Mrs. GREEN APPLE の曲『コロンブス』のMV炎上、探検家の歴史的評価の変化と、山川出版社の現在の高校教科書『世界史探究』
コロンブスというと、個人的に最初に思い出すのは、探検家とか卵というより、靴用品の老舗の名前だ。
試しに今、amazonで「靴クリーム」を検索すると、最上段のスポンサーのベストセラーとして、コロンブスのリキッドクリームがヒット。しばらく買ってないから、ひょっとすると社名変更してるのかと思ったら、そのままだった。
社名の由来は、彼が開拓者であるという点と、日本を目指してたという点らしい。今でも堂々と、公式サイトに説明が掲載されてる。もちろん、今回の騒動でも話題になってないし、会社の長い伝統の重さを考えると、社名変更する必要もないと思う。
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さて、私は長くブログを運営してることもあって、大きな炎上については基本的に自分で調べることにしてる。
今回、ネットの炎上報道を読んだ時点では、確信犯の若者グループの過激な悪ふざけかとも思ったが、実際に見ると印象はかなり違った。
ニュース記事では分かりにくいが、最初から全体的に、映像も音楽も表情も非常に明るく陽気なのだ。類人猿みたいな住民たち(?)も含めて。
原住民というには、あまりに家の外観と内装が現代的で、むしろミセス・グリーンアップルが演じる3人(コロンブス、ナポレオン、ベートーヴェン)の方が古めかしく見えるほど。独特の歌詞にも、悪気は感じられない。
差別とか征服、植民地化とかいうより、時代や文化、外見を超えて、みんなで仲良くポップにパーティーしてる感じ。主催者は住民たちで、3人はお客様だから、お客様の好みに合わせておもてなしをしてるようにも見える。余裕を持って、自由に楽しく。あるいは、子どもたちの悪ふざけを温かく受け止める大人たちのように。
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ただし、類人猿みたいな住民たちは、手づかみで果物を食べてる。特に、中央ではバナナを食べてた。これだけでも、配慮が無いとかアウトとか言われてしまうのは、仕方ないことかも。
馬車の馬と並ぶ形で、彼らの1人に人力車を引かせる。ピアノを教える。鞭を使った馬の乗り方を教える。何かに向かって敬礼させる。そうしたシーンが、文化的に遅れた原住民を指導・訓練するように見える人がいるのも理解できる。
ただ、これらは欧米人というよりヨーロッパ人が教える形だから、教え込まれてるのは原住民というより、日本人とも取れるのだ。すると、それらのシーンはむしろ、日本人グループの自虐的コントにも見えて来る。だからこそ、3人ともヨーロッパ人の扮装で、しかも威張るというよりはしゃいでるのだろう。欧州の優越性に関する風刺的なパロディにもなるように。
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ほとんど話題になってないが、最後に3人が家を出てどこかへ旅立つ時、残骸がクローズアップされる。何かと思ったら、「BABEL」(バベル)というアルファベット5文字が見て取れる。
どうも、実在グループの彼らの次のイベント名か何かが、「BABEL no TOH」(バベルの塔)らしい。そのPRをさりげなく行うと共に、結局、完全には分かり合えないという必然的な寂しさも漂わせてる。だから、エンディングだけは暗い雰囲気なのだ。よく分からない世界を彷徨い続けるしかないし、その遥か向こうには、完全な闇も見えてるから。
「コロンブス」の歌詞の最初は、「いつか僕が眠りにつく日まで」。全編に、死という「運命」に覆われてる。差別とか征服とかとは次元が異なる、徹底的に公平で必然的な運命。。
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もちろん、この記事は、ミセスの単純な擁護でもなければ、ネット論壇のマトメや批判でもない。私も別に、彼らのファンというわけではない。
ここで、現代日本人の感覚から少し距離を取って、英語圏の感覚を知るために、英語のウィキペディアの説明を見てみよう。Christopher Columbus の項目。本当は、クリストーバル・コロンの方が正しいらしい。
コロンブスの探検から、ヨーロッパとアメリカ、あるいは古い世界と新しい世界の間で、様々な移動、交換が始まったとされてる。動植物、貴金属、文化、人間、技術、病気、考え。
こうした移動や交換は、「コロンブス交換」(Columbian exchange)と言われる。この言葉は2023年(令和5年)の時点で、高校の教科書7種の内、5種で採用されてる重要語句らしい(山川出版社『世界史用語集』より)。ただし、「世界史探究」という3単位の新しい選択科目だから、高校生の全員が学ぶわけではない。
話を英語版ウィキに戻すと、コロンブスに対する肯定的な見方は、18世紀の終盤くらいからとされてる。意外と新しい人物像。
しかし、一般的な受け止め方も、21世紀になると揺らぐようになったとのこと。つまり、前から続いてた専門家・歴史家の見方が、ここ数十年で一般に広まって来たということだろう。特に、病気の持ち込みによる先住民・タイノ族の人口減少や、奴隷制をめぐって。
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では、2024年(令和6年)の今現在、コロンブスは高校の教科書でどのように書かれてるのか。歴史教育でお馴染みの山川出版社の最新の教科書を見てみよう。「第9章 大交易・大交流の時代」、p.160から引用させて頂く。
「コロンブス以降に中南米へ上陸したスペイン人の『征服者』(コンキスタドール)たちは、先住民の文明の豊かな財宝を知ると、その略奪に熱中した。『征服者』は少人数だったが、火器や騎兵を駆使し、また先住民の被支配部族の反乱を煽って、コルテスがメキシコでアステカ王国を、つづいてピサロがペルーでインカ帝国を滅ぼした。
財宝を奪い尽くすと、『征服者』たちは王国の認可を受けて、キリスト教布教の義務と引きかえに先住民を使役し・・・」。 そして先住民が減少すると、労働力としてアフリカから黒人奴隷を運び込んだと。
学校教育でここまで明確に否定的な描写になってることを考えると、ミセスのMV作成に配慮が足りなかったのは間違いない。大勢で作成するのだから、少なくとも数人のスタッフは、こうした非常に否定的なコロンブス評価を知ってたはず。
実はこうした評価は、非常に早い段階からあったらしいことも、教科書に書かれてるのだ。同じページの下段には、1552年のラス・カサス『インディアスの破壊についての簡潔な報告」が引用されてる。
「彼ら〔スペイン人植民者〕のその有害きわまりない盲目ぶりは度を越し・・・暴力的な侵略であり・・・劣悪な所業である。」
☆ ☆ ☆
ただ私は、だからMVは公開停止が当然だ・・とも思わない。既に書いたように、ミュージック・ビデオには様々な含みがある。
残虐な歴史への配慮が無いという側面だけに注目して、大勢で作り上げた1つの作品を直ちに葬り去るのも、かなり危険な現代版の征服に見えるのだ。自分たちの考えや正義を力づくで相手に押し付けて、短期間で滅亡へと導くという点で。
数十年後には、この炎上騒動そのものが、現代史か現代社会の教科書で批判される可能性もある。高校生たちが教室で冷静に議論するだろう。
「なぜ誰も、『コロンブス』を消し去ろうとする自分たちが、別の「コロンブス」だと気づかなかったのかな」、「なぜ専門家のような人たちも、炎上に乗っかる形で一方的に批判するだけだったのかな」、と。ミセスへの批判が、ブーメランのように自らに返って来ることにも気付かずに。
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ともあれ、今回は超人気グループの新曲MVで、コカコーラという大企業がスポンサーになってたこともあって、非常に素早い撤退・謝罪となった。今後はもちろん、より丁寧な制作が要求されるのは当然のこと。私もあらためて、今現在の歴史というものを学び直したいと思う。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 3163字)
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