天才マリリンの正答が批判されたモンティ・ホール問題(確率論)、元のTV番組にはない作り話~『笑わない数学』第11回
今回のメインの内容は、数学好きにとってはまた出たか・・といった感もある、確率論の超有名問題。番組では名前を出してなかったが、「モンティ・ホール問題」(Monty Hall Problem)だ。
3つの選択肢から、お目当ての1つを当てる時、自分がまず何か1つ選択した後、ハズレを1つ教えてもらえるという話。その情報を受けて、自分の選択を変えるべきかどうか。
論理的な確率論と人間心理がぶつかる問題で、誰でもすぐに設定は分かるし、不思議で面白い。解説は高校1年の数学の教科書レベルで、実験による確認も簡単に可能。
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ネット上に数学的な説明や感想(納得いかないとか♪)も溢れてるし、このブログでも過去2回、関連記事を書いてる。今さら、同じ説明を繰り返すのは避けよう。
全国学力調査、伝説の確率の問題が登場♪(モンティ・ホール問題)
ベルトランの箱のパラドクス~フランス語原文と日本語訳、確率の計算
歴史的な流れをまとめると、もともと「ベルトランの箱」という話があって、それを面白く改良したのが「3囚人問題」。1人の囚人だけ助けてもらえるが、自分はその幸運な1人かどうかを当てようとする。
そして、もっと身近なくじ引きタイプのバリエーションにしたのが、今回のNHKでも大きく扱われた「モンティ・ホール問題」だ。
既に記事を2本書いてる話だから、スルーしようかと思ったが、調べてる内に意外な事実を発見したから気が変わった。日本ではほとんど紹介されてないようだから、私が書いてみよう。この問題はもともと、作り話、単なる若手の統計学者の創作だったということだ。
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『笑わない数学』に即して、問題と騒動の流れをカンタンにまとめとこう。
3つのドアA、B、Cの内、どれか1つの向こう側に当たりの商品(車)が隠されてるゲームを考える。あなたがまず、ドアAを選んだとしよう。すると司会者が、Cはハズレだと教えた上で、選択をドアBに変更してもいいですよと誘う。
残りのドアはAとBの2つで、当たる確率はどちらも2分の1だから、選ぶドアを変えても変えなくても同じ(?)。そう考えるのは「自然」な発想の1つだし、「理屈が合ってるような感」もある。
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この問題が約30年前(1990年)、IQ228とされる天才女性タレント、マリリン・ヴォス・サヴァント(賢いマリリンという意味の本名)の雑誌コラム、「マリリンに聞け」(Ask Marilyn)に投稿された。写真を見ると、美人でもあるようだ。雑誌名を間違えて書いてる日本の学術論文も見かけたが、正しくは『Parade』(パレード)で、現存する人気週刊誌。
マリリンは質問に対して、「変更する方が有利で、当たる確率は2倍」と返答。これが正解。
ところが、それは間違いだ、おかしい!といった投書が殺到してしまう。批判者の中には、学者も含まれてた。
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NHKでは、3つの箱を使って100回ずつ2通りに実験。選択する箱を変える「マリリン派」は、70回成功。箱を変えない「反マリリン派」は33回の成功。ほぼマリリンの意見の通り、約2倍の差になった。
実験的にもマリリンは正しそうだし、理論上も正しい。説明は色々とあるが、NHKが示したのは次の通り。
あなたがAを選んだとする。もし、当たりがAなら、変えない方がよい。当たりがBなら、変えた方が良い。当たりがCでも、変えた方がよい。
よって、変えずに商品をもらえる確率は3分の1。変えて商品をもらえる確率は3分の2。「確率は2倍なのです」。
☆ ☆ ☆
この説明は、数学的、論理的にかなり問題がある。数学監修の小山信也と楠岡成雄は、これで正しい証明だと思ったのだろうか? まさか炎上狙いとも思えないが、編集の過程でズレが生じて、完成後の最終チェックはしなかったのかも知れない。
そもそも、Cがハズレだと分かったという直前の条件を使ってない。だから上図で、Cが当たりの場合まで書いてしまってる。つまり、いつの間にか問題を変えてしまってるのだ。
また、Cの話と関連することだが、Cがハズレと分かった時点で、Aが当たりの確率とBが当たりの確率がどうなってるのか、そこも説明されてない。上の説明では、まるでそれらが同じのようにも聞こえてしまう。
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正しい説明は、ウチでも前に書いてるし、至る所に書かれてるから、今回は省略しよう。「条件付き確率」とか「原因の確率」で計算すればいい。
簡単に説明し直すと、ハズレ情報なしの普通の「事前確率」で計算した時、ドアCが開かれる確率は次の2通り。
(Aが当たりで、Cが開かれる確率)=(1/3)×(1/2)=1/6
(Bが当たりで、Cが開かれる確率)= (1/3)×1=1/3
よって、(Cが開かれた後、Bが当たりの確率)
=(1/3)/{(1/6)+(1/3)}
=2/3 ・・・事後確率
、
ただし、理屈の最終的な根拠は、実験による統計的な実証しかない。有名な数学者エルデシュが納得したのも、コンピューターによるシミュレーションだったとか言われてる。その意味で、番組が実験してみたのは正しい姿勢。
といっても、視聴者にはそのデータの信頼性までは分からないが。制作スタッフを主観的に信じるしかない。だからこそ、たまに暴露されるやらせのような偽造、捏造が強く非難されるわけだ。
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さて、この問題は、モンティ・ホールという司会者によるテレビ番組『Let's Make a Deal』(取引しよう)だとされて来た。
番組を受けて、スティーブ・セルヴィン(Steve Selvin)という学者が学会誌『American Statistician』(米国統計学者)の1975年2月号で紹介。75年8月号で「モンティ・ホール問題」と名付けたとか。下は公開されてる部分。なぜか、司会者の名前 Monty が Monte と書かれてる。意図的に少し変えたのかも。
ところが昨日、私がYouTubeで過去の番組の動画を見た所、内容がちょっと違ってる。3つのドアがあって、車が当たりでヤギがハズレとか、ハズレのドアを示すとか、似た形にはなってるが、司会者が変更を促す様子がないし、参加者が選択を変える場面も見当たらない。
そこで調べ直してみると、どうも番組を受けて若手学者がアレンジした創作らしい。作り話であって、本当にテレビでモンティ・ホールが、みのもんたの「ファイナル・アンサー?」みたいなプレッシャーを参加者にかけてた訳ではない。
ホール自身からセルヴィンへの応答が、学会誌に掲載されて、番組HPにも転載されてた。実際にショーに来てくれれば分かりますよ、と書かれてる。セルヴィンも認めてるとのこと。
そもそも、最初の学会誌投稿も「レター論文」であって、正式な学術論文ではない。若手の研究者がちょっと「盛った」話を書いたのが、やがてマリリン騒動につながって、世界中に拡散したという感じか。
☆ ☆ ☆
間違った情報、フェイクニュースの方が拡散スピードが速いとか、ウケるという指摘は、こんな所でも正しいようだ。私も昨日まで知らなかったので、ちょっと反省した。
なお、一般化すると、Nコのドアの内、pコのドアを開けるという形になって、常に選択を変更した方がよいことが示される。ただし、ドア全体が多くて、開くドアが少ないと、あまり違いがなくなって来る。これは直感的にも納得できるだろう。
一般論の説明はもう省略。それでは今日はこの辺で。。☆彡
cf. デカルトが「虚数(nombre imaginaire)」と名付けたという説明は誤り(or不正確)~『笑わない数学』第6回
初期値敏感性とカオス(混沌)理論でピザ作り、「パイこね変換」具体例の計算と解説~第8回
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