中国アリババ世界数学コンテスト2023予選、火の玉のコントロール、球状閃電(球電:ball lightening)の問題と解説
アリババという中国の大企業の名前は、少し前まではよく耳にしてた。ところが去年(2023年)、日本のソフトバンクがアリババの株式をほぼ全て売却して以降、急に話題にならなくなった気がする。
実際、今、アリババ関連で数学や学術関連の検索をかけても、ソフトバンク関連の記事が上位にヒットするのだ。傘下の代表的企業だったから、積極的に宣伝してたということか。
昨日たまたまYahoo!でアリババ国際数学コンテストというものの記事を見かけたから、試しに英語で検索。なるほど、これは確かに巨大でポテンシャルの高い組織だなと感じた。
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2024 ALIBABA MATHEMATICS COMPETITION。左上のロゴにある主催者「DAMO」とは、アリババが設立した研究機関「達磨院」のこと。
アルファベット4文字の意味はなかなか見当たらないけど、どうも「Discovery, Adventure, Momentum, and Outlook」の略語らしい。発見・冒険・勢い・見通し。そんな意味より、DAMOというロゴと言葉を覚えて欲しいと。
そのアリババ達磨院が開催した2024年の数学コンテストで、不正が発覚したというニュースがYahoo!にアップされてたのだ(by 中島恵)。ただ、この私のブログでは、不正行為ではなく、数学の面白い問題に注目する。
中国語と英語の問題文はさておき、数学的には高校レベルというか大学受験レベルの選択問題ではあるけど、共通テストには出ない難しさ。ただ、数学科の記述式の後期試験問題と考えると簡単だから、微妙で独特なものになってる。
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「2023 阿里巴巴全球数学競賽」の予選第1問「球状閃電」。私は全く知らなかったけど、「球電」と略されて、それなりに世界で話題になってた。
稲妻みたいな光が球状になって、揺れ動いたり消えたりするらしい。日本なら火の玉に近い感じで、英語では ball lightning。ちなみに「賽」(さい)という漢字はサイコロを示すけど、競うという意味もあるから、「競賽」で競争という意味になる。
そもそも、実在するのかどうかも怪しい感じで、ネット上で実物の写真を探しても、本当に球状のものはなかなか見つからない。
上の画像は、検索して出て来るCG動画らしいものからキャプチャーした静止画で、単なるイメージと考えた方が良さそう。下は英語版ウィキペディアのイラストで、超常現象みたいな描き方に見える。少なくとも私は、球電も火の玉も見たことはない♪ 周囲で話を聞いたことも無い。怪談をのぞけば。
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英語の問題文を軽く読み流すと、どうも秘密組織の幹部が科学者と相談して、球電を思い通りに操作しようとしてるらしい。
とりあえず、この日のテスト(実験)の目標は、球電を発生させて、半径が√2を超えるまで大きくして、その後は徐々に消し去ること。
√2をギリギリ超えるという目標は、現実的では無いけど、数学的には重要な設定になってる。もし現実の秘密の活動なら、半径20cmくらいまで大きくして・・といった感じの目標を設定するはず。要するに、人々を驚かせて混乱させるのが目的だろうから。大き過ぎると、エネルギーや装置の準備が大変になる。
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刻々と変化する半径は、時間tの関数r(t)とする。半径の時間的変化率はv(t)。関係式と初期条件は次の通り。
v=ar+r^3 -r^5
r(0)=v(0)=0
パラメーター(文字定数)aの値は、自由にセットできる。あと、装置をキックすると、rがいきなりイプシロンだけ増える。つまり、ほんの少しだけプラスの値になる。例えば、0からいきなり0.01に増えるとか。
さて、問題文の最後に挙げられた4通りの選択肢の内、この日の目的を達成できる操作計画、やり方はどれか?
わりと珍しく、過去問の解答には説明が付いてるけど、私の感覚だと不自然でわかりにくいと思う。場合分けせずにいきなり高次式を複素数範囲で因数分解する方法は、日本の高校数学レベルまでだとほとんど見かけないし、虚数が出る場合だと、実数の大小や増減と結びつける際には丁寧な慎重さが必要となる。
そこで以下では、私が日本の普通の考え方、解き方だと思うものを示す。
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1番目の選択肢は、まずa=2と設定した後、キックして、半径が√2を超えるまで待って、a=-1/2と設定し直す手順。
a=2の時、v=2r+r^3 -r^5
=-r(r^2+1)(r+√2)(r-√2)
vの式の左寄りの大部分は符号がマイナスだから、vの符号は式の右端のカッコだけで決まる。つまり、半径rと√2の大小関係だけで決まる。よって、rの増減表(に類するもの)は次のようになる。
キックによって、半径rが小さな正の値(イプシロン)になった後、v>0だからrは増え続ける。しかし、r=√2になるとv=0だから、√2を超えることが出来ない。よって、この場合は不適。
☆ ☆ ☆
次に、2番目の選択肢。まずa=3と設定した後、キックして、半径が√2を超えるまで待って、a=-1/3と設定し直す手順。
a=3の時、v=3r+r^3 -r^5
=-r{r^2-(1-√13)/2}{r^2-(1+√13)/2 }
因数分解した式の左半分の符号はマイナスだから、vの符号は、右端のカッコの符号だけで決まる。つまり、rと√(1+√13)/2の大小関係だけで決まるから、半径rの増減は次のようになる。
キックして、rが小さな正の値 ε になった後、rは√2を超えるまで増加。その直後、a=-1/3に設定し直すと、
v=-(1/3)r+r^3-r^5
=-r{(r^2-1/2)^2+1/12}
よって、r>0の範囲で常にv<0だから、半径rは0まで減少していく。完全に0に一致するとは言えないけど、球電が「gradually disappear completely」(徐々に完全に消滅する)という条件は満たしてると考えてよい。数値がゼロにならなくても、人間の視界からは完全に消える。
したがって、選択肢2は正しい手順。選択肢を複数選べる問題のようだから、これが正解の1つ。
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ちなみに、残りの選択肢3と選択肢4の場合、rが減少する途中でv=0になってしまうから、球電は消えずに小さく残ってしまう。同様の場合分けでわかるので、各自お試しあれ。結局、正解は選択肢2のみ。
球電が消えないと、不気味さが薄れてしまう♪ 世間を混乱させるミッションの遂行は不十分になってしまうだろう。というわけで、アリババという企業のポテンシャルと数学の面白さを再確認することができた。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2747字)
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