2021年のノーベル物理学賞は、パリーシ氏(イタリア)に半分、眞鍋淑郎氏(米国籍)とハッセルマン氏(ドイツ)に4分の1ずつ授与された。眞鍋の「眞」は旧字体なので、メディアは「真」鍋と新字体で書いてることが多い。
賞金の総額は1000万スウェーデン・クローナ(約1億2000万円)だから、3人それぞれが受け取る金額は、6000万円、3000万円、3000万円。英語版の公式サイトより。
中心はパリーシ氏であって、これを「真鍋淑郎さんら3人に」と伝える日本のメディア報道はどうかと思う。しかし、私も日本好きの日本人だから、真鍋氏に焦点を絞って記事を書くことにしよう。
眞鍋氏は、人間的にはかなり面白い人のようで、あちこちの話を読むと自虐ギャグみたいなものがかなり混ざってる。もちろんそれは、自信と実績の裏返しではあるけど、ランニングや水泳も好きらしいし、90歳でもお元気で明るい科学者だ。
それにしても今回の授賞は、物理学賞にも政治的意図やメッセージが込められることを示してる。平和賞や文学賞に限らず、その点は理解しておく必要がある。
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いつもながら、ニクラス・エルメヘド氏のイラストはいい味を出してて、単色の色使いもいい。真鍋氏は確かに、昔ながらの黒縁メガネと柔らかな目、眉が印象的で、耳が大きく目立ってるように見える。
The Royal Swedish Academy of Sciences has decided to award the Nobel Prize in Physics 2021
“for groundbreaking contributions to our understanding of complex physical systems”
with one half jointly to
Syukuro Manabe Princeton University, USA
Klaus Hasselmann Max Planck Institute for Meteorology, Hamburg, Germany
“for the physical modelling of Earth’s climate, quantifying variability and reliably predicting global warming”
スウェーデン王立科学アカデミーは、「複雑な物理システムに対する我々の理解への革新的貢献に対して」 、 2021年ノーベル物理学賞を贈ることに決定した。
賞の半分を、米国・プリンストン大学の眞鍋淑郎氏と、ドイツ・ハンブルク・マックスプランク気象学研究所のクラウス・ハッセルマン氏に併せて贈呈。
「変動性を数量化し、地球温暖化を高い信頼性で予測する、 地球気候の物理的モデルを作ったことに対して」。
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Physics for climate and other complex phenomena
気候その他、複雑な現象の物理学
Three Laureates share this year’s Nobel Prize in Physics for their studies of chaotic and apparently random phenomena. Syukuro Manabe and Klaus Hasselmann laid the foundation of our knowledge of the Earth’s climate and how humanity influences it. Giorgio Parisi is rewarded for his revolutionary contributions to the theory of disordered materials and random processes.
今年のノーベル物理学賞は、カオス的で明らかにランダムな現象の研究に対して、3人の授賞者に贈られる。真鍋淑郎とクラウス・ハッセルマンは、地球気候と人間活動による影響についての我々の知識の基礎を築き上げた。ジョルジオ・パリーシは、無秩序な物質とランダムなプロセスの理論に対して革命的な貢献を行った。
Complex systems are characterised by randomness and disorder and are difficult to understand. This year’s Prize recognises new methods for describing them and predicting their long-term behaviour.
複雑なシステムは、ランダムさ(予測不可能性)と無秩序によって特徴づけられるもので、理解するのは難しい。今年のノーベル賞は、それらを記述して長期の動きを予測するための新しい方式を評価した。
One complex system of vital importance to humankind is Earth’s climate. Syukuro Manabe demonstrated how increased levels of carbon dioxide in the atmosphere lead to increased temperatures at the surface of the Earth.
人類の生命活動にとって重要な複雑システムの一つは、地球気候である。真鍋淑郎は、大気中の二酸化炭素レベルの増加がどのように地球表面の気温上昇を導くのかを示した。
In the 1960s, he led the development of physical models of the Earth’s climate and was the first person to explore the interaction between radiation balance and the vertical transport of air masses. His work laid the foundation for the development of current climate models.
1960年代、彼は地球気候の物理モデルの発達を先導し、放射バランスと空気の塊の垂直移動の間の相互作用を探求する最初の1人であった。彼の仕事は、現在の気候モデルの発達に対する基礎を打ち立てた。
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Manabe’s climate model
Syukuro Manabe was the first researcher to explore the interaction between radiation balance and the vertical transport of air masses due to convection, also taking account of the heat contributed by the water cycle.
真鍋の気候モデル
真鍋淑郎は、放射バランス(収支)と、対流による空気の塊の垂直移動との相互作用を探求した最初の研究者であった。彼はまた、水のサイクルによる熱も考慮に入れた。
Infrared heat radiation from the ground is partially absorbed in the atmosphere, warming the air and the ground, while some radiates out into space.
地面からの赤外線による熱放射は、一部が大気に吸収され、空気と地面を温め、一部は宇宙へと放出される。
Hot air is lighter than cold air, so it rises through convection. It also carries water vapour, which is a powerful greenhouse gas. The warmer the air, the higher the concentration of water vapour. Further up, where the atmosphere is colder, cloud drops form, releasing the latent heat stored in the water vapour.
熱い空気は、冷たい空気より軽いので、対流を通じて上昇する。それはまた、強力な温室ガスの1つである水蒸気を運ぶ。空気が温かいほど、水蒸気の濃度は高まる。さらに、大気が冷たい所では、雲の雫が形成され、水蒸気に蓄えられた潜熱が放出される。
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Carbon dioxide heats the atmosphere
二酸化炭素は大気に熱を与える
Increased levels of carbon dioxide lead to higher temperatures in the lower atmosphere, while the upper atmosphere gets colder. Manabe thus confirmed that the variation in temperature is due to increased levels of carbon dioxide; if it was caused by increased solar radiation, the entire atmosphere should have warmed up.
二酸化炭素レベルの増加は、低層の大気では高い気温をもたらし、高層の大気は冷やす。真鍋はこうして、気温の変動は二酸化炭素レベルの増加によるものだと確信した;もし気温変動が太陽放射の増加によるものなら、大気の全体が温められるはずだから。
Temperature at the surface fell by 2.28°C when the level of carbon dioxide halved. It increased by 2.36°C when the level of carbon dioxide doubled.
二酸化炭素レベルが半分になった時、地表の気温は摂氏2.28度だけ低下した。二酸化炭素レベルが2倍になった時、地表の気温は摂氏2.36度だけ上昇した。
(訳者による補足: 最後の説明文は矛盾してるようにも見えるが、要するに、300ppmが150ppmになった時と、300ppmが600ppmになった時の話をしてるので、矛盾ではない。)
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なお、英語版ウィキペディアが文献の最初に紹介してる英語論文を見ると、偏微分方程式が最初に提示されてた。福山雅治が人気ドラマ『ガリレオ』で書きなぐりしそうな数式だ♪
さらなる説明は以前の論文を読むように、とのこと。いずれ、余裕があればということで。当時のコンピューターで数値計算すると、1日に8000ドルもかかる上に、「爆発」したそうだ。日本気象学会の機関誌『天気』、1987年、p.648より。
爆発とは、今の言葉だと深刻なフリーズのことだろうか? ともあれ、今日はそろそろこの辺で。。☆彡
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