire)」と名付けたという説明は誤り(or不正確)~NHK『笑わない数学』第6回
NHK(総合)で放映中の『笑わない数学』は、明らかに情報「バラエティ」的な番組だから、最初は見てなかった。その種のものは、たとえ数学監修として数学者の名前が書かれていても、学問的にかなり不正確なのだ。単純に間違ってることもあって、当サイトでは過去、何度も指摘して来た。
ただ、第4回の「P対NP問題」を、NHKプラスの動画で少しだけ見て、かなり工夫した作りになってるのは分かったから、第5回の「ポアンカレ予想」はわりと真面目に視聴(動画)。
きゅうすが、トポロジー的に8の字型ドーナツと同型だと示すCGとかは流石だと思った。あれは言葉や静止画では非常に分かりにくいが、CGアニメの連続的変化なら直感的に分かった気になれる。
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第6回も動画で見ようと思ってたら、22年8月17日の放送中、このブログに検索アクセスが次々と入って来た。直ちにNHKプラスの動画で追いかけ再生してみると、無理数を発見したヒッパソスをピタゴラスが「処刑してしまったと伝えられています」とか、「殺人犯だったかもしれない」などと説明してる。
この件については当サイトで8年前、かなり突っ込んで調べた記事を書いておいたから、一昨日、直ちに追記した。既に、どこかのfacebookにリンクが貼られたようだ。
無理数を発見した弟子をピタゴラスが殺した伝説の検証~『ハードナッツ』第3回
これはNHKの数学ドラマのレビューで、簡単に結論だけまとめるなら、殺人説はかなり怪しいということ。信頼できる根拠は見当たらないし、根拠であるかのようにネットで語られてる文献を私が実際に調べてみると、殺人説など書かれてないのだ。特に、日本語のウィキペディアの説明は、ありがちな事ながら、ほとんど信頼できない。
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さて、その『笑わない数学』第6回のテーマは、「虚数」。16世紀の発見のエピソードに続いて、17世紀のフランスの数学者&哲学者、デカルトの話がごく簡単に登場した。

17世紀、デカルトは、マイナスの数のルートなどありえないという意味を込め、「nombre imaginaire(ノンブル・イマジネール)」、「虚数」と名付けました。
デカルトは有名人だが、「虚数」の名づけ親だという話は聞いたことがない。直ちに、英語とフランス語で調べてみると、やはり誤りのようだった。そんな話はどこにも見当たらない。
結論的に、そのNHKの説明は間違い。もうすこし穏やかに言うなら、不正確な説明だ。数学監修は、数学者・小山信也。歴史については気にしなかったのか、普通の放送スタッフに任せてしまったのか。
ちなみに、「ありえないという意味を込め」という解釈も、私は言い過ぎだと思うが、それは海外でそう説明してる文献があるようだし、聞き流してもいい。
ポイントは、2乗してマイナスになる数(方程式の解、根)を「虚数」と名付けたかどうか。そこだけだ。結論的には、デカルトは名付けてないし、代わりに誰が最初に名付けたのかも分からない。
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デカルトがその奇妙な数について書いてるのは、『幾何学』(1637年)という書物の終盤。元のフランス語では、『Geometrie』。英訳なら、『Geometry』。これは、非常に有名な『方法序説』に付随するもので、学問の「方法」の具体的な使用例を示そうとするものだ。
元のフランス語と英訳の文を、対訳の形でまとめた本が、Internet Archive で公開されてる。「imaginaire」な(想像上の)数について書かれてる箇所を、仏語と英語で引用させて頂こう。


デカルトが本当に書いてるのは、「imaginaire」という形容詞のみ。「nombre imaginaire」という表記は無いし、名付けてもいない。
そもそも、奇妙な数として語ってるというより、方程式の解・根の中で「reel」(リアル)でないものについて少しコメントしてるだけなのだ。
☆ ☆ ☆
デカルト他の場所で名付けてるのかも知れない。そう考えるのは自然なことだが、英語版ウィキペディアで複素数の歴史について調べても、上の引用箇所を挙げてるだけ。ちなみに、フランス語のウィキの説明は、英語版より劣ってたので引用しない。よくある事だ。普通の学術論文も見当たらない。

なお、もし穏やかに言うのなら、次のようになるだろう。
NHKの説明は、簡単にわかりやすく語ったもの。
より正確には、
「デカルトは『imaginaire』(想像上の)
という形容詞で説明。これを受けて後世の学者は、
『nombre imaginaire』(虚数)と
呼ぶようになったようだ」
ということだ。
私自身は、誤り、間違いだと指摘する方が良いと考える。NHKやテレビには巨大な影響力があるので。それがネットで拡散するかも知れないし、学校の先生が真に受けて生徒に教えてしまう恐れも十分ある。
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最後に、番組でデカルトに続いて語られたニュートンの言葉、「虚数の解は不可能と見なされるべきである」は、どうも本物「らしい」。「不可能」という訳語の元の言葉(英語)は、impossible 。インポッシブル。
ある英語の数学史の文献によると、講義録のようなものに書かれてる「らしい」が、原文は正確に挙げてなかったから、保留しとこう。
ただ、過去の経験上、そこまで書いてる説明は正しいと思う。筆者が本当に元の文献をチェックしてるかどうかはさておき。「また聞き」のような形で書く筆者は、学問の世界でも珍しくない。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2302字)
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