円周率 πと自然対数の底eが代数的数でなく超越数であることの証明(背理法)、円積問題~NHK『笑わない数学2』第5回
難しくて2週間遅れになってしまったけど、『笑わない数学」第2シーズンの第5回、「超越数」について記事を書いとこう。第4回、第6回については既にアップ済み。
結び目理論の指紋、アレクサンダー多項式と交点の数、領域、行列式の計算方法、べきと符号の正規化~『笑わない数学2』第4回
ケプラー予想の前に平面充填問題、どんな四角形でも平面を埋め尽くせることの幾何学的証明~『笑わない数学2』第6回
今回、時間がかかってしまったのは、自然対数の底(てい)eが超越数であることの証明がなかなか理解できなかったから。西岡久美子『超越数とは何か」(講談社ブルーバックス)のp.62~p.67の説明が、いくつか引っ掛かる所があったから、自分で考え直してたのだ。それについては、また後ほど。下はamazonより。
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さて、番組では、古代ギリシャの哲学者&数学者アナクサゴラスが考えた「円積問題」からスタートしてた。円と同じ面積の正方形を、定規とコンパスのみで書く問題。半径1の円なら面積π(パイ)だから、1辺の長さが√πの正方形を書くことになる。
番組の流れ的には、こうなってた。√πとπの違いはとりあえずスルー。円積問題の作図が出来るためには、πを解とする代数方程式が必要。
ところが、πを解とする代数方程式は存在しないこと、つまり、πが「代数的数」でなく「超越数」であることが、数学者リンデマンによって19世紀末に証明された。よって、円積問題は解けないことが示された。
ちなみに、私がここで補うと、√πがもし代数的数だと仮定すると、√π×√πも代数的数だから、πも代数的数になってしまう。しかし、πは代数的数ではないから、矛盾する。よって、√πが代数的数であるという仮定は誤り。したがって、√πは代数的数ではなく、超越数。番組でも用いてた背理法の論理で、証明終了。
ただし、代数的数×代数的数が代数的数になるという話は、番組でも画面右下に小さく書いてただけで証明されてない。私もまだその証明までは確認してない。上の西岡の本の第2章に短く書かれてた。
なお、英語版ウィキペディアの関連項目をいくつか見た限りでは、円積問題と超越数を結びつける語り口は(ほとんど)見当たらない。アナクサゴラスと円積問題を結びつける説明さえ、ほんの少ししか書かれてなかった。その語り口は、日本の数学界に独特のものかも。下は英語版ウィキ、「Squaring the circle」(円の正方形化)の項目。
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では、πが代数的数ではないこと(=超越数であること)はどう証明してたか? 2つの定理と背理法を組み合わせて、パンサー尾形がホワイトボードに書いてた。
ちなみに、よく横にいる女性アシスタントのハマちゃんは、顔とキャラが可愛いけど、うっかり余計な一言を付け加えると、セクハラとかルッキズムだと批判されるので要注意♪ 受信料の金額や徴収にも影響してしまう。とはいえ、番組の演出的には明らかにその辺りを狙ってる。痩せて暑苦しい尾形とのキレイな対比が作られてるのだ。
とにかく、下は公式サイトからの引用。メイキング動画の静止画キャプチャー。
πが超越数であることを証明するために、πが超越数でないと仮定する。つまり、πが代数的数だと仮定してみる。
すると、虚数i(xの2乗=-1の解だから代数的数)とπを掛けたiπも代数的数。
よって、eのiπ乗は超越数ということになってしまう(エルミート・リンデマンの定理、eの「代数的数」乗=超越数)。
ところが実際は、オイラーの公式(定理)より、eのiπ乗は超越数ではない(-1という代数的数)。
よって、eのiπ乗について、矛盾が生じる。
したがって、πが超越数でないという仮定は誤り。つまり、πは超越数である。 (証明終)
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上のπの証明は、エルミート・リンデマンの定理(1882年)を使ってる。この証明は、先にエルミートによって示されてた、eが超越数であることの証明(1873年)に似たものだったらしい。真似とかパクリというより、応用とか参照。
これについては、番組ではπよりも簡単に背理法で済ませてた。遥かに難しいからだろうけど、ポイントはしっかり押さえてる。特殊な数、Jを作って、矛盾に導く。
eが代数的数であると仮定すると、上図の代数方程式が存在する。ただし、係数のn+1個のaは整数。ちなみに本来、代数方程式の係数は有理数だけど、分母を全て払うように最小公倍数の整数を両辺に掛ければ、係数を整数に変換できる。
これに対して、
f(x)=(xのp-1乗)(x-1のp乗)(x-2のp乗)(x-nのp乗)
という多項式を考える。ただし、pは任意の(何でもよい)素数で、最後に非常に大きな素数の場合を考えることになる。
ちなみに、西岡の説明では、任意性が明示されてないし、素数という条件をどこに使ってるのかもわからなかった。2以上の自然数でいいような気もする(未確認)。
次に、任意の複素数tと多項式f(x)に対して、次のxの定積分を考える。
I(f;t)=∫t{eのt(1-x)乗}f(tx)dx (0≦x≦1)
さらに、次の数Jを考える。番組では全く説明が無かったけど、おそらく同じJだろうと思う。まだ新型iMacで数学の入力をマスターしてない(ネットの説明通りにならない)ので、右下の添字の数字の代わりに半角数字を付けて表す。
J=-a0・I(f;0)-a1・I(f;1)-a2・I(f;2)-・・・-an・I(f;n)
☆ ☆ ☆
このJの絶対値|J|を、仮定を用いて計算していくと、
(p-1)! ≦ |J|
を示せる。
左辺の階乗は、(p-1)(p-2)(p-3)・・・1だから、pを大きくしていくと急速に大きくなる。その「ものすご~く大きい数」よりも、|J|は「大きい」。正確に言うと、大きいか同じ。
一方、、Jの元になってる定積分Iに対して不等式を繰り返し考えていくと、
|J| ≦ (|a0|+|a1|+・・・+|an|)n(eのn乗){(2nのn+1乗)のp乗}
を示せる。
pを大きくして行く時、この不等式の右端の{(2nのn+1乗)のp乗}は、先ほどの不等式の左辺(p-1)!と比べると、あまり急速に大きくならない。よって、|J|は「かなり小さい数」より「小さい」。正確に言うと、小さいか同じ。
∴ (ものすご~く大きい数)≦|J|≦(かなり小さい数)
これは矛盾(大きくて、小さい)。したがって、最初の仮定「eは代数的数である」は誤りで、eは代数的数でない。つまり、eは超越数である。 (証明終)
☆ ☆ ☆
上の証明の前半、大きい数より大きいという部分の説明は、数列の和の記号Σ(シグマ)や、関数の積の微分に関するライプニッツの公式を用いた複雑なもので、ここに書き写す気にもならない。
Σは途中で区間が狭まってるし、多数回の連続微分も登場。そもそも、f、p、I、J、自分では全く思いつかない構想だ。エルミートがどうやって思いついたのか、興味が湧くところか。
というわけで、ずいぶん準備に時間がかかってしまったから、そろそろ終わりにしよう。われわれがいつも考えてる数は代数的数ばかりであったが、実は超越数より遥かに少ない(集合の濃度が小さい)という指摘(カントールの無限論)はインパクトがあった。
「代数的数は 漆黒の空にある星のように光っている
漆黒の闇は超越数である」 (E・T・ベル)
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2520字)
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