ノックスの探偵小説・十戒(英語原文・原書)、犯人は物語の序盤に登場、探偵は犯人ではない〜『正直不動産2』第7話・契約の誘引
ドラマ版『正直不動産2』第7話のサブタイトルは、「禁断の果実」。あぁ、違法な不動産契約を取って稼ぐことね・・と思って、軽く流す視聴者がほとんどだと思う。
ドラマだけ見てると、別にそれで困らない。ただ、実は原作だけにある重要な内容と関係づけた言葉なのだ。それは、「ノックスの十戒」という話。
原作 → 「ノックスの十戒」 → 旧約聖書(モーセの十戒) → 禁断の果実 → ドラマ
こんな流れで、旧約聖書を媒介にして、原作マンガとテレビドラマを間接的につなぐ役割を果たしてたのが、ドラマのサブタイトルだった。
原作のサブタイトルは、「契約の誘引」。コミック第15巻・第115直&第116直。大谷アキラ(漫画)、夏原武(原案)、水野光博(脚本)。
ドラマは、木滝りま(脚本)、下向英輝(演出)。恋愛、おばあちゃんの優しさ、田舎の素朴な味わいを前面に出してる、非常に女性的なストーリー。ちなみに、こうゆう本当の事を政治家が言うと、一部の人達に叩かれてしまうのが今の世の中♪
事実として、それら3つのエモーショナル(情動的)な要素は原作には全く入ってない、ドラマ版だけのオリジナル。その代わり、原作にはマニアックなネタが挿入されてた。それが「ノックスの十戒」と呼ばれるものだ。
☆ ☆ ☆
原作では、冒頭から探偵ドラマの話が出て、永瀬(山下智久)が咲良(福原遥)にウンチクを語る。
「あのドラマ ━━ 犯人が突然登場した双子の兄弟って、トリックがむちゃくちゃだろ。シナリオ書いてるヤツは、"ノックスの十戒"を知らないのか?」
咲良が、「ノック・・・10回?」と天然ボケを示すと、永瀬が大きいエビフライを奪い取りながら語る。「1928年にイギリスのロナルド・ノックスって推理作家が刊行した、『推理小説』を書く上での10のルールみたいなもんだ」。
このセリフを書いたのが誰なのかは分からないけど、おそらく細かすぎる誤解をしてる。本の刊行は1929年で、ノックス(Ronald Knox)は2人の編者の内の1人として序文を書いただけで、内容的にはその他大勢のもの。
原書のタイトルを直訳すると『1928年におけるイギリスのベスト探偵小説』(The Best English Detective Srories of 1928)だから、年号を間違えたのかも。ノックスが刊行したと書いてしまってたのは、邦訳書のタイトルが『探偵小説十戒』(晶文社)で、ノックスを前面に出してたからか。
☆ ☆ ☆
英語の原書はネットで無料公開されてるけど、探し出すのはかなり難しくて、私も諦めそうになったほど。英語版ウィキペディアでさえ出典を正確に付けてない。日本語ウィキは単なる個人サイトでの引用文に対して注を付けてた。
あえてリンクは付けないので、気になる方は探偵になったつもりで探すと面白いかも♪ 表紙の下にわざわざ1929と書いてるのは、1928年の本だという誤解を避けるためだと思う。
上の画像の下側に、一つ目の戒め、ルールが書かれてる。と言っても、別にみんなが守ってるわけでは無いという点については、最初からノックス自身が書いてる。
「犯人は、物語の序盤に登場していなければならない・・・」。
ここでまず、ミネルヴァ不動産の花澤(倉科カナ)の顔がアップになる。つまり、花澤が罪を犯すストーリーだと。
ところが、すぐ次に、神木(ディーン・フジオカ)もアップで登場。要するに、二番手の犯人という意味だろう。原作におばあちゃんは登場しないから、ライバルの花澤を陥れた悪巧みの犯人ということ。
ちなみに、ドラマでは、なぜか神木がたまたま花澤の犯行現場(喫茶店、カフェ)の2階にいた。私はオンタイムでテレビを見ながら、何で分かったの?、と不思議に思ってたけど、実は原作だと、そこに行く前に花澤が神木と不動産の店内でやり取りしてるのだ。
「花澤さん どちらに?」
「商談をしに 喫茶店まで」
これ以降、説明はないけど、なぜ神木が花澤の犯罪に気づいたのかは簡単に説明できてる。何となく怪しいから、後をつけてみたと。遠回しの伏線、フラッグ(旗印)が提示されてるのだ。
☆ ☆ ☆
では、花澤の犯罪とは何だったか? まず、1人2役で、婚活(マッチング)アプリに「ようこ」として登録。「ようこ」の友人の不動産屋として、冴えない男性(失礼♪)の「わたやん」にマンションを売りつけてた。これだけでも犯罪行為と言えなくはない。
一応、NTTデータ・・じゃなくて、TTNデータ(笑)のSE(システム・エンジニア)だから、それなりの頭脳の理系人間で、収入や安定性もまずまず。男性だけサービス有料、顔の正面写真や年収、年齢、身長も公開してアピールすると。途中の課金もあるらしい。
昔、ブログのドラマ記事の関連で、試しに私も登録してみようかと思ったけど、細かい個人情報を次々に要求してくるから途中で止めた。ドラマの「ペアペア」というアプリ名は、一番人気の(?)「ペアーズ」をもじったもの。最新のレビューを数十ほど流し見すると、かなりビミョーな意見が並んでた(個人の印象♪)。
☆ ☆ ☆
花澤のメインの犯罪は、いわゆる「契約の誘引」で、原作のサブタイトルそのもの。宅建業法・第47条・第3項で、業務に関する禁止事項の一つとされてる。条文では、「契約の締結を誘引する行為」。
花澤が、鵤社長(高橋克典)に借金して、わたやんに手付金500万円を貸す。こっそり、内密に。マンションは5000万円で、残りの4500万円を35年払いにすると、月に11万円の返済。賃貸の家賃より安く、家が手に入ると。
試しにネットのサイト(ダイヤモンド不動産研究所)で計算してみると、本当に11万円と出た。ドラマの脚本家も、同じサイトを使ったのかも♪ 原作だと10万円だから、ドラマは日銀の金融緩和がそろそろ終了するのを見込んだ形。物価・賃金・株価、かなり上がって来たから、そろそろ金利を上げる時期だと。下の計算だと、金利変更後には13.7万円とされてる。
☆ ☆ ☆
一方、ノックスの十戒の7番目には、「探偵は、自分自身が罪を犯してはならない」と記されてる。
マンガやドラマの物語的には、主役の永瀬が自分で罪を犯してはならないということ。たとえ合法的でも、契約の誘引はしないと断言してた。原作では、後輩の咲良への指導的役割を果たしてる。カスタマー・ファーストみたいに見えたとしてても、誘引は絶対にダメだと。
「大切な人の家族を不動産で不幸にはさせない」という台詞は、ドラマだけのもので、美波(泉里香)のハートをキュン死させてた♪
☆ ☆ ☆
十戒の最後、10番目は、「双子の兄弟、あるいは二重の役割を果たす者は一般に、登場してはならない。我々が適切に準備されてる場合を除いては」。
これを原作が最初に使ってるのは、花澤という犯人が一人二役(doubles)を演じてるから。ただし、最初から読者に対して説明してるから大丈夫ということ。
そう言えばこの作品は、主人公の永瀬が嘘つきと正直の二重の役割を果たしてる。ただし、最初から十分に説明してるから問題はない。と言っても、原作もドラマも、早い段階でかなり正直になってる。まあ、タイトルが「正直不動産」だから当然か。
☆ ☆ ☆
なお、あらすじとは直接には関係ないけど、花澤の子どもが口にしてた、「ルールは守らなくちゃダメ・・・僕、間違ってないよね?」という問い。罪を犯してた花澤は黙り込んでたけど、私ならこう答える。
「うん。間違ってないよ。ルールは守らなくちゃダメ。でも、守らない人もいるんだよ。そうゆう時には、少し我慢するか、一言だけ優しく注意するか、先生に注意してもらおうね。ケンカになっちゃうと、お互いにケガしちゃうでしょ。痛いし、悲しくなっちゃうし。仲直りするのも大変だから」。
もちろん、国際関係だと「先生」はいないし、何がルールなのか、どのくらい守るべきなのか、立場によって考えが違うから難しい。
ウクライナ戦争も同様。最初の内は、専門家もメディアもキャスターもほとんど全てがロシアを非難してたけど、ここ最近はすっかりトーンダウン。むしろ、暗黙のうちに停戦を支持するような意見が増えてるようにも見える。あれほど英雄扱いされてたゼレンスキー大統領も、今ではすっかり普通の政治家扱いに近くなってる・・・とだけ書いとこうか。
実はロシアの専門家の一部は、最初からこの問題の複雑さが分かってたようだけど、発言権を奪われてた。私のこのブログでももちろん、単純な善悪の話は一度も書いてない。
むしろ、ウクライナの民話の記事を書く中で、人々の気質とか国民性のようなものについて暗示しておいた。日本と少し似た話があるから応援しようね・・といった当時の論調とは、ハッキリと一線を画してたのだ。
☆ ☆ ☆
最後に、55億円のタワマンというドラマ独自のお話。そもそも原作のこのエピソードにタワマンは登場してない。
検索すると、ヒットするのは2つの物件で、どちらもタワマンではなく、少し高めくらいの超高級マンション。パークマンション檜町公園と、三田ガーデンヒルズ(上図、マネーポストWEB)。タワマンじゃないからこそ、逆に高価なんだと思う。条件のいい土地を、やや贅沢に使ってるから。
共に港区で、三井不動産レジデンシャル。三田の方の価格は推測。まあ、やっぱり富裕層というのは意外と多くて、トップクラスの人達もそれほど珍しくないんだろうと思う・・と、他人事のように書いといてと。。♪
お金も家も、死ぬ時には全く関係ないし、その直前でもほとんど関係ない。それだけは確かな真実だ。でも、その前の段階ならちょっと欲しいかも(笑)とか思いつつ、ではまた。。☆彡
cf. 「どこ向いてるんだ?」、タワマン大好きの永瀬財地(さいちん♪)〜『正直不動産2』第1話
写真と違うムービー(動画)の長所、全体の空間的・時間的つながり〜第2話・使用貸借契約と解除
もしも家族が仲良しなら、小さな家でも、おもちゃのピアノでも関係ない〜第3話・狭小住宅(ペンシルハウス)
テレビドラマの脚本と原作マンガの比較、共通点と違い〜第4話・賃貸保証会社と人の信用
偽善とは、表面的な善意から不幸な代償を生み出してしまう行為や意図〜第5話・フラット35
家賃滞納3ヶ月で明け渡し(強制退去)、法律(借地借家法・民法)の条文には明記されてないけど〜第6話
浮き沈みの激しい不動産(ワンルーム・マンション)投資、始まりは80年代・バブル期〜第8話・無限ループ地獄
サブリース契約、03年最高裁判決で業者が強気に、12年アベノミクス緩和で一般人オーナー急増〜第9話
(計 4248字)
(追記101字 ; 合計4349字)
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