子どもの原風景と運命、イメージと現実の連鎖~『教場0 風間公親』第6話
(向坂) 自首します
息子は あいつは
画家を目指すそうです
(風間) 素敵な作品ですね
(向坂) もっといいものを描けます
あいつなら
(脚本 君塚良一)
☆ ☆ ☆
終盤のグロテスクな惨劇の前、殺人事件解決のシーンの台詞はキレイに決まってた。風間(木村拓哉)の「素敵な作品」という言葉には、二重の意味が込められてる。
表面的には、画廊の外側のショーウィンドーに飾られた、向坂(こうさか:筒井道隆)の絵。熊乃背山の風景画。そして深層的には、向坂の実の息子、絵の才能が豊かな匠吾(城桧吏:じょう・かいり)。カンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)に輝いた、是枝裕和『万引き家族』の子役。
欲を言えば、向坂(筒井道隆)が「あいつなら」と言う前に、2~3秒の無言の間(ま)があればもっと良かった。長岡弘樹の原作『教場0』第2話では、少し間が空けてあるのだ。まあ、ドラマのラストには千枚通しの襲撃を長めに挿入したから、その分、絵の話の時間が削られたと。
☆ ☆ ☆
売れない画家である父の絵と、才能ある息子の小学校時代の絵。2つの描き分けは絶妙だった。たぶん、絵画制作スタッフ2人の内、亀山裕昭が描いたか、あるいは深く関わった絵だと思う。
上が、遠野(北村匠海)の依頼でわずか2日で描き上げた、実の父の絵。逮捕か自首までに時間が無かったこともあるけど、才能がいま一つだと思う。実際、ドラマでも原作でもそうゆう設定になってた。
それに対して、上の絵は、小学生が描いたにしてはかなり上手い。空、山、野原、微妙な色使いになってる。家の青い屋根や茶色い川の濁流(道?)が単調になってるのは、わざとだろう。元々は、空も単なる青にしてたのを、実の父のアドバイスで微妙な色にしたわけか。
匠吾にとっての「原風景」とは、直接的には自分が子どもの頃にスケッチブックに描いた上の絵。ただ、実の父の絵をたくさん見て育ったはずだし、実の父という存在自体が原風景といえる。「熊乃背山」という名前は象徴的で、「父の大きな背中」を表すもの。
☆ ☆ ☆
もちろん、実の母であって現在の母でもあるお母さんも含めて、匠吾にとっては実の親子3人の生活が原風景。だからこそ、そこに割って入った歯医者・苅部(浜田信也)の姿は、単なる不気味な歯の絵にされてた。
サブタイトルの「画廊の三枚の絵」は、直接的には、上の3枚。向坂に呼び出された苅部が冷淡な言葉を続けたのは、この3枚の並びに内心、激怒したからだろう。
こちらは、もう1人の絵画制作スタッフ、 長内江海(おさない・えみ)が担当か。twitterを見ると、2人の画家は以前から知り合いみたいだ。亀山が先輩格。
☆ ☆ ☆
苅部が殺されてしまった直接的な原因は、彼が、向坂が大切に保存してた匠吾の原風景の絵を床に投げ捨てたから。ただし、その絵は終盤までずっと宙吊り状態になってて、何度かチラッと一部が映っただけだった。演出・プロデュースは中江功。
もちろん、苅部に対する恨みや劣等感も、向坂にはずっとあったはず。妻が歯医者と浮気して、そのまま離婚、再婚、親権獲得。おそらく妻にしてみれば、苅部のお金と裕福な生活、社会的地位が魅惑的だったはず。
単純化すると、向坂の芸術性に、苅部の「頭」が勝った形になってる。歯科医になるための頭脳と、現実的な損得を考える「頭の良さ」。だからこそ、頭を切断されてしまった。手首の切断は、指紋の削除と共に、歯科医の商売道具の破壊になってる。
原作小説の方では、偶発的な殺人事件みたいになってた。向坂と苅部に体格差があるから、苅部が吹っ飛んでしまったのだ。何しろ、向坂は「熊乃背」の熊。苅部(かるべ)は軽(かる)いのだ。
☆ ☆ ☆
今回、映像的に地味にこだわってたのは、バスを降りるシーン。3回か4回、映されてる。最初、匠吾の前に降りた女子高生が地味にちょっと可愛かった♪
バスを降りるという行為。なぜかドラマでは人名が変えられてたけど、原作では2人の画家に関するエピソードになってる。キリコのある絵をバスの中から見たタンギーが、バスを降りて、やがて自ら画家になったとか。
ちなみに、その絵は右肩が少し下がってる男の裸体の絵なのだ。切断死体と似た特徴を持ってるのは、偶然なのか、必然なのか。ドラマでは、ペイントレーという画家(おそらくフィクション)とある若者の逸話へと変更されてた。
☆ ☆ ☆
フィクションといえば、画廊の外のウインドーに飾られてた、ソレーユという殺人犯の絵。これも創作で、検索しても実質的に何も実話がヒットしない。あえて言うなら、16世紀に実在した画家カラヴァッジョだけど、画風が全く違ってる。
ソレーユというのは、フランス語で「太陽」。燃える太陽と、殺人の血を合わせたような赤色が際立つ絵が印象的で、匠吾は悟るように遠野にこう語ってた。
「この絵。ソレーユっていう画家は殺人者だったんですよ。それでも立派な絵をいっぱい残してます」。
その絵の題名がまた興味深い(細かっ・・♪)。「オビディエンス」(obedience)。従順とか服従という意味の英単語で、特に親への従順さを指す言葉。
画家で殺人者の父親を持つ息子として、匠吾はこれから過酷な運命に従って生きることになる。しかし、もう、「父に従う」しかないのだ。進路も含めて。
☆ ☆ ☆
従順といえば、遠野も高校時代に病死した彼女に対して従順だった。死ぬ直前に彼女が病院から郵送してくれた写真と、裏側の言葉に従って、パトカーに乗る刑事を目指すしかない。
少し背伸びしても、結果的に刺されるとしても。「あなたの夢が叶うことを祈ってます。必ず叶えて!」。
今、思えば、前回の風間の言葉「背を向けた」というのは、今回の展開の暗示、フラッグだったのかも。千枚通しフード男(森山未來)がいるかも知れない方向に背を向けてしまったのが、致命的な失敗だった。来週、輸血で助かるのかも知れないけど。
☆ ☆ ☆
最後に、赤い絵に話を戻そう。今回のドラマは、最初から最後まで、赤色のイメージの連鎖ができてた。
まず、風間が暗い部屋から出るシーン。ドアの向こうに、赤いランプとその反映(?)が見えてる。つまり、濃い赤と、薄い赤。手前の右下には、赤い花がぼんやり映ってる。ズームレンズの焦点は、赤いランプに合わせてある。
その直後、ズームレンズは手前の花に焦点を合わせる。左には、落ちそうな赤い花びら。右上には、落ちそうにないしっかりした赤い花びら。
偶然にしては良く出来てるのだ。赤いランプと落ちそうな赤い花が、遠野。薄い赤ランプとしっかりした赤い花が、風間の象徴。
☆ ☆ ☆
そして終盤では、一連の悲惨な襲撃シーンの始まりに、横浜のシンボルである観覧車・コスモクロックが赤くライトアップされてた。
その後、観覧車のライトみたいに丸く赤く染まったのが、遠野の傘。
そしてクライマックス。右目を刺されたまま、千枚通しを抜こうともせず、瀕死の遠野に傘を差しかける風間の向こう側には、赤いネオンサイン。暗闇と赤。鮮明なコントラスト(対比)になってた。
現実の世界でも、イメージのつながりが出来る。例えば、匠吾の山の絵と、向坂の山の絵。
また、イメージと行為のつながりもある。例えば、キリコの絵と、タンギーがバスを降りて画家になったこと。あるいは、画廊の外の真っ赤な絵と、向坂の死体切断。
そして、フィクションの世界でも、イメージのつながりが作られてるのだ。ランプ、花びら、観覧車、傘、ネオンサイン。赤い映像の連鎖。。
☆ ☆ ☆
なお、個人的に気になったのは、画廊の外の少女の絵。氷山の階段を下りるような姿だけど、よく見ると、氷山は女性の裸の姿に見える。上の端には、2つの乳房の下側。その少し右下には、へその穴。
そう見るなら、これは女の子が母親の胎内から生まれ落ちる様子を描いた絵だろう。階段の曲がり方は、胃腸の線に似てる。幼い子どもの幻想なら、胃腸の先の肛門からの出産も不思議ではない。
そういえば、匠吾は顔つきもキャラ的にも女性的な少年。実はこの絵こそ、匠吾の最古の原風景なのかも。
ちなみに、精神分析学における「原光景」とよばれるシーンの代表の1つが、出産なのだ・・という話をすると長過ぎるから、もう止めとこう♪
教場0・第6話の世帯視聴率は8.3%、個人視聴率は4.9%。ビデオリサーチ調べ、関東地区。「今こそ」、踏ん張りどころか。風間も、ジャニーズ事務所を代表するスター、木村拓哉=キムタクも。それでは今日はこの辺で。。☆彡
cf. 一筆書きできない道、奇点を2コに修正すべき&万力で締め付けられる黒い心、光と影の映像美
~『教場0 風間公親』第1話
いじめ不登校の子どもの母親、担任教師への殺意から自分が逃げるべき~『教場0』第2話
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(計 3694字)
(追記267字 ; 合計3961字)
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