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アリス・谷村新司追悼~ボクシングの曲『チャンピオン』の歌詞モデル、カシアス内藤の引退試合(沢木耕太郎『一瞬の夏』より)

記事タイトルが長過ぎるけど、最低限の内容をまとめてもこの長さになってしまう。谷村新司の『チャンピオン』という代表曲は、ボクシングの歌詞という点も目立った特徴だし、実在の日本のボクサー(父は米国人)がモデルなのも興味深い。

    

それに加えて、谷村をカシアス内藤に会わせた作家・沢木耕太郎がノンフィクション小説の主人公にしてるのだ。まず、短編小説「クレイになれなかった男」。短編集『破れざる者たち』の冒頭に所収。

   

同じ名前はもらってるし、黒人の血も受け継いでるけど、カシアス・クレイ(=モハメド・アリ)ほどの偉大なボクサーにはなれなかった男、という意味のタイトルだろう。沢木がかなりボクシング通らしいことがすぐ分かる内容になってた。

    

その後、本格的にカシアス内藤を扱ったのが、長編小説『一瞬の夏』(新潮文庫)。もともとは朝日新聞・夕刊の連載小説で、電子書籍2冊の無料サンプルに加えて、朝日のデータベースで連載を直接読むことができた。下の表紙はamazonより。

   

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谷村新司の突然の訃報で、昨日(2023年10月16日)から情報が溢れてるけど、おそらくこの小説の最後を扱ってる情報はほとんど無いだろうと思うから、私が簡単にまとめてみよう。要するに、名曲『チャンピオン』の歌詞(フィクション)と、現実との比較ということだ。下のレコード・ジャケットはAlice公式サイトより。

  

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      ☆     ☆     ☆

『チャンピオン』は1978年12月の曲で、カシアス内藤の復帰後の最終試合は1979年8月22日。だから、谷村が沢木の紹介でカシアス内藤に出会ったのは、最後の試合の1年近く前ということになる。

    

だから当然、谷村の歌詞は、想像によるフィクション。序盤にいきなり「震える白いガウンに 君の年老いた悲しみ」というフレーズがあるけど、カシアス内藤は出会いの時にはまだ(?)29歳だ。

  

ちなみに令和5年の今現在、世界に君臨する絶対王者・井上尚弥は30歳♪ 誰も「年老いた」とは言わないはず。まあ、作曲の当時は半世紀前だから、ボクシング界の年齢の感覚も今とは全然違うのかも知れない。一応、輪島功一は例外的に34歳(1977年)まで挑戦し続けたらしい。

   

カシアス内藤のかなり若い頃(1968年だから18歳か19歳)の縮小写真は、東京新聞の記事より。

   

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       ☆     ☆     ☆

さて、沢木耕太郎の新聞連載が開始されたのは、1980年3月17日。カシアス内藤の最後の試合から半年ちょっと経った時期だ。ちなみに、その試合は、朝日新聞のニュース記事にはなってなかった。朝日は一般紙だし、内藤は世界チャンピオンではないから、普通のことだろう。  

   

最後の試合内容の記述は、1981年4月30日(第332回)~5月6日(第335回)。2回KO負けということもあって、わりと短い。そして、5月9日(第339回)で連載が終了。その後、書籍化の際に、何か追記とかあったのかも知れないけど、そこまでは調べてない。 (追記: 少しだけ書き足してるらしい。)

    

で、カシアス内藤の最後の試合は、韓国で開催されて、相手も韓国の。王座決定戦だから、両者とも、普通の意味でのチャンピオンではなかった。朴は21歳になったばかりの若さで、しかも荒々しいパンチを持ってたらしい。その点は曲の歌詞と同様。

   

「・・・朴が右のフックを振り回した。凄まじいパンチだった。内藤は小気味よいスェー・バックでかわしたが、その荒々しさに度肝を抜かれたような表情を浮かべた」(第332回)

   

   

      ☆     ☆     ☆

とはいえ、2回の途中まではカシアス内藤のペースだったらしい。ところが、朴の荒々しいパンチがいくつか当たると、内藤は打ち合いに出てしまう。内藤のアッパーに対する朴のクロスカウンターの左フックが激しくヒット。

  

内藤のアッパーが朴の顔面をかすめ、天井に向かって流れたのがはっきりと映った時、朴のフックが内藤の頬に吸い込まれるように入っていった。

 

 内藤の顔は、その衝撃で大きくひねられ、天井を向いたまま、仰向けになって倒れていった。倒れた瞬間、内藤の後頭部は激しい音を立ててキャンパスに叩きつけられた

   

曲の歌詞だと、一度立ち上がったものの、若い力に負けて「静かに倒れて落ちた」とされてた。現実の内藤の試合では、激しく倒れたまま、立ち上がれなかった。

   

歌詞では「立たないで もうそれで充分だ」。現実には、リング脇にいた沢木は「立て」と叫んでた。「セブン、エイト、ナイン、テン」。カウントダウン終了、朴のKO勝ち。。

   

    

      ☆     ☆     ☆

そして、本当の最後。『チャンピオン』の歌詞だと、ロッカールームのベンチで彼はつぶやく。「帰れるんだ これでただの男に」。

    

一方、沢木のノンフィクション小説によると、現実には更衣室のベンチで彼はつぶやいた。「リングに上がって・・・・・・初めて足が震えなかったのに・・・・・・生まれて初めて、恐くなかったのに・・・・・・」。

    

現実だと内藤の無念さも表されてるけど、曲と同じく、優し過ぎるボクサーの哀しさと美しさも表されてる。ちなみに、カシアス内藤は健在で、突然の永遠のお別れを惜しんでた。

   

   

      ☆     ☆     ☆

なお、ネットの一部で噂されてるカシアス内藤の逮捕という話は、デマではなくて事実。2000年10月5日に市役所の担当者を殴ってしまったらしい。翌日の朝日新聞にも掲載されてるし、2004年の朝日系週刊誌AERAでも逮捕歴を掲載。

     

確かに犯罪ではあるけど、23年前の軽微な事件だから、あまり重要な事とは思わない。母親関連のトラブルの対応で、ついカッとなって手が出てしまったらしい。

      

それでは今日はこの辺で。あらためて、谷村新司の安らかな眠りを祈りつつ、合掌。。☆彡

    

       (計 2348字)

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