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テレビドラマの脚本と原作マンガの比較、共通点と違い〜『正直不動産2』第4話・賃貸保証会社と人の信用

ドラマ、漫画、テレビの世界を超えて、大きな衝撃を与えた哀しい出来事から数日が経過。ドラマ『セクシー田中さん』に主演した木南晴夏が、インスタグラムでストーリーズを公開したらしい。

   

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 どうして

 と思うばかりで

 今の気持ちを表す言葉が見つかりせん

  

 先生ともっと話したかったです

 田中さんの言葉は私の中にたくさん残ってます

  

 心よりお悔やみ申し上げます

  

 この悲しみが連鎖しないことを

 願います

   

  

     ☆   ☆   ☆

ネットの報道を見て、私もすぐインスタをフォローしてみたけど、見れなかった。既に遅かったのか、それとも、フォローの登録からストーリーズ閲覧までにタイムラグ(時間差)があるのか。

   

いずれにせよ、ドラマで演じる俳優・女優は、脚本に直接関与することは(ほとんど)ないので、彼女には何の落ち度もないはず。

    

むしろ、あまりにも不運だと思う。脇役のキャリアを積み上げた後、38歳でようやく手に入れた主演ドラマでまさかの展開と結末。特に、彼女の顔写真がメインで掲載されてる記事が多いのは疑問。あれでは、負のイメージが無意識の内に刷り込まれてしまう。

      

   

      ☆   ☆   ☆

このブログでは、記事でほんの一言だけ書いた後、ブログのトップでも一言つぶやいた。「悲しみが連鎖しない」ためにも、今回の事件そのものについてはしばらく記事を書くつもりはない。そもそも、何について、誰と誰がどんなやり取りや行為をしたのか、まだ事の詳細がほとんど分かってない。

        

ただ、今日は、本質的で一般的な事柄について焦点を当ててみよう。ドラマの原作マンガと脚本の関係について。最近はあまり書いてなかったけど、ウチでは昔から度々、原作小説や原作漫画を考察する記事を書いて来た。

   

ブログ公開当初から、ドラマ『野ブタ。をプロデュース』の原作小説のレビューを書いてるし、ドラマの脚本そのものについても、読める場合には何度も扱ってる。最初に読んだのは、亀梨和也主演ドラマ『たったひとつの恋』の脚本だった

    

ちなみに『正直不動産2』第4話の場合、原作マンガは期間限定で無料公開されてる。ビッグコミックのドラマ化記念キャンペーン。まだ見てない方は、今のうちにご覧あれ。

   

   

    ☆   ☆   ☆

なお、日本文学研究者として有名なロバート・キャンベルが、今回の悲劇について、原作が未完だったのも大きいとテレビで発言したらしい(TOKYO MX『バラいろダンディ』、1月30日)。

  

必ずしも否定はしないが、それを言うなら、昔の『クロサギ』や『ホタルノヒカリ』も連載中にドラマ化。騒動は発生してない。もちろん、この『正直不動産』もまだ連載中の漫画だが、騒動発生の報道は見てない。他にも色々と事例がある。

       

ただし、芦原妃名子さんの場合に限ると、代表作『砂時計』のドラマ化・映画化は、原作マンガの終了後だった。彼女にとって何がどう響いたのか、残念ながら、もはやご本人に話を聞くことはできない。。

   

    

     ☆   ☆   ☆

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原作マンガはいつものように、前編と後編の2話に分かれてる。コミック第12巻・第95直と、第13巻・第96直。サブタイトルは簡潔に、「賃貸保証会社」。上の前編の扉ページに描かれてるのは、古沢という社員。ドラマでは、代わりにZ世代の十影(板垣瑞生)に焦点を当ててた。

     

ドラマでは「信用って何だ?」。これの答は、一言でまとめるなら、終盤の永瀬(山下智久)の言葉になる。「最後は人だと思うんです」。

   

女性視聴者が多いと思われるドラマで、このエモーショナル(情動的)なまとめ方は悪くないと思うけど、一般男性の正直ブロガーさんとしてはオンエア中、全体的にかなり甘口だなと思ってた。青年マンガの原作や、いつもの根本ノンジの脚本では考えにくい展開。

   

実際、最後のエンドロールを見ると、脚本家は木滝りま。X(旧 twitter)やウィキペディアから考えても、おそらく女性だと思う。ベテランだが、実際に担当したドラマはあまり多くない。

   

    

     ☆   ☆   ☆

では、具体的に、ドラマと原作マンガを比較してみよう。前から常に一貫してるのは、主要な台詞や不動産ネタに関しては、ほぼ原作のままだということ。原作のラプラス上井草が、ドラマでラプラス武蔵山になってるとか、細かい変更は除いて。

    

完全に原作のままのことも多い。これまで色々と比較して来た中でも、その点に関しては、原作に忠実な連続ドラマだと思う。良し悪しはともかく、無難な作りではある。

   

特殊な分野を扱う1話完結もののドラマだと、原作に合わせやすい。各話ごとにポイントを合わせやすいし、原作とのズレもその後の展開に響かないから。

   

例えば、『ガリレオ』もそうだった。数式の殴り書きは原作小説に無いけど、ドラマの展開には全く響かず、マニアックで笑えるアクセントになってる。

     

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あらすじや結末も、ドラマと原作でほぼ同じ。既に女性が妊娠してる若いカップルが部屋を借りようとして、賃貸保証会社の審査に落ちてしまう。悪い方向に進みそうになった2人は、永瀬や咲良(福原遥)らの活躍で立ち直り、オーナーの理解を得た後、別の賃貸保証会社部屋も借りれた。めでたしめでたしのハッピーエンド。

    

最近は高齢化社会で、収入が年金のみの親族が増えてるから、賃貸保証会社への加入が必須の物件が増えてるという不動産情報も原作と一致してる。信販系の信用会社がクレジットカードなどの個人情報を持ってるという点や、2人が審査で落ちた(不承認とされた)理由も一致。

    

ただし、原作ではさらに突っ込んだ説明もあった。信販系ではない、独立系と呼ばれる信販会社もたくさんあって、審査が通りやすい(と言われる)所もあるが、通りやすい信用会社だと。滞納した場合の督促が厳しかったり、家賃立て替えの手数料が高めだったりするらしい。まあ、金融会社と同様ということか。お金を借りやすい所は、金利が高くて取り立てが厳しい。

     

一般にテレビドラマでは、その種の突っ込んだ説明は省略される傾向がある。別に時間の問題ではなくて、客層の違いだろう。

    

原作マンガは、かなり限定された数万人~数十万人が読者。それに対して、ドラマは数百万人~数千万人が相手だから、ケタ違いに多い視聴者層を考慮することになる。流し見の人も多いから当然、説明は簡単になる。

   

    

   ☆   ☆   ☆

次に、私がドラマで一番不満だった、手紙の扱いについて。ドラマでは、髪にメッシュ(部分的毛染め)を入れたチーマー風の(?)若い男・藤森(佐藤寛太)が、咲良のアイデアに従って、部屋への思いを手書きの手紙にしてた。

   

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これで大家(オーナー:ダンカン)の心が動くというのも甘すぎると思うし、令和6年のZ世代が土下座はない(演出は金澤友也)。おまけに、肝心の手紙の内容は一瞬、一部分を映しただけで、「武蔵山公園を一望できる景観がとても素敵で一目見てここに住みたいと」と書いただけ。頑なな年配の大家の心を解きほぐす文面にはなってない。

    

原作マンガでは、その点も補足されてるのだ。客ではなく、直接の担当者の古沢が手紙を執筆。「保証人になっても構いません」とまで書いてるのだ。それならオーナーも考え直しやすい。

    

この保証人になってもいいという強い文章は、咲良が別の客の物件で使ったもの。家賃滞納の場合、ホントに家賃を咲良が自腹で払うつもりだった。永瀬は、「俺なら、そこまでできないな」と応答。咲良の珍しいキャラだという点をハッキリさせてる。岩沢の場合、ミネルヴァのスパイらしいから、何か裏の理由があって仕方なく無理やり契約を取ったということだろう。

    

     

     ☆   ☆   ☆

逆に、どちらかと言うとドラマの方が良い出来だったのは、カップルがラプラス武蔵山という物件にこだわった理由。

  

原作では、築5年とか、良い病院にわりと行きやすいといった理由しかない(妊娠は最初から判明)。収入はそれなりにあるのだから、その程度の理由なら、別の物件にすればいいはず。保証会社が緩い部屋とか、普通の保証人で済む部屋とか。

   

その原作の弱点を補ってたのが、ドラマ独自の初恋ストーリー。美玲(恒松祐里)がいじめられてた時、助けてくれたヒーローが彼。その現場の武蔵山公園が窓からよく見えるのが、あの物件だったのだ。この部屋なら、彼も昔を思い出して、もっと真っ直ぐに生きてくれるだろうと。

  

脚本か演出家か分からないが、公園で藤森が昔を思い出す幻想的シーンは印象的な映像だった。過去の子ども達の映像を流した後、その思い出を見つめる藤森の後ろ姿を脇の影で示して、そこからさらに、藤森や永瀬のリアルタイムの実写につなげて行く。一連の技巧的なシーン。

      

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     ☆   ☆   ☆

神木(ディーン・フジオカ)のパワハラはともかく、ドラマの妊娠の扱いも女性的で、ある意味、上手かった。

   

原作では最初から妊婦とされてるだけで、女性は繊維メーカーの総務。ドラマでは女性を保育園の先生にすることで、息子を通わせる花澤(倉科カナ)とのつながりを作れた。

   

さらに居酒屋で、榎本(泉里香)と愛原(松本若菜)が咲良を妊婦だと思いこむドタバタ劇も入れることが出来た。原作には全く無い場面を作ることで、多くの出演者の出番を確保してる。

  

永瀬の課長昇進レースというコネタも、マダムの打ち明け話も、ドラマ独自のもの。そうした工夫によって、登坂社長(草刈正雄)やマダム(大地真央)の出番を確保できてた。

    

   

     ☆   ☆   ☆

もし私が原作者なら、ドラマ脚本でのこの程度の改変は許容範囲というより、むしろ歓迎する。

  

ただ、一方では『野ブタ』みたいに、ドラマと原作がかけ離れてる作品もあるから難しい。野ブタは小説家・白岩玄にも歓迎されてたはず。「正直」言うと、ドラマの方が出来がいい(個人の感想)。主演2人の好演や風変わりな主題歌も良かったし、木皿泉の大胆な脚本が見事な出来栄えだった。

    

というわけで、かなり長くなって来たから、この辺で終わりにしよう。最後にあらためて追悼。

  

 芦原妃名子さん、どうか安らかに。。☆彡

    

   

  

cf. 「どこ向いてるんだ?」、タワマン大好きの永瀬財地(さいちん♪)〜『正直不動産2』第1話

 写真と違うムービー(動画)の長所、全体の空間的・時間的つながり〜第2話・使用貸借契約と解除

 もしも家族が仲良しなら、小さな家でも、おもちゃのピアノでも関係ない〜第3話・狭小住宅(ペンシルハウス)

 偽善とは、表面的な善意から不幸な代償を生み出してしまう行為や意図〜第5話・フラット35

 家賃滞納3ヶ月で明け渡し(強制退去)、法律には明記されてないけど〜『正直不動産2』第6話

 ノックスの探偵小説・十戒(英語)、犯人は物語の序盤に登場、探偵は犯人ではない〜第7話・契約の誘引

 浮き沈みの激しい不動産(ワンルーム・マンション)投資、始まりは80年代・バブル期〜第8話・無限ループ地獄

 サブリース契約、03年最高裁判決で業者が強気に、12年アベノミクス緩和で一般人オーナー急増〜第9話

   

   (計 4167字)

 (追記236字 ; 合計4403字)

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