列車に死体を載せるトリックの懐かしい推理小説、ドイル(ホームズ)、フリン、江戸川乱歩、横溝正史~『教場0 風間公親』第9話
中込 子どもの頃 こういうミステリーが
よくあって 橋の上が舞台だった
犯人が 通過する列車に死体を落とす
屋根に落ちた死体は 何百キロも
先の場所で発見されて
犯行現場が特定できない
(脚本 君塚良一)
☆ ☆ ☆
そう。特定できないのだ。幸葉(堀田真由)が、職場で居眠りする中込(染谷翔太)にプレゼントした、起き上がりこぼしが♪ そこか! いや、私も眠くてフラフラ揺れてるもんで。
Googleアプリから画像検索したり、普通に「レゴ ブロック 起き上がり小法師」で検索したりしてみたけど、発見できない。
ちなみに中込の居眠りには、もっともな原因があった。推理小説の読み過ぎだったのだ♪ コラッ! そうじゃなくて、過去の誘拐事件トラウマ(?)は別にすると、同居する母親の認知症のせいだった。
私は幸い(?)、経験してないけど、施設に入れられない場合は本当に大変だろうと思う。とりあえず、私自身が認知症になるのは避けたい・・というか、万が一の場合は、早めに自主的に施設に入りたいもんだと思う。
☆ ☆ ☆
さて、ドラマ第9話のエピソード「橋上の残影」は、基本的には長岡弘樹の原作小説『教場X 刑事指導官 風間公親』(小学館)第3話に沿ったストーリー。トリックもほぼ同じ。サブタイトルも同じで、今回はドラマでもちゃんと意味可能。
原作に沿った内容に加えて、十崎(森山未來)の千枚通し事件を挿入。柳沢(坂口憲二)や聖子(新垣結衣)も登場させてた。遠野(北村匠海)は依然として、病院のベッドで眠ったまま。
風間(木村拓哉)は刺された右目をちょっとだけ気にしてるけど、痛い素振りはしてない。我慢してるわけか。不自由してる感じもしない。
今回の事件解決のポイントは、線路にかかる橋の上で風間がつぶやいた一言だった。「この現場は 懐かしい感じがする」。風間も昔は推理小説にハマってたと♪
☆ ☆ ☆
ドラマみたいな小腸の内視鏡カメラのレコーダーではないけど、列車の屋根の上の死体が遠くまで運ばれてカーブで下に落ちるというような謎解きは、私もどこかで読んだ気がする。ただ、おそらく小学校時代だから、流石に思い出せない。懐かしいね。もう、15年くらい前か(笑)
下が、電車の屋根から発見されたバッグに入ってた、内視鏡の記録装置。Flusscam で検索しても、実質的に何もヒットしないから、美術さんが作った物か。カプセル型のカメラ部分が、刺された腸の傷口から飛び出たと。最初、肛門が緩んで飛び出たという意味かと思って、パンツに引っかかるだろ?と思ってしまった(笑)
とにかく、マニアック・ブロガーは早速、列車トリックの元ネタを調べ始めたんだけど、なかなか見つからなくて、ほとんど諦めそうになった。
ちなみにドラマで中込が気づく直前に読んでた『刑事シーモア 旅路の終着駅にて』という小説は実在しない。下のキャプチャー画像の右側。美術スタッフさんが頑張って、蒸気機関車のイラストまで付けてるけど、検索しても、コミック・シーモアの刑事ものがヒットするだけ(笑)
☆ ☆ ☆
しかし、上の画像の左側は実在する推理小説で、古典中の古典、シャーロック・ホームズのシリーズ本。しかも列車トリックが使われてた。以下、ネタバレだらけなので、ミステリー好きの方は特にご注意あれ。
翻訳は色々あるけど、ドラマで使われたのは、創元推理文庫。無料サンプルで目次を見ると、この訳書では、第4章に「ブルース=パーティントン設計書」というエピソードが入ってる。この妙なタイトルは、新型潜水艦の名前から付けられたもの。
著作権が消滅してるので、英語版ウィキソースで無料公開されてた。初出1908年。地下鉄が停止した時、トンネルの上に窓が開いてて、そこから丸まった屋根に死体を置いたような話だ(ごく一部を流し読みしただけ♪)
☆ ☆ ☆
私がその話に気付いたのは、江戸川乱歩のエッセイ、『推理小説の「謎」』(初出1954年)を通じて。青空文庫で無料公開中。
乱歩はそこで、色んな「謎」を分類・分析して、具体例を多数挙げてた。乱歩の作品の背景に、そんな努力と知識が背景にあったとは知らなかった。「6 隠し方のトリック」にはこう書かれてる。
「(死体の)移動トリックでは、汽車の屋根を使うものが思いもよらぬ味を持っていて最も面白い。これらの先鞭はドイルの『ブルース・パーチントン設計図』で、ブリアン・フリンという作家が長編『途上殺人事件』で汽車を二階つきの乗合馬車に替えて同じトリックを使い、日本では私の『鬼』、横溝正史の『探偵小説』がこの着想を借りている。死体を貨物列車の屋根にのせ遠く隔ったカーヴの地点で、それが地面にふりおとされ、殺人はその地点で行われたかに見えるのである。」
ホームズの『設計図』の次に書いてる、ブリアン・フリン(1885-1958)の『途上殺人事件』。この情報収集にも苦労したけど、英語で冒頭のみなら読めた(死体発見の箇所)。著作権が微妙だから、とりあえずリンクは付けない。
Brian Flynn『Murder en Route』(1930年)。直訳的には、「移動中の殺人」とか「路上の殺人」という意味。日本語訳は無いのかも知れないけど、英語ではそこそこ読まれてるような感じだ。これも、橋の上から落としたわけではなさそう。
☆ ☆ ☆
さらに、乱歩自身の『鬼』(1931~32年)という小説も、青空文庫で流し読みしてみた。
これも橋の上から死体を落としたわけではなくて、部屋の窓のすぐ横を通る貨物列車に載せる。そこからしばらくは登りの道で、スピードが遅いから、死体は落ちない。
登りが終わってスピードが出る辺りに急カーブがあって、そこで死体が振り落とされる。さらに山犬に咬まれて、見分けがつかなくなったから、犯人・鶴子が被害者・雪子に化けてもなかなかバレなかった。
☆ ☆ ☆
そして最後。横溝正史『探偵小説』。この短編小説は、一般的な言葉をそのまま題名にしてるから、非常に調べにくい (^^ゞ 検索しても、他の作品ばかりヒットしてしまう中、ようやく正しそうな情報を発見。キンドル電子書籍の読み放題で読めた。『刺青された男』(角川文庫)所収。
初出はおそらく1946年。乱歩の『鬼』のパクリみたいなトリックだから、小説内で正直に書いてた。「そういうトリックならどこかで読んだような気がするんですが」(笑)。「Eさんの小説では」という書き方で、江戸川乱歩へのオマージュ(敬意を込めた模倣)であることも示してある。駅で作家が本物の事件と小説について語る・・という構成の小説内小説。
これも、橋の上から落としたわけではなくて、線路わきの崖の途中から死体を置いてる。結局、歩道橋の上から死体を列車に落とす小説は、まだ発見できてない。
☆ ☆ ☆
ただ、しばらく前にそういった小説があったのは事実らしい。編集者が、鉄道ミステリーの編集の大変なこととして、2017年の東洋経済の記事でこう書いてる。
「昔ある作品で陸橋から死体を走ってくる列車の上に落として、その列車が死体を屋根に乗せたまま走って、カーブで傾斜したときに死体が落ちたというトリックがありました。でも『その路線は電化されていて架線が張ってあるから死体を落とせないのでは?』というツッコミが入りました」
意味がよく分からなかったから、「鉄道 架線 列車」で画像検索♪ なるほど。架線があると、橋の上から死体を落とした時、架線にぶつかってしまうから、列車の屋根には載せにくいということか。
ということは、そもそもそのトリックは、かなり古い発想ということになる。アッ! だから今回のドラマや原作だと、小さいバッグだったのか! 小さければ、架線の間からでも列車の屋根に落ちると。長距離の往復の途中に落ちないのかどうかは不明♪
青白い色の映像が効果的に使われてて、キレイだった。演出は西岡和宏。CGでカラー補正してるのかも。
☆ ☆ ☆
今回は、これらの情報を調べるのに途方もない手間ひまがかかったから、短めのレビューで終了。今現在、少なくとも日本語の情報でこれだけ正確に集めたものはないはず。
そもそも、来週の第10話で終わりだと思ってたら、第11話まであるというウワサだから、そんなにドラマブログに時間をかけてられない。・・あれ?、もう、いつも通り、4000字近く書いてた (^^ゞ
なお、第9話の世帯視聴率は9.9%、個人視聴率は6%へと上昇(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。というわけで、今日はそろそろこの辺で。。☆彡
cf. 一筆書きできない道、奇点を2コに修正すべき&万力で締め付けられる黒い心、光と影の映像美
~『教場0 風間公親』第1話
いじめ不登校の子どもの母親、担任教師への殺意から自分が逃げるべき~『教場0』第2話
1人でできないことは2人で・・自殺ではなく他殺だと示す「毒のある骸(死体)」~『教場0』第3話
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(計 3834字)
(追記137字 ; 合計3971字)
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