うつ病(抑うつ状態)の心理検査尺度CES-D、日本語訳と英語原文(米国NIMH、Radloff)の対比

心理的な検査、テストというものは、英語圏を中心に多数発表されてるし、中身が単純で似てるので、これ自体に特別な注目ポイントはない。ただ、女性タレントがブログでうつを発表した時に画像まで載せてて、かなりのメディアも記事にしてたので、つい調べることになった。

   

CES-D scale(Center for Epidemiologic Studies  - Depression scale:疫学研究センター・抑うつ尺度)。

  

最後の「scale」(尺度)という英単語を省略したり意訳したりしてることが多いが、省略すると単なる米国国立精神保健研究所(NIMH)のセンター名に近くなってしまう。

   

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センター所属のラドロフ(L.S.Radloff)が1977年に開発して、世界に普及。一般人の自己報告用。平均して90%の精度があるとか言われてるが、日本人や日本語で同じとは限らない。もともと曖昧で論争的な精神状態の計測だから、精度を求めるのも困難。

   

   

     ☆     ☆     ☆

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上の写真は「小林礼奈さん」に渡された、CES-D検査結果用紙。自分でブログに公開してるし、既に各種メディアで拡散してるし、そもそも自分でクリニックのグループの広告にも出てるから、縮小引用は許容範囲だろう。

   

堂々と公表してるから、ステマではない。人気も知名度もある、ゆうメンタルクリニック。私も前から知ってる。

    

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ただ、彼女は失礼ながら名前も顔も知らなかった。グラビア系のタレントのようで、過去のニュースを検索すると、お笑いコンビ・流れ星の瀧上伸一郎との結婚や離婚が話題になってる。離婚後も対立してるらしくて、ストレスも大きくのしかかってるはず。

   

  

     ☆     ☆     ☆

尺度の中身自体は、既にあちこちのサイトの画像で公開されてるので、ここでは元の英語原文(ブラウン大学)と日本語訳(産業医科大学)との対比に注目してみる。単純な直訳ではないのだ。

  

全部で20項目の簡単な質問リストを提示。過去1週間、どのくらいの頻度で質問文のように感じたか、4段階(0点~3点)で回答する。

   

ネガティブな16項目では、少ない方が低い点数。ポジティブな4項目では、少ない方が高い点数。合計点が高いほど、抑うつ的だと判定。16点以上が抑うつ状態。

     

 ほとんど、または全くなし (1日未満)

 たまに、または少し (1~2日間)

 時々、またはかなりの時間 (3~4日間)

 ほとんど、またはずっと (5~7日間)

  

ちなみに上の4段階の日本語は、私が元の英文から直訳したもので、日本で広まってるものとは少し違う。日本向けの画像を見ると、「感じることはなかった」といった日本語が後半に付いてるが、英語原文にそうした言葉は入ってないので、念のため。

  

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どのくらいの頻度で感じたかをたずねてるので、頻度の4段階には「感じた」という言葉が入らないのは自然なことだ。入れると重複になる。

   

   

     ☆     ☆     ☆

1.普段は何でもないことが煩わしい。

  I was bothered by things that usually don't bother me.

これは日本語も英語もほぼ同じ。ただし、英語は過去形で、過去1週間の報告だから過去形の方が正確。

  

2.食べたくない、食欲が落ちた。

  I did not feel like eating; my appetite was poor.

これもほぼ同じ。ただ、食欲が「落ちた」のではなく、poor(乏しかった)ということ。落ちたと訳すと、ずっと食欲がない人の場合におかしな事になってしまう。

  

3.家族や友達から励ましてもらっても、気分が晴れない。

  I felt that I could not shake off the blues even with help from my family or friends.

ほぼ同じだが、直訳は「たとえ手助けがあったとしても」。そう書かないと、もともと家族や友達がいない場合に困る。

  

4.他の人と同じ程度には、能力があると思う。 (頻度が少ない方が高い点数

  I felt I was just as good as other people.

「能力がある」ことに限らず、「good」(良い)かどうかが本来の設問。

   

5.物事に集中できない。

  I had trouble keeping my mind on what I was doing.

これはほぼ同じ内容で、上手い翻訳。

  

6.ゆううつだ。

  I felt depressed.

これもそのまま。

  

7.何をするのも面倒だ。

  I felt that everything I did was an effort.

「面倒」というと、始めるまでの嫌気の意味合いが強くなる。元は effort(骨折り、苦労)だが、意外と訳しにくいから、面倒という訳は適切かも。

  

  

    ☆     ☆     ☆

8.これから先のことに対して積極的に考えることが出来る。 (頻度が少ない方が高い点数

  I felt hopeful about the future.

「積極的に考える」という言い回しは一般にはほとんど使われない堅い表現なので、普通に「未来に希望を感じる(または、感じた)」と訳す方がいい。

   

9.過去のことについてくよくよ考える。

  I thought my life had been a failure.

これはかなり異なる。「くよくよ考える」のではなく、「人生は失敗だったと考える」だけ。

   

10.なにか恐ろしい気持ちがする。

  I felt fearful.

これはほぼ同じ。

  

11.なかなか眠れない。

  My sleep was restless.

なかなか眠れないと言うと、布団に入ったのに寝付けないという意味が強くなってしまう。あまり眠れないとか、十分眠れないと訳すべき。

   

12.生活について不満なく過ごせる。 (頻度が少ない方が高い点数

  I was happy.

不満なく過ごせると、ハッピーでは、かなり違うはずだが、日本人の性格や文化も絡んで訳しにくいのは事実。

    

13.普段より口数が少ない。口が重い。

  I talked less than usual.

これは前半だけにすべき。「口が重い」というと、言うべきことを言わないようなニュアンスになってしまう。

   

14.一人ぼっちで寂しい。

  I felt lonely.

「一人ぼっちで」は無い方がいい。一人でなくても lonely (寂しい)ことは普通にあるので。

  

  

     ☆     ☆     ☆

15.皆がよそよそしいと思う。

 People were unfriendly.

よそよそしいだと、もともと親密な関係に限られてしまう。好意的でないとか、冷たいの方が近い。

    

16.毎日が楽しい。 頻度が少ない方が高い点数

  I enjoyed life.

その時々、あるいは1日単位の感情をたずねるのだから、「毎日」という言葉はない方が適切。

  

17.急に泣き出すことがある。

  I had crying spells.

急に、ではなく一時的にと訳す方が近いが、それだと堅いので、急にという訳で良い。

   

18.悲しいと感じる。

  I felt sad.

これは、時制を除いてそのまま。

  

19.皆が自分を嫌っていると感じる。

  I felt that people dislike me.

皆というより人々だが、皆という訳の方が自然か。

    

20.仕事が手につかない。

  I could not get "going".

これはかなり違う訳で、ほとんど誤訳に近い。仕事の場面に限ったとしても、かなり意味が違う。原文は、何かをやり始めることが出来ない、動き出すことができないということ。ただ、そもそもの英語原文が曖昧すぎるかも。

   

   

     ☆     ☆     ☆

というわけで、英文和訳に限っても、色々と問題を含んでいる検査だと分かった。最も疑問なのは、カッコで日数を示している点。

    

本来は日数ではなく時間がポイントだから、日数を補助的に入れるのなら小文字にすべきだろう。1日どころか、1時間の内にでも色々と気分は変わるものだ。

     

肝心の自己報告については、私の場合、元の英文で計算して、22点前後。診断は「軽度抑うつ状態」。もう少し悪化すると病院に行くレベルらしいから、注意すべきか。

  

しかし根本的に、これほど単純な基準で人間の精神状態を測定しようという発想自体に大きな問題を感じる。人間は、疫学統計の論文を書きやすくするために生きてるわけではないし、向精神薬の開発を簡略化できるようにできてるわけでもない

  

精神科医とかカウンセラーなどは、そういった基本を常に頭に入れておくべきだろう。「ほとんど、またはずっと」。なお、今週は計14151字で終了。ではまた来週。。☆彡

    

      (計 3409字)

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同調圧力、大勢順応の社会実験(朝日新聞)~心理学者ソロモン・アッシュ、英語原論文

個人とか少数派が、多数派に対して自立・独立を保つのは非常に

難しい。

 

「みんなに合わせるた方がいい」といった感じの無言の「同調圧力

が重くのしかかるからだ。今の普通の英語は peer pressure

(仲間圧力)だけど、日本語の「同調」と綺麗に対応するのはむしろ

conformity pressure。子どもはもちろん、大人でも、逆らう

と孤独を感じるし、仲間外れやイジメの候補者にもなる。

 

ここ5年で一気に少数派となってしまった一般人ブロガーの私も

常に、プレッシャーを感じてる。ツイッターその他、SNSで大勢の

人と短い言葉を素早くやり取りする方がいいかな・・とか思って

しまうのだ。

 

実際、長くて難しい文章は確実に読まれなくなってる気がする。

逆に、芸能人の人気ブログは、写真、絵文字、行間の空白だらけ

なのだ。よく行く書店の客がどんどん減って来たのも、そうした

状況と関連するものだと思う。

 

新聞というメディアも、電子媒体はともかく、紙媒体だと着実に

少数派に向かってる。だから、新聞記事についてブログで記事を

書くのも流行遅れだけど、今回の話は世界的・歴史的に有名で

分かりやすいものだから、あえて長めに書いてみよう。

 

簡単には同調圧力に屈しない姿勢を、執筆自体で示すためにも。。

 

 

     ☆       ☆       ☆

さて、朝日新聞が最近、心理学者ソロモン・アッシュの実験を扱う

記事を2本載せたのは、リベラル・メディアとしての姿勢が反映

したものだろう。反安倍、反自民、反多数派という政治的ポリシー。

少なくとも2本目は、記事タイトルも内容もハッキリそうなってる。

 

1本目は18年10月11日の朝刊・科学欄ミニコラム「ユリイカ!」。

アルキメデスみたいに、面白いことを「発見した!」という意味で、

コネタとはいえ、確かに面白いことが多い。

 

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今回のタイトルは、「子がロボットに同調?」。執筆は浜田祥太郎

記者。子どもが人型ロボットに同調しやすいという研究結果が世界

でニュースになったのは、今年の夏(8月)。Digital Trends と

いう米国ネットメディアは、こんな記事を9月2日にアップしてた

 

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「ロボットは子どもに同調圧力を加えることができる。ただし、

 我々(大人)は影響を受けないとすぐに考えてはならない」。

 

モニターの左に線が1本、右に3本映ってる。右の3本の内、

左の1本と同じ長さの線はどれか?

 

もちろん、正しい答えは左端だけど、先にロボット達が間違った

線を選ぶと、素直な子ども達は悪影響を受けてしまうらしい・・

と私が書くと、つられる読者がいるかも♪ 本当の答は真ん中だ。 

 

 

     ☆       ☆       ☆

朝日新聞に戻ると、2本目の記事は堅い内容が多いシリーズ、

「日曜に想う」。今回は「大勢順応という時代のわな」。

 

執筆は、編集委員・大野博人。政治的な好みや評価はさておき、

左派の知識人としては優秀だと思う。記事の右下に一部分だけ

見えてる挿し絵は、皆川明「見送り」。大きなものはしばしば、

やさしい表情で影響を与えて来る。イラストレーターの意図は

ともかく、読み手としては、意味をそう解釈しても良さそうだ。

 

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冒頭、「赤狩り」(共産主義者・社会主義者への弾圧)の批判は

軽く聞き流すとして、その後の実験のまとめはわりと正確だ。

おそらく、自分で元の英語論文を読んでるのだろう。

 

 1951年の米国・・・大学の教室に集めた7人から9人の学生

 に2枚のカードを見せる。1枚目には直線が1本、2枚目には

 長短の異なる3本が並んで描かれている。このうち1本だけが

 1枚目の直線と同じ長さだ。

 

  学生たちは、その1本が3本の中のどれかとたずねられる。

 長短はかなりはっきりしている。ふつうならまちがえる率は

 1%にとどかない。

 

  だが、グループの学生のほとんどが「サクラ」で本当の被験者

 が1人だけだとどうなるか。「サクラ」は事前に指示されたとおり

 同じ誤った答えを口にする。そのときただ1人事情を知らない

 学生の反応は?

 

  多数派に引きずられて答えを誤る率が36.8%にも上った。

 だれも同調を強要していないし、答えが違っても罰則はない

 にもかかわらず、である。

 

 

     ☆       ☆       ☆

さて、ここからが少数派ブロガーの頑張り所。朝日の記者が

読んだと思われる英語の原論文をネットで検索。サラッと読んで

みた。すると、上のまとめでも、まだ重要な点が色々と抜けてる

ことが分かった。

 

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Googleが示してる「被引用数: 3065」という数字は、

有名な学術論文の中でも非常に多い。普通は3ケタ以下だ。

 

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Opinions and Social Pressure

  by Solomon E. Asch

 (意見と社会的圧力 ソロモン・E・アッシュ)

『SCIENTIFIC AMERICAN』、VOL.193、N0.5

所収。全体で5ページの短い雑誌論文

 

 

     ☆       ☆       ☆

心理学の論文は、図・表・写真がわりと親切なことが多い気が

するけど、この論文は特に親切で分かりやすい。本文を読まなく

ても、図と写真に添えられた説明だけで大まかに理解できる。

 

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半円形に男性が7人座って、右端に実験を行う1人が立ってる。

ハーバード大学・社会関係研究所。他の場所もあったらしい。左

から6人目の白シャツの男性のみが何も知らされてない本物の

被験者で、残りはサクラだ。

 

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孤独な本物の被験者が苛立って迷う様子が連続写真で分かる

・・と書きたい所だが、著者アッシュが編集してるものだから、

控えめに見とくべきだろう。私なら、かなり早い段階で笑い出す

と思う♪ 苦笑ではなく、あまりに奇妙な事態への素朴な笑いだ。

 

ただし一応、被験者に疑われないための配慮はあったらしい。

1セット18回の内、6回はサクラも正しく応答。それらは除いて、

残り12回を実験結果として分析したとの事。

 

 

     ☆       ☆       ☆

朝日が書いてた、「誤る率が36.8%」というのは、回数の

割合のようだ。本物の被験者の内、(つられて)一度でも間違えた

人の割合は75%と書いてる(上図の下)。

 

3本の線の内、1本はやや微妙な長さだから、単純に自分の

判断で間違えた場合も入ってるはず。与えられた考慮時間の

長さも気になる所。

 

それにしても、4分の3の大学生が間違えるというのは、なかなか

興味深いし、我々も注意すべきだろう。そもそも、123人もの

本物の被験者を実験してる間には、ネタバレ的な情報もれもあった

と考えるのが自然。余裕で多数派に逆らい続けた学生もいたと思う。

にも関わらず、大部分が間違えてるのだ。

 

 

     ☆       ☆       ☆

ちなみに、実際の世の中は遥かに微妙で、ハッキリした正解は無い

ことのが普通。ただ、周りが全員一致するという奇妙な状況も滅多に

ないから、同調圧力に負ける割合がどう変化するかは微妙だろう。

 

ハッキリした正解がない場合は、同調圧力に屈する、譲歩すること

こそ「社会行動的な正解に近いもの」だと言えなくもない。典型的

なのは株式投資の世界で、多数派の動きを僅かに先取りした者が

儲かる。同調の判断と速度がポイント。SNSでの人気獲得の

場合なら、同調を形成する能力や魅力も大切になる。

 

ともあれ、その辺りのレベルからは、単純な心理学実験を超えた

複雑な問題になるだろう。もっと残酷な行動を扱うミルグラムの実験

(アイヒマン実験)も気になりつつ、今日のところはこの辺で。。☆彡

 

 

 

cf. フィトゥシ「街灯の定理」と、

   古いジョーク「街灯の下で鍵を探す」

 

          (計 2984字)

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ノーベル経済学賞2017、セイラー教授と最終提案ゲーム、エコン、ヒューマン

いわゆるノーベル経済学賞というものは、他のノーベル賞とは違って、

ノーベルの遺言には無かったとされるし、歴史もやや浅くて、設立も

賞金もスウェーデン国立銀行によるもの。それは、公式HPのプレス

リリースにもはっきり示されてる

 

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大見出しが「ノーベル賞」ではなく、「ノーベル記念・スウェーデン

国立銀行・経済学賞2017」となってるのだ。制度的・形式的な

ことだけでなく内容的にも、自然科学3部門に対するノーベル賞

よりは多少、格下に見られてる感はある。

 

ただ、逆に一般人にとっては、より身近に感じられる内容でもある。

日常的な社会で、リアルな「人間」がどう行動するかを論じたのが、

今回の受賞者セイラー教授(Richard Thaler)。上図の最後、

授賞理由は「行動経済学への貢献に対して」だと書かれてる。

 

5年前、2012年に受賞した「婚活理論」も似たような話で、当サイト

でも記事にした

 

 ノーベル経済学賞に輝いた婚活(マッチング)理論~OR4

 

 

     ☆        ☆        ☆

5年前がやや数学的な話だったのに対して、今回2017年はむしろ

心理学的な話で、ノーベル実験心理学賞のような印象もある。

 

既に今年はノーベル賞記事を3本書いたので、経済学賞はスルー

する予定だったが、朝日新聞が面白いコネタの形で紹介してたから、

予定変更。英語の原論文も読んだ上での軽い解説を書いてみよう。

 

まず、2017年10月11日・朝刊のコラム「天声人語」から引用。

やや長くなるが、これ以上省略すると意味が分からないと思う。

 

 今年のノーベル経済学賞に輝いたリチャード・セイラー米シカゴ

 大教授(72)の功績を縮めて言うなら「人間くさい経済学」を

 打ち立てたことだろう。従来の経済学が想定した常に冷静で

 合理的な人間を「エコン」と呼び、「人間はもっと不合理。エコン

 ではなくヒューマンだ」と唱えた。 

 

 ヒューマンらしさは「最終提案ゲーム」という実験に端的に表れる。

 2人に1万円が与えられる。配分額は1人が決め、相方は拒否権

 を持つ。拒否すると両者とも取り分はなくなる。従来の理論では

 1円を渡すのが「正解」とされた。9999円を手にでき、相方も

 「0円よりマシ」と拒まないと考えた。

 

 実験結果は違った。最も多かった選択は折半である。フェアマン

 (公平な人間)とゲームズマン(かけひき屋)。行動経済学者は

 「人の中には両面が同居する」と考えた。 ・・・ (以下略)

 

 

この後、朝日の筆者は総選挙批判に向かう。要するに、政界は

かけひき屋だらけだけど、我々は公平な人間として選ぶべきだと

いう話だ。セイラー教授自身がそんな正論を語るかどうかは不明。

賞金は「非合理的に使う」と、ひねった冗談を口にした人だから♪

 

ネットの朝日新聞デジタルには「ぐうたら経済学」という妙な題名が

付いてるが、これも遠回しの総選挙批判のつもりだろう。紙の新聞

にそんな題名はない。

 

 

     ☆        ☆        ☆

さて、天声人語には出典が何も書かれてないから、気になった私は

すぐにネット検索。セイラー教授本人の英語論文が直ちにヒットした

米国経済学会の雑誌に、1988年に掲載されたもののようだ。既に

30年前になる。

 

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 「Anomalies

 The Ultimatum Game

 変則的なもの  最終提案ゲーム

 

 

「変則的なもの」(アノマリー)とは、従来の経済学において合理的

に説明できないものを指す言葉で、この論文の中心テーマ。

 

「最終提案」と訳してる「ultimatum」は、ラテン語で「最後のもの」

を示す言葉をそのまま英語にしたもの。普通の英単語なら

「ultimate」。

 

つまりアルティメットであって、究極の総合格闘技の名前として有名

だろう。格闘技を意識した遊び心で付けたタイトルかとも思ったが、

格闘技団体UFCの設立は93年だから関係なさそうだ。

 

 

     ☆        ☆        ☆

では本題。セイラー教授の論文だと、最終提案ゲームの説明は

やや複雑な流れになってる。学術論文らしく、先行研究に配慮

してるからだが、ここでは「最初の実験」とされてるドイツの実験

(1982)を見ておく。

 

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経済学の学生42人を半々に分けて、一方は「プレーヤー1」

(配分者)のグループに、他方は「プレーヤー2」(受諾者)の

グループにした。

 

両グループの2人で、いくらかのお金(ドイツ・マルク)を分ける。

プレーヤー1が、プレーヤー2に配分する金額を提示するが、受諾

するかどうかはプレーヤー2が決める。拒絶すれば、両者ゼロ。

 

朝日は1万円と書いてたが、実際には4マルクから10マルクの

間だから、日本円だと500円前後の小銭で行った実験だ。

 

 

      ☆        ☆        ☆

従来の理論では、一つのモデルとして、配分者がゼロに近いプラス

の金額の提案をして、受諾者はそれを認めることになる。配分者は

なるべく多くのお金を手元に残したいし、受諾者もゼロよりは僅かな

金額の方がベターなはず。

 

ところが1回目の実験だと、最頻値、つまり最も多かったのは、半々

だった。21の実験例のうち、7例。平均値だと、元の金額の37%。

合計500円なら、185円を配分したことになる。

 

実は2回目の実験だと、もう少しプレーヤー1がずる賢くなる。半々

を提示したのは僅か2人で、配分の平均値も32%(160円)へと

低下。

 

ということは、経験を積むと公平性が少し減ったことになる。これは

朝日が触れてない、重要な現実的ポイントだろう。金額が上がると

どうなるか、実験ではなく実生活だとどうなるのか、そういった事も

気になる所だ。例えば、被験者はゼロ円になっても生活に困らない

が、労働者は収入ゼロ円だと困ってしまう。。

 

 

      ☆        ☆        ☆

ともあれ、要するに人は公平性と利己的態度の両方を持ち合わせて

いる。「合理的に」自分が最も得することを考えるだけではなく、相手

とのバランスも考えるわけだ。

 

正直、当たり前の結論であって、もし従来の経済学で当たり前では

なかったのなら、そちらの方が奇妙だろう。本当に従来の経済学が

非現実的な「合理性」にこだわっていたのかどうか、調べてみる必要

は十分ある。

 

ただ、ノーベル賞・公式サイトの詳しい説明を流し読みした感じでは、

セイラー教授による過去40年の理論的進展を高く評価してるようだ。

 

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ちなみに「エコン」(econ : 経済学的な合理的人間)と「ヒューマン」

(公平性なども持ち合わせた現実の人間)の対比は、米国労働省・

統計局HPの去年の記事で確認できた。セイラー教授の2015年の

著書を用いたものだ。

 

171012d

 

 

確かに、実際の経済政策などに応用されてる証拠と言えるかも

知れない。

 

 

     ☆        ☆        ☆

しかし、この新しい(?)経済学理論があっても無くても、行政や経済

の全体には大差ないと思う。遥かに現実的で大規模な経験データが

大量に蓄積されているし、人間がさほど合理的、理性的でないのは

昔から自明のこと。多様な感情や欲望が混在する存在なのだ。

 

そもそも、半々の提案をした者が本当に「公平性」を示したのか

どうか、そこからして微妙な問題だろう。ちなみに私なら、相手に

よって選択を変えるが、全くの他人なら45%くらいを提案すると

思う♪

 

手数料程度の上乗せは認めて欲しいという、小市民的で実社会

的な振る舞いだ。もちろん、親しい相手なら半々で即決に持ち込む。

相手の方から手数料を認めてくれるなら、一度か二度断った後、

申し訳なさそうに了承するのが、日本人というものだろう。

 

それでは、今日はこの辺で。。☆彡

 

 

 

cf.体内時計と遺伝子の解明

   ~ノーベル医学生理学賞2017、授賞理由

  重力波の観測 by LIGO(ライゴ)

   ~ノーベル物理学賞2017、授賞理由(英語原文と和訳)

  カズオ・イシグロ『Never Let Me Go』

   (わたしを離さないで)、英語原書と英語版ウィキのあらすじ

 

               (計 3166字)

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やさしさに包まれたなら、二重の陽性転移~『ラヴソング』第3話

 われわれは患者に対して、君の感情は現在の状況から生じたもの

 でもなければ、医師の人格に当てはまるものでもなく、君の心の中 

 にかつて起こったことの反復であるにすぎないということを教えて、

 こういう感情転移を克服するのです。  

 

 このようにしてわれわれは患者にその反復されているものを何とか 

 思い出すように仕向けます。そうしますと、情愛的であると敵対的 

 であるとを問わず、とにかく治療にとってきわめて強い脅威を意味

 するようにみえた感情転移が、治療にとっての最良の道具となり、

 この道具の助けによって、心情生活の固く閉ざされた扉が開かれ 

 るのです

 

      (フロイト著作集1 『精神分析入門 (正)』 人文書院)

 

 

          ☆          ☆          ☆

いつもながらネットには、検索してすぐヒットするページの説明の引用が拡散

してるし、どこの引用かも書いてないことが多い。そこで当サイトでは、転移と

いう概念を広めた元祖、フロイト本人の著作の引用からスタートしてみた。第

二十七講・感情転移の中の一文で、ほぼ100年前の代表作、『精神分析入

門』(正)の最終章。

 

『ラヴソング』第3話で、夏希(水野美紀)に「陽性転移」(=恋愛転移)という

医学用語を教えられたさくら(藤原さくら)は、帰宅後に早速検索して、まとめ

サイトの説明を読みながら眠り込んでた♪ わかりやすい説明だけど、難し

く感じたのかか、あるいは自分の辛い現実から逃避したのか。

 

あの時、「超カワイイ」らしい真美(夏帆)が発見した、DELLのノートPC画面

の解説には、下部で次のように書かれてた。

 

 *患者が医師、カウンセラーなどに好意、恋心を抱いてしまうこと

 出典 感情転移

 陽性転移とは、信頼・尊敬・感謝・情愛・親密感の感情を持つことを言い

 ます。陰性転移とは、敵意・不信感・攻撃性・猜疑心・恨み心などを持つ 

 ことを言います。どちらも依存的で、幼児のように、まとわりつく・からみ

 つくといった特徴があります。

 

より正確には、「・・・・・・感情・態度を表すこと、またはその感情や態度その

もの」とか書くべきだが、簡潔で上手い説明なのは確か。臨床心理士監修の

森川隆司か、医療指導の山本昌督によるものかと思ったら、どうも本当にネッ

トの文章らしい。ただし、「出典 感情転移」というのは初歩的なミスで、単なる

ページ名の「感情転移」を出典としてしまってる♪

 

本当の出典とすべきサイト名は、「カウンセリング『心の相談室with』名古屋」。

こちらに含まれる説明ページの1つが、そのままコピペで拡散してるのだろう。

現役のベテラン・カウンセラーによる、良心的なサイトのように感じられた。

 

 

          ☆          ☆          ☆

さて、カウンセリングや精神分析的面接を受けてる女性患者が、担当する男

性にプラスの感情・態度(=陽性転移)を差し向ける姿は、去年の春ドラマ『Dr.

倫太郎』でも登場したし、8年前の春ドラマ『Around40』にも登場。違う用語

を補うなら、幼児の状態に戻る「退行」の側面の一つとも言える。

 

ウチでは『Around40』第4話で、「過去の愛の新たな再現」と題するレビュー

をアップして、「転移とはまさに、過去の愛のやり直し」だと書いた。愛をやり

直すためにはまず、「別の相手に移しかえること」(転移)が必要。現在、身近

にいて、出来れば安全な人。広島カープの黒田投手では遠すぎる♪

 

要するに、さくらの場合、行方不明の父への愛を、広平(福山雅治)でやり直

してるわけだ。いわゆるファザコン(=ファザー・コンプレックス)よりも、人格的

に重要な営み。母親がガンで亡くなった後、自分を養護施設に預けたまま消

えたのだから、当然、マイナスの思いも抱いてるはず。それも時々、甘えるよ

うな形で広平にぶつけてるわけだ。陽性転移に対して、陰性転移と呼ばれる。

 

冒頭の引用に書いてたように、本来の分析治療では、陽性&陰性の転移を 

分析家が面接の中で上手く利用して、患者の無意識を表面化し、歪曲や抑圧 

を和らげて無害化する(建前上の理想論としては)。

 

だから、第三者が横から転移の妨害をしてはいけないはず。もちろん、言語

聴覚士の夏希もそのくらいは知ってるはずだが、つい、クライアントのさくらに

余計な忠告をしてしまった。

 

要するに、あれは、さくらに対する嫉妬。だからこそ、直後のシーンで、志津

子(由紀さおり)が嫉妬の話をして、広平は「健全」だと言ってた。夏希の嫉妬

も、さくらの嫉妬も、健全なのだ。幸福かどうかはさておき。。

 

 

         ☆          ☆          ☆

一方、治療という行為が、相互的なものだという点も忘れるわけにはいかな

い。治療者は、患者を治療しながら、自らも治療するという側面がある。そも

そも、フロイト自身が神経症の患者でもあったのだ。その場合、治療者を患者 

が治療するという形になり、治療者が患者に転移することになる(逆転移)。

 

ドラマの場合、臨床心理士の広平自身が、亡くなった恋人らしい春乃(新山詩

織)への思いを上手く扱えず、苦しんでる。つまり、広平は患者でもあるわけで、

彼に対する治療者は2人いるのだ。

 

1人は、夏希。春乃の妹だから、広平としてもごく自然に、春乃への思いを転移

できる。ただし、夏希の方が立場的に上だから、夏希の家のトイレでは男のプ

ライドを捨てて座ってして、ハネによる汚れを減らすのであった(笑)。って言う

か、洋式トイレで立ってすると、最初から最後の1滴まですべて便器に入れる

のは至難の業♪ 座った方がラクなのだ・・・って、男のプライドは?!

 

そして、患者・広平に対するもう1人の治療者は、春乃が歌う姿と重なるらしい、

さくら。これまた自然に、春乃への思いを転移できる。

 

  やさしさに包まれたなら きっと

  目にうつる全てのことは メッセージ

           (『やさしさに包まれたなら』 作詞・荒井由実)

 

この古典的名曲からライブがスタートしたのは、非常に上手い脚本だった。

広平のやさしさに包まれたさくらにとって、彼の全ては、父からのメッセージ。

そして、さくらのやさしい歌声に包まれた広平にとっても、彼女の全ては、春

乃からのメッセージなのだ。

 

  今宵もqueen 得意げなポーズでsmile

  oh sing it to me

   (2曲目、歌&作詞・LOVE PSYCHEDELICO 『Your Song』)

 

 

           ☆          ☆          ☆

さくらと広平の間の、二重の陽性転移が危ういことについては、広平もよく

理解してるはず。遥か年下の女性患者を、死んだ恋人の代わりに愛すると

いうのは、臨床心理士でなくても心が痛むことだし、世間的にも理解されに

くい。

 

そこで広平は、ライブのアンコールには応えず、さくらから「手を離す」ことに

した。分かってたこととはいえ、いきなり幸福の絶頂からどん底に落とされた

さくらは、トイレにこもって、洗浄水のムダ使いをするのであった♪ 『サマー

タイム』(Summertime : 3曲目)の輝きは短いのだ。

 

まあ、どうせ月9だから、最後は禁断の治療者・患者ハッピーエンドになって、

日本臨床心理士会から職業倫理的なクレームを受けることになる(笑)。でも、

その時にはドラマは終わりだから、やったもん勝ちなのだ。黒田さくらじゃなく

て、フグ田さざえでもなくて、神代さくらでございます♪ 

 

私が脚本家なら、最後はむしろ、さくらの独り立ちにしたいけど、プロデュー

サーや演出家・西谷弘からダメ出しが入るのかも。と言うより、女性視聴者か

らと言うべきか。。 

 

 

         ☆          ☆          ☆

とにかく、西谷の美しい映像はもちろんのこと、新人2人の実力にもホントに

感心する。

 

ヒロイン・藤原さくらは、難しい吃音を上手く(安全に)演じてるし、キックスター

トでのエンジン始動に失敗した後のバイクを押す演技もいい♪ ヤマハTW

200(乾燥重量118kg)にせよ、TW225(同127kg)にせよ、ガソリン、オ

イルその他を合わせると130~140kgくらいだから、女の子1人で持って動

かすだけでも大変。特に登り坂だと、バイクは超~重い。

 

2人の子育てに追われる脚本家・倉光泰子も上手いね。今回、特に感心した

のは、広平が夏希のPCキーボード入力音に文句をつける場面。まず夏希が、

陽性転移への警告を発しながら、「しちゃってたりして」と言う(笑)。もちろん、

さくらが陽性転移をするという意味と、広平が「する」という意味をかけ合わせ

た言葉。

 

すぐ気付いた広平が怒って、嫌いなんだよね・・とか言い返すのだ。すること

が・・・ではなく、PCの音が♪ 直後のPCキーボードとギターの妙なセッション

は、後のピアノとギターの熱いセッションへとつながってる。スポニチによると、

現在すでに第8話あたりを執筆中とのこと。

 

なお、今回の夏希のホワイトボードには、「オペラント学習」と書かれてた。

吃音者が「聞き手のいる場面でしゃべる」と、プラスの反応があったら、流暢

な喋りを強化してくれる。ところが、マイナスの反応があったら、どもることを

強化してしまう。しかも、マイナスの方が5倍も強化してしまうという理論。要

するに、「反応学習」という意味だ。

 

そんなカタカナの輸入理論より、涼子(山口紗弥加)が空一(菅田将暉)の

「仕事」(笑)に何万円のバイト料を払ったのかが気になる所。案外、チョコっ

としか仕事できなくて、ご褒美はチョコバットとか♪ コラコラ! いや、先日

ローソンのレジ前に並んでたもんで。

 

私なら、バイト料の代わりに、仕事の回数券でもOKだけど・・・とか思いつつ、

それでは今日はこの辺で。。☆彡

 

 

 

cf. 故郷の広島、東京から「500マイル」(800km)~『ラヴソング』第1話

   吃音(どもり)の多因子モデルCALMS~第2話

   もっかい、もう1回!、音楽療法~第4話

   ブルーハーツ「終わらない歌」、終わる夢~第5話

   月夜に好きよ♪、ろくでなしのダメ男~第6話

   雨の彼方に虹、Leola(太陽の声)「Rainbow」~第7話

   過去の自分との幻想的ふれあい~第8話

   ラヴソングへのラヴソング~第9話

   さよなら、やさしい悪魔(DIABLO)~最終回

 

                        (計 3872字)

             (追記 151字 ; 合計 4023字)

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明治末期、「千里眼」(透視)ブームと科学的実験~朝日新聞「あのとき それから」

今週も引き続き、週間1万字制限を厳守。時間も字数もない中、ちょっと面白

くて珍しい話に軽く触れとこう。100年前、明治43年(1910年)に行われた、

「千里眼」の実証実験だ。

 

朝日新聞・夕刊、2015年1月24日に掲載された、「あのとき それから」シリー

ズの記事で、上側の大見出しは、「実証めざし 科学者も本気」。右側の見出し

らしきものは、「千里眼ブーム」となってる。朝日新聞デジタルでも掲載。

 

千里眼というと、私は遥か遠くを見通す眼力のことだと思ってたが、「透視」一

般を表す言葉として使われてたらしい。それどころか、ネットで日本大百科全書

の説明を読むと、「わが国で初めて超心理学の研究が行われたとき、超常的

現象をさす言葉として千里眼の語が用いられた」とさえ書かれてた。

 

朝日は書いてないが、東京帝国大学(今の東大)の心理学者・福来友吉(ふく

らい・ともきち)や物理学者・山川健次郎らが、千里眼を科学的に調べようとし

た時期は、ちょうどX線撮影(レントゲン)が普及し始めた頃なのだ。

 

見えないものを物理学的に透視できることが分かったのだから、(一部の)人

間がそれに似た能力を持ってるかも知れないと考えるのは、科学的に自然だ

ろう。もちろん、今の目線なら、奇妙な感じを受ける方が多数派だろうが。ダー

ウィンの進化論の影響で、生物がもともと持ってた未解明の能力の可能性も

考えられてたようだ。。

 

 

           ☆          ☆          ☆

中心人物の福来は、19世紀後半から話題になってた催眠術の研究者であっ

て、催眠状態の人間は特殊な能力を発揮するかも知れない、と考えてたとの

150126a  事。自己催眠で一時的に透視できるよう

  になる人が現れても、不思議はない。特

  に注目した一人が、火付け役となった熊

  本の若い女性、御船(みふね)千鶴子だ。

 

  左の写真はウィキメディアで、パブリック

  ドメイン(公的所有)。ただし、出典が書い

  てないから、別人の可能性も一応ある。

両手で持った壺か筒に、透視対象(字を書いた紙など)が入ってるのだろう。

千鶴子は鈴木光司の小説『リング』(91年)の登場人物、志津子のモデルと

も言われてるらしい。

 

一方、当時の朝日(東京朝日新聞)も、新興メディアとして、千鶴子の動向を

連日詳報。連載コーナーまで作って、大キャンペーンを張ったらしい。今なら

週刊誌でさえやりそうもない事だから、時代を感じるエピソードだ。

 

実験は何度も行われてるが、最初の公開実験らしきものが行われたのが、

1910年9月半ば。福来以外に9人、第一線の学者が立会い、計10人が見

守る中、千鶴子の透視が始まった。。

 

 

            ☆          ☆          ☆

千鶴子は、鉛の筒に密封された紙の3文字、「盗丸射」を見事に的中。一瞬、

みんな驚いたが、それは立ち会い人の山川が用意したものではなく、福来が

前日に練習用として渡したものだと、すぐに判明。

 

なぜ、そんな取り違いが起きたのかは不明のまま。常識的には、千鶴子の不

正操作(イカサマ)と考えるのが自然だろうが、その点はハッキリしない。極度

の精神集中が必要だからという理由で、千鶴子は再実験をしぶり、翌年1月

には自殺してしまった。自殺の理由は、批判によるプレッシャーなのか、金銭

トラブルなのか、これまたハッキリしない。まだ24歳の若さだった。

 

千鶴子はもともと、透視の際には、ついたてや屏風の陰に隠れたり、手元を

隠したりしてたようなので、「現在の」の朝日はかなり批判的にまとめてる。「福

来と山川はその後も別の能力者を対象に実験を続けるが、結局、超能力が実

証されることはなかった。やがてブームは去ったが・・・」。

 

コメントを載せてる信州大の認知心理学者・菊池聡も、次のように語ってる。

「・・・実証はできなかったわけです。実験によって証明できないものを『可能

性はゼロではない』と信奉したら、それは科学ではなくなってしまいます」。。

 

 

          ☆          ☆          ☆

しかし、数回の実験で失敗した後、「可能性はゼロではない」と個人的に「思

う」だけなら、科学の世界でもいくらでもあることだろう。今回の日本人ノーベ

ル賞受賞者たちも、何度も失敗して、もう止めろというような言葉も投げられ

てたはず。菊池の説明は、科学研究の最前線の動きにあまり合ってない。

 

「それまでの実験で証明できなかった事」が、「その後の実験で証明できたこ

と」など、現実的にも日常茶飯事のはずだし、理論的にもおかしくない。どんな

実験も、過去から現在に至る有限回の流れにすぎず、その一つ一つも決して

完全な正確性を持ってるわけではないのだ。科学とは、静的で完全な断定で

はなく、動的で不完全な暫定の連続。ダイナミックな漸進プロセスとしてとらえ

る必要がある。

 

150126c  実は、「当時の」朝日新聞(9月16日)の写真を

  細かくチェックしても、それほど失敗を強調して

  ないようなのだ。例の公開実験の直後、朝日

  などを招いた「記者の透覚実験」は、「結果極

  めて良好」という小見出しで紹介されてる。そ

  れどころか、例の実験さえ、小見出しは「失

  敗」とかではなく「驚愕」となってるのだ。

 

 

 

 

 

         ☆          ☆          ☆    

150126b  さらに、国立国会図書館の近代デジ 

  タルアカデミーで、福来の著書『透

  視と念写』(東京宝文館、1913)を

  読むと、例の実験については失敗

  を認めてるものの、他の実験によっ

  て、透視も念写も「事実である」と

  確信してたようだ。

 

  つまり彼自身は、実証されたと考

  えた。被験者は御船の他に、長尾

  いく子、高橋貞子。女性ばかりと

  いう点も興味深い。

 

  ただし、その確信が災いしたのか、

直後に福来は「休職」扱いとされ、1919年に東京帝大を退職したようだ。

 

この種の研究は、「トンデモ」、「イカサマ」、「ペテン師」扱いされつつ、今でも世

界中で行われてるはず。例えば、仙台市の福来心理学研究所の例会には、

50人ほどの会員が集まるそうだ。公式HPも健在。70年代にブームを起こし

た、スプーン曲げで有名なユリ・ゲラーも、いまだに活動中らしい。

 

もちろん、私が千鶴子やユリ・ゲラーらの能力を「信じてる」わけではなく、特に

ユリ・ゲラーについては、Mr.マリックの超魔術みたいなエンタテイメントだろう

と「思ってる」。催眠術もその「多くは演技や虚言、思いこみ」だろうと「思ってる」。

 

とはいえ、全否定を確信するだけの根拠もないし、僅かな部分肯定がなぜい

けないのか、説得的な議論を聞いたこともない。したがって私としては、「大部

分は偽物だろうけど、ごく一部は本当かも知れない。ただし、悪質・悲惨な詐

欺や誤解には気を付けよう」という、穏当な立場になるわけだ。

 

 

          ☆          ☆          ☆  

限られた回数の手品に一瞬だまされるだけなら、単に楽しいだけだろう♪ む

しろ、全否定する平凡な科学主義より幸福な人生だと思う。トンデモ批判がト

ンデモ期待より優れた生き方だという実証は存在しないどころか、現代の一

般人の実生活なら逆かも知れない。

 

なお、ウィキペディアの福来の項目には、なぜか上の著作を「1914年」と紹

介してるが、1913年が正しい。いまや、ネットですぐ実物(の写し)を確認で

きる時代。これもある意味、千里眼だろう。

それでは今日はこの辺で。。☆彡

 

                                    (計 2897字)

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PCL-R(サイコパシー・チェックリスト改訂版)、英語付き

今日はランニング日誌+αの予定だったが、突然の雷雨で走れなくなった

から、代わりに心理学関連の時事ネタを扱うことにしよう。

 

「PC」という略語はほとんどの場合、「パソコン」を表す。一方、「PCL」という

略語は、「Psychopathy Check List」(サイコパシー・チェック・リスト)のこ

とらしい。今話題の、「サイコパス」(psychopath : 精神病質者)にどの程度

当てはまるのかを評価する項目一覧のこと。ちなみにサイコパシーは語源的

に、「魂(psycho)が苦しむこと(pathy)」を意味する言葉。精神病質と訳す

より、カタカナのままの方が誤解が少ないと思う。

 

唐突に異常心理学の用語が出て来たのはもちろん、事態が急展開したPC

(パソコン)遠隔操作事件の片山祐輔被告の言葉を受けてのもの。彼は以

前、「真犯人はサイコパス(反社会的人格)だと思う」と語ってたが、5月20日

になって、「それは自分。嘘が平気でつける」と語ったらしい(産経新聞HP、

ITmediaなど)。

 

この「サイコパス」という言葉、社会的にはかなり大まかに使われてると思う

し、片山被告も別に厳密な自己診断をしたわけではないはず。ただ、心理学・

精神医学的には一応、知る人ぞ知るチェックリストというものがあるようだか

ら、日本語と英語のウィキペディアその他で確認してみた。

 

 

         ☆          ☆          ☆

この種の話の大前提として挙げるべきことは、素人判断は危険、ということ

だろう。しっかりした教育や訓練を受けた専門家向けのものを、素人が自分

や他人に使う「生兵法」は「ケガのもと」。実際、翻訳本は日本でも、ワーク

ショップ受講&資格取得者のみが購入できるらしい。

 

ただ、そんな注意書きは、人間的な判断なら何にでも付くものであって、サ

イコパスの時だけ特別扱いする理由は差し当たり見当たらない。実際、現

在の精神疾患(or 障害)の世界的な診断基準であるDSMでも、チェックリ

ストは至る所で紹介されて、「参考」とされてるわけだ(うつ病、その他)。

 

もちろん、サイコパスの場合、素人が普通の他人に対して適用して語るの

止めた方がいいだろう。というのも、うつ病などよりネガティブ(否定的)な

ニュアンスが強い言葉だから。ただ、自分に対して試しに適用してみるのは、

自己責任の範囲で構わないだろうし、刑が確定した犯人やフィクションの登

場人物に対して使うのもいいと思う。

 

では、本人が素人判断で認めたらしい容疑者・片山被告について、我々が

考えてみるのはどうか。これはまだ、裁判の途中だし、非常に流動的な状況

だから、ここでは行わないことにする。。

 

 

          ☆          ☆          ☆

では、その専門家向けリストの中身について。代表的なのが、ヘア(R.D.

Hare)というカナダの学者による「PCL」(サイコパシー・チェックリスト)で、

英語版ウィキの「Hare Psychopathy Checklist」という項目にまとまった

説明がある。元々は1970年代に開発されて、91年に改訂版のPCL-R

(Revised)が公開されたとの事。

 

基本的に20項目について、どの程度当てはまるかで、0点、1点、2点の

3段階評価を行い、合計点を重視するようだ。以下、日本語と英語で項目を

列挙しよう。

 

日本語ウィキ英語ウィキは、なぜか完全には対応してないので、「Encyclo-

pedia of Mental Disorders」(精神障害百科事典)も合わせて考慮した

が、3つとも僅かに違うので、DSMのような唯一の決定版がないような状況

なのかも知れない。2003年に第2版へとアップデートされたことや、「2因子

モデル」、「3因子モデル」などへの深化が関係してる可能性もある。項目の

8は、日本語ウィキの訳「冷淡で共感性の欠如」が変なので、少し変更した。

その他も、英語を元にして一部変更してある。

 

 

   1. 口達者/表面的な魅力 (glib and superficial charm)

   2. 誇大的な自己価値感  (grandiose sense of self-worth)

   3. 刺激を求める/退屈しやすい (need for stimulation)

   4. 病的な虚言  (pathological lying) 

   5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る)  (cunning and manipulating)

   6. 良心の呵責・罪悪感の欠如 (lack of remorse)

   7. 浅薄な感情 (shallow affect)

   8. 冷淡さ/共感性の欠如 (callousness and lack of empathy)

   9. 寄生的な生活様式  (parasitic lifestyle)

  10. 貧弱な行動コントロール能力  (poor behavioral controls)

  11. 放逸な性行動  (sexual promiscuity)

  12. 幼少期の問題行動  (early behavior problems)

  13. 現実的・長期的な目標の欠如(lack of realistic long-term goals)

  14. 衝動性  (impulsivity)

  15. 無責任  (irresponsibility)

  16. 自分の行動に責任が取れない 

            (failure to accept responsibility for own actions)

  17. 多数で短期の婚姻関係(many short-time marital relaionships)

  18. 少年非行  (juvenile delinquency)

  19. 仮釈放の取消  (revocation of conditional release)

  20. 多種多様な犯罪歴  (criminal versatility)

 

 

           ☆          ☆          ☆

ちなみに15と16はどちらも無責任ということだが、15が自分以外(家族な

ど)、16が自分についてという意味だろう。

 

私が自己採点してみると、3~7点くらいで、多めに計算しても10点には届

かないから、サイコパスには程遠いと思ってもいいだろう。『百科事典』には、

30点以上精神病質の診断に値すると書いてあり、日本語ウィキには更に、

「20点未満であるとサイコパスではないとみなされる」と書いてあった。そもそ

も、日本も含む東アジアでは非常に少ないという説もある。個人より社会を

重視するから、と説明してしまうと、簡単すぎる気もするが。

 

最後に、サイコパス病気かどうかについて、次の日本語ウィキの説明は曖

昧で分かりにくいので、補足しとこう。

 

  「サイコパスは異常であるが病気(いわゆる精神病)ではなく、ほとんど

  の人々が通常の社会生活を営んでいる。そのため、現在では精神異常

  という位置づけではなく、パーソナリティ障害とされている。」

 

パーソナリティー障害とは普通、「精神疾患」とされてるのだから、上の説明だ

と、異常なのか異常でないのか、病気なのか病気でないのか、非常に分かり

にくい。要するに、「医学的には病的な状態と言えるが、重い病とは限らず、

病院や薬、カウンセリングなどを必要とせずに普通に暮らす人が多い」という

ことだと思う。

 

その内、程度=点数の高い人達が、反社会的な「困った人達」ということだろ

うけど、確かに身の回りですぐ思い当たる人は1人もいない。せいぜい、一部

の犯罪者が当てはまるくらいだろうか。もちろん、反社会的人間だからといっ

て、犯罪者であるとは限らない。統計的な割合はさておき。。

 

 

         ☆          ☆          ☆

ちなみに、当サイトで度々扱って来た『DSM-Ⅳ-TR』(精神疾患の診断・

統計マニュアル 新訂版)における、「反社会性パーソナリティー障害」との

比較は、時間が無いのでとりあえず省略する。去年、発行されたばかりの

『DSM-5』(英語)はまだ見てない。歴史的に重い精神疾患を表して来た

精神病」という言葉との比較も、また別の機会に回すとしよう。

 

なお、片山被告側は精神鑑定を要求してるが、刑事責任能力は認めてるそ

うだ。それでは、今日はこの辺で。。☆彡

 

 

 

P.S. 14年11月26日の『ホンマでっか!?TV』で、異常犯罪と人格特徴

     の関係について扱われたらしい。続々とこの記事へのアクセスが入っ

     てる。   

 

P.S.2 15年6月24日、香山リカがサイコパスについて注目すべき文章を

       発表したので、翌日ただちに応答記事をアップした。

  元少年Aと『絶歌』、香山リカの「サイコパス」という見解(SPA!)を読んで

 

P.S.3 15年7月1日、日本の実際の事件をもとにしたドラマが放映された。

   サイコパス&マインドコントロールの迷宮~『世界仰天』ドラマ・成海朔2

 

 

cf. 適応障害の診断基準~DSM-Ⅳ-TR

   PTSD(外傷後ストレス障害)の診断基準~DSM-Ⅳ-TR

   パニック障害&発作、広場恐怖の診断基準~DSM-Ⅳ-TR

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   うつ病の診断基準と抗うつ薬~NHK『ためしてガッテン』

   うつ病の診断基準2~気分変調性障害

   うつ病の血液診断と遺伝子変化

   うつ病の診断基準3~双極Ⅰ型障害(躁うつ病)

   うつ病の診断基準4~双極Ⅱ型障害(軽い躁うつ病)

   新型うつ病の一つ、非定型うつ病について

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   心理療法を無料で全国民に~朝日新聞「欧州の安心 イギリス」

   大胆かつ繊細な試論~香山リカ『雅子さまと「新型うつ」』

      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   統合失調症の診断基準、統計、および歴史的経緯

 

                                    (計 3793字)

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閉じたものを開くこと~『ガリレオ2』第6話・密室る

(☆6月23&25日追記: 最新数式記事レビューをアップ。

   男子の中で泣く女~『ガリレオXX・内海薫』愚弄(もてあそ)ぶ

   『ガリレオ2』最終回の数式、浄水器と管内の水の乱流&層流 )

       

      

        ☆          ☆          ☆

実に面白い! 新シリーズについての私の評価ランキングだと、ここまで1話、

6話、5話の順だ。今回は、色んな要素で総合的に評価が高かった。

                  

別に、野木祐子(夏川結衣)がアラフォー美人だから高評価って訳ではない♪

妙に湯川が気に入ってるなと思ったら、福山雅治と夏川は同い年なんだね。

夏川の方が学年は1コ上で、独身同士。金のワラジを履いてでも探すべき女

房かも(古っ!)。

              

話を戻して、この出来なら、前回の視聴率17.9%から更に大きくダウンす

ることはないだろうと思ってたけど、ダウンどころか20.4%まで一気に回復。

実に素晴らしい。次回も20%台なら、最終回までのトータル平均での20%

台もほぼ確定だろう。

      

     

        ☆          ☆          ☆

では、ドラマ内容について。プチ流行のトレイル(山道)ランの取り入れ方も

含めて、ちょっと変わった演出だなと思ってたら、フジテレビ若手の金井紘

の監督2本目ってことね。キムタク=木村拓哉『Priceless』の第8話で初め

て演出した時には、最高視聴率20.1%を記録。これが唯一の20%台だ

から、才能があるのかも。栄養ドリンクと仮眠用ソファーベッドが友達という

お話(笑)。今後の活躍にも注目しとこう。

           

私が特に感心したのは、最後の岸谷(吉高由里子)の甘えた泣き声をプツッ

と切った大胆な終わり方と、吊り橋の撮影。あれはクレーンじゃなくて、長い

支柱の先にカメラをつけたのかな。支柱の影は映ってなかったけど(笑)。野

木と篠田(遊井亮子)、2人の影は上手く映してたね。救急ヘリコプターでの

撮影でもないと思う・・・と言うのは、『コード・ブルー』&美青年ファンへのご

挨拶だ♪ 遊井はやっぱり、研究者姿や山ガール・ファッションより、プチ女

王様っぽい網タイツの方がよく似合う。

          

演出に関して、欲を言うなら、実験室のホログラム・シールの場面はもう一

息だったかも。新人監督なら、もう少しヒネって、実はホログラムに見えた

方が本物だったって流れの方が笑えた♪ つまり、透明パネルの裏側に

本物の湯川を立たせて、岸谷の後ろ側から登場したのがホログラムとか。

              

これなら、あれがすぐホログラムに見えてしまった視聴者も、意表を突かれ

ることになる。実際、私は3D画像が全く見えない目の持ち主だから、最初か

らあれは2次元(平面)にしか見えなかった。折角、凸版印刷が作ってくれた

のに、申し訳ないね (^^ゞ ツイッター検索をかけてみると、一般には好評の

ようだった。ま、単に福山の等身大写真が欲しいってことかも知れない♪

     

ちなみに、ホログラムの横で同じポーズの湯川本人を立たせたのはいいと

して、どうせなら2秒間くらい、ハッキリと並べた方が効果的だっただろう。

本人も、ピタッと静止させて。

            

        

         ☆          ☆          ☆

ところで、第6章のタイトルは、『密室(とじ)る』。ホログラムで密室に見せか

けてた部屋を、物理学で「開いた」のが湯川=福山だった。

              

今回、福田靖の脚本は、再現シーンの重複は気になったものの、東野圭吾

の原作を上手くアレンジしてある。つまり、山奥のペンションでの殺人、ホロ

グラムによる密室偽装、お風呂の過飽和と泡、真犯人(の1人)が魅力的

な女性・・・といったポイントはそのまま残した上で、美人科学者の嫉妬とい

う話へと変更したわけだ。原作みたいに、湯川の男友達を語り手にして、

妻とその弟を犯人にすると、テレビ的に印象が弱いわけだ。。

          

要するにドラマは、科学者の人間的・通俗的な部分を前面に押し出したわ

けで、科学という営みに対する視線の拡大にもなるし、天才・湯川のトボけ

た変人ぶりをアピールすることにもなる。一方で、初夏にふさわしく、美しい

吊り橋や渓流、緑の魅力も強調、山ガールも登場。まさに、原作を「とじる」

ことなく、テレビ的に上手く「開いた」作品になってた。

          

「とじる」ことにも「開く」ことにも長所と短所があるが、特に日本人は「とじる」

方向に向かいがちなもの。だからこそ、開く勇気や努力が大切になる。もち

ろん、窓を開けたままでは生活しにくいから、開け方と閉じ方の適度なバラ

ンスが重要なのだ。以下、様々な「開き方」を見てみよう。既に制作サイドは、

アラサーの新人演出家へと、門を開いてた。。

    

      

         ☆          ☆          ☆

まず今回、湯川ゼミの女子学生が、研究室で先生に突っ込みを入れてた♪

このパターンは、前シリーズも含めて初めてじゃないかな。

            

凍らせた発砲スチロールを使った超伝導ジェットコースター模型で「遊んで

る」様子を見た岸谷(吉高由里子)が、何の役に立つのかと疑問を投げか

けると、湯川は相撲の四股(しこ)だと応答♪ 要するに、物理学に必要な

「足腰」、基礎力の鍛錬ってことだけど、男子学生が「むしろ・・」とつぶやい

たのを受けて、女子学生(モデル系の吉倉あおい)が、「分かりにくい・・」

と突っ込み♪

              

聞き流した湯川も面白かったし、控え目に口に手を当てて「しまった・・つい

本当のことを・・」って表情をする女子学生も笑えた。面白実験をしっかり入

れた点も、いいね。少年探偵団は完全な脇役に回されてるけど、少ない出

番で地味に頑張ってるのだ。前回のアイドル系の女子学生(逢沢りな)も

良かった・・・って話は既に書いた通り。

         

男子学生に関してはもちろん、ほとんど見てない(笑)。ま、それは女性視

聴者におまかせってことで。私としては、湯川、岸谷、犯人、物理学といっ

たメインだけに視線を注目させることなく、脇役にも目を「開く」ようにしてる

のだ。例えば、第4話のホテルのウエイトレスとか、第5話の怪しい事務所

の女性従業員、あるいは『ラスト ♡ シンデレラ』のレースクイーンとか♪  

      

ちなみに、数式記事の方で読者が教えてくださった情報によると、ホログラ

ムというものも、視域(見える角度)を左右に大きく開く方向を目指してるよ

うだ。それが実は、エンドロールの壁の三番目の式だったらしい(追記済)。

        

    

         ☆          ☆          ☆

次に、番組の最後に湯川が語った、美人に関する妙な「論理」を見てみよう。

この論理なら、文系女子の方々も興味を持ちやすいはずだ♪ ただし、ドラ

マの範囲を遥かに超えた所まで「開いた」議論を展開する。

           

湯川によると、岸谷が言われたらしい「可愛い」という言葉は、数値的根拠

を持たない単なる感覚的主観、非論理的なものにすぎない。それに対して

「美人」とは、黄金比率という数値的根拠を持つ。目と口の距離が顔の長さ

の36%。両目の間隔が顔の幅の46%という話だった。

            

これを聞いてすぐ思ったのは、何で「黄金比」にその2つの数字があるのかっ

てこと。特に46%という数字は、いわゆる黄金比としては大き過ぎる値。黄

金比とか黄金率というものは、前シリーズの最終回の数学とも関係する話だ

から、まずは基本を復習しとこう。

             

             

         ☆          ☆          ☆

130522a

  左図は、前に書い

  たのを改良したも

  の。図のように、

  x 倍、x 倍と、2

  重の関係が成立し

てる時、約1.62となる。正確には x=(1+√5)/2。この時の「1:x」 、

つまり 1:1.62が、いわゆる黄金比だ。計算は2次方程式を解くことになる。

       

  AC=AB+BC だから、 x² =1+ x    ∴ x²-x-1=0

   x>0より、 x =(1+√5)/2 ≒ (1+2.236)÷2

        ∴ x ≒ 1.62。

           

これに1を足したものが x² で、約2.62になる。逆に言うと、全体の長さを

2.62とする時、短い部分の長さは1。よって短い部分は、全体の約38%

なのだ。計算式は以下の通り。

    

  1÷x² = 1÷{(1+√5)/2}² = 1÷{(6+2√5)/4}

      =2/(3+√5) = (3-√5)/2 = (3-2.236)/2

      ≒ 0.38

                

この38%とか1.62倍という黄金比関連の数字なら、昔から色んなものに

見出されて来たものだが、今回は36%と46%。ちょっと違うわけで、早速

調べてみると、北米の心理学的研究が話題になってた。「新しい黄金比」を

2つ発見したというのだ。

            

        

         ☆          ☆          ☆

ネット検索すると、2009年12月に発表された「ニュース」が多数ヒットする

が、この種の話題にありがちなように、元のトロント大&カリフォルニア大

の英語論文、「New “Golden” ratios for Facial beauty」(顔の美しさ

をもたらす新たな「黄金」比)までチェックしたものは、なかなか見当たらない。

         

つまり、毎度のことながら、日本語のメディア報道の世界へと閉じた議論に

なってるわけで、ここでは英語や北米の原点まで、視線を開くことにしよう。

幸い、無料ですぐ読める論文要約(アブストラクト)が直ちにヒット。普通だと、

探すのにもっと苦労するから、この論文はやはり注目を浴びたんだと思う。 

              

実際、軽く目を通してみると、心理学実験の研究論文としては、わりとレベル

が高いのが分かる。手間ヒマかかってるし、データの処理にも「サーストン法」

なんていう面倒なものを使用。顔の好みの分布グラフから、2次関数の式を

導いて、グラフ(上向きの放物線)の頂点を求めてるのだ。

           

つまり、顔の縦の長さの38%が目と口の距離、顔の横幅の46%が両目の

間隔の時に、満足度が最大となったわけだ。湯川が言うように、確かに数

値的根拠はある(一応・・)。

   

               

         ☆          ☆          ☆

しかし、常識的に考えても、人の好みがそれほど簡単に数字になるはずはな

い。よく出来たこの実験にも、限界はハッキリあるわけで、縦横の変形に用

いる顔写真は数十人の白人しか使ってないし、評価したのは北米の2大学

の学生、のべ126人(重複を除くと数十人だろう)。しかも、女子学生が非常

に多いのだ。4つの実験で、のべ126人の評価者の中で、92人が女子だか

ら、7割以上が女性ということになる。男女比がかなり偏ってるのだ。

        

したがって、日本人のアラフォー男性の湯川が、この実験を数値的根拠とし

て日本人女性の美を語るのは、「実に非-論理的」な行動だろう♪

       

さらに決定的な問題は、この実験が美人と可愛い女性の比較ではないとい

うこと。いまや「kawaii」(カワイイ)という言葉は世界的なものになりつつあ

るから、この実験の評価者は「kawai さ」を評価した可能性もある。実際、

論文で多用されてる言葉は、美人とカワイイの中間の言葉、「attractive」

(魅力的)なのだ。また、別の同様の実験を新たに行えば、カワイイ女性の

数値的根拠も直ちに得られることになる。

                

結局、あの「論理」は、天才科学者・湯川の通俗的なこだわりを示すもので

あって、例えば前シリーズ・第7話で鉄道への妙な愛着を示したのと同様な

のだ。ま、ウチにも地下鉄記事が1本だけあるけどね。そのせいで、海外の

方に鉄道オタクだと思われちゃったし。。 (^^ゞ

      

なお、視角をさらに開くと、あの湯川と岸谷の幼いやり取りは、屈折した幼

児SMプレイにも見える♪ 子どもの口ゲンカみたいな責めで、湯川が岸谷

をワンワン泣かせた後、一転して湯川が優しく愛して、岸谷は泣きやんだ

ばかりの幼児のような快感を得る。もちろん、その前に、研究室のドアは密

室(とじ)るわけだ。そう考えると、ますます良く出来たタイトルだろう。。

     

     

          ☆          ☆          ☆

最後に、前シリーズも含めて初めて登場した、大切な点を指摘しよう。それ

は、文系女子の岸谷が、理系の知識(水の過飽和)で活躍したことだ。冷た

い水を沸かすと、それまでたっぷり溶け込んでた空気の一部が気体になろ

うとする(過飽和)。その湯船に人間が入ると、お湯が刺激されて、空気が

気体の泡になり、身体につく。ただし、最初の1人だけ。

    

その知識が、岸谷の入浴シーンの驚きにつながったのだ。野木が先に入っ

たはずなのに、どうして泡がついたのか。ちなみにあの妙な入浴シーンで、

瞬間視聴率がかなり上がったのかも知れない。そりゃ、『水戸黄門』の由美

かおるか・・・って、古っ!

     

とにかく、文系から理系へ、女性的感性から男性的論理へと歩み寄ること

の重要性は、ウチでも今まで何度も指摘して来たことだ。原発・放射能に

ついても同様。それを、ドラマという女性的メディアで実現したのは、実に

素晴らしいことだった。

      

もちろん最終回は、男性の理屈屋である湯川が、女性的な感性に歩みよ

ることは大前提なのだ♪ 前シリーズの最終回、サンタと「ピンク!」を信

じた科学者・湯川のように。

  

それでは、今日はこの辺で。。☆彡

    

      

      

cf. 宗教、科学、自然と人間~『ガリレオ2』第1話・幻惑す

   心の同期と「慣性の法則」~『ガリレオ2』第2話・指標す

   揺れ動く、見えないもの~『ガリレオ2』第3話・心聴る

   曲がった男のストレートな切れ味~『ガリレオ2』第4話

   接近することの効果と限界~『ガリレオ2』第5話

   脇役と主役、よそおう人々~『ガリレオ2』第7話・偽装う

   虚像=花火を演じる舞台としての生~『ガリレオ2』第8話・演技る

   エリートがみだす凡人の心の歯車~『ガリレオ2』第9話・撹乱す

   誰が何を救うのか~『ガリレオ2』第10話・聖女の救済(前編)

      

     ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 『ガリレオ2』第1話の数式、誘電体のマイクロ波加熱における電力半減深度

 『ガリレオ2』第2話の数式、不覚筋動による水晶振り子の強制振動

 『ガリレオ2』第3話の数式、

          パルス電磁波のフレイ効果による耳の奥の弾性波か

 『ガリレオ2』第4話の数式、流体中の回転ボールを曲げるマグナス効果などか

 『ガリレオ2』第5話の数式、

       近似のニュートン法による√2の数値解析(&バルマー系列)

 『ガリレオ2』第6話の数式、

             ホログラム記録&再生における光波の複素数表示

 『ガリレオ2』第7話の数式、

           ロッキングチェアの慣性モーメント&回転・直線運動か

 『ガリレオ2』第8話の数式、花火の光の入射角&3つの像の位置関係か

 『ガリレオ2』第9話の数式、超音波による圧力・密度変化(&ビルの高さ)

 『ガリレオ2』第10話の数式、ゼラチン絵の具の濃度や溶解反応速度か

                   

                                 (計 5666文字)

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SMプレイと虐待トラウマ~『フィフティ・シェイズ・ダーカー』

15年7月8日追記: 映画批評をアップ(約6000字)。

    鉛筆を唇にあてて夢見る女の子

             ~映画『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』レビュー

 

 

         ☆          ☆          ☆

いまや世界で8400万部(!)を超える大ベストセラーになったという、ママ

向けSM小説3部作、『フィフティ・シェイズ』。その第一弾である『フィフティ・

シェイズ・オブ・グレイ』(早川書房)について、3ヶ月前に簡単な感想記事を

書いたら、予想以上のアクセスが続いてる。

 

  大ベストセラーのママ向けSM小説、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』

 

正直、それほど男性ウケする内容とは思えないので、やはり女性にウケて

るんだろう。少し見方をズラすと、あまり男性ウケしないから、書き手が少な

くて、ネット情報もそれほど多くないのだと思う。

 

意外なことに、日本のウィキペディアにはいまだに項目が無いし、英語版

のウィキでさえ、第一弾『グレイ』の項目があるのみ。第二弾『ダーカー』

(原書は2011年9月)、第三弾『フリード』(同・12年1月)の項目は無い

し、『グレイ』の項目に全てがまとめられてる訳でもない。やはりこれは、

変わった官能小説だ。。

 

(☆15年1月28日追記: その後、『ダーカー』の英語版ウィキは14年6月、

                 『フリード』の項目は14年8月に作成されてた。

                 また、『グレイ』の項目を読むと、既に1億部を突

                 破してるらしい。)

 

 

         ☆          ☆          ☆

あらためて確認しとくと、「フィフティ・シェイズ」(fifty shades)とは、五十

の陰=彩(あや)。直接的には、主人公の一人であるドミナント(dominant

=支配者)の美青年・グレイ(Grey)の性格が、「五十通り」に歪んでること

を表してる。

 

さらに言うなら、作者のE.L.Jamesは英国の女性で、英国では「grey」

という綴りが「gray」(グレー=灰色)を表すらしい。すると元のタイトルは、

灰色の五十通りのニュアンス、といった感じの意味にもなる。灰色とは、苦

悩する男性・グレイを表すと共に、彼をそういった状況に追い込んだ不幸

な境遇や世の中全体をも表すだろう。

 

つまり、第一部では金・名誉・美貌・権力を誇示するドミナント(支配者)と

して描かれてたグレイは、実はサブミッシブ(submissive=服従者)でも

ある。だからこそグレイは、第二部において、自らにとってのサブミッシブ

であったはずの若い女性・アナの前にひざまずいて、涙までこぼすのだ。

 

SとMの関係は常に反転可能で両義的なものだというのは、精神分析学

その他、心理学が昔から示してたことだし、実際の世の中を見ても確かに

そう感じる。その意味でやはり、このマミー・ポルノは基本を押さえてある。

 

さらに三部作全体で見ると、幼児期の虐待からの回復を鮮やかに描いて

るのだ。つまり、まず『グレイ』で歪んだ性癖を描き、『ダーカー』(darker)

では彼の「より暗い」領域に入って行く。BDSM(Bondage・Discipline・

Sadism・Masochism=束縛・調教・サド・マゾ)にのめり込ませた幼児期

のトラウマ(Trauma=心的外傷)と、それ以降の成長過程。そしておそら

く最後、『フリード』において、彼はアナの手助けで「解放される」(フリード=

freed)はずだ。

 

裏返せばそれは、処女の女子大生だったアナスタシア・スティールが、立

派な素人セラピストへと成長することでもある。ただし、それだけでは普通

過ぎるので、SMというセクシャルな仕掛けを導入し、大当たりしたというわ

けだ。前回の記事では、私はあまり評価しなかったが、『ダーカー』を読ん

だ後では、かなり評価が上がってる。精神医学的な回復&成長物語として

なら、かなり面白く出来上がってる部類だろう。。

 

 

          ☆          ☆          ☆

では、その第二部、『フィフティ・シェイズ・ダーカー』の中身を見て行こう。邦

訳は2月26日に出版されたばかりだ(池田真紀子・訳)。まだ読んでない人

が多いだろうから、以下はかなりのネタバレ的内容になる。くれぐれも、ご注

意あれ。。

 

『グレイ』では、ヒロインである女子大生アナの日常生活から話がスタートし

たが、今回はいきなり、「ダーク」な重い場面から始まる。薬(ドラッグ)に溺

れた売春婦と、その小さな男の子のもとに、ヒモである男がやって来る。こ

の男が、実の父親かどうかはともかく、男なのにバックル付きのブーツを履

いて、ベルトで母親を叩くのだ。続いて、テーブルの下に隠れてる男の子を

探し出す所で、グレイの悪夢が覚める。ここまでがプロローグで、英語なら

アマゾンHPで読める。

 

さらに、ここまでの流れから容易に予想できるように、男は子どもをタバコ

の灰皿代わりにして、グリグリ押しつけて火傷を負わせたようだ。消えずに

残った痕を見せたくないから、その男の子はやがて、自分を見るな、触る

なと命令することになる。それが、五十通り(フィフティ・シェイズ)に歪んで

成長した、あるいは成長しそこねてアダルト・チルドレンとなった、グレイな

のだ。

 

 

          ☆          ☆         ☆

彼の幼児体験の影響は、直後のアナとの会話でも遠回しに表現される。

この小説、よく読むと、軽い婉曲表現に満ちてるのだ。

 

第一部『グレイ』の最後は、本気で強く叩いて欲しいというアナの願いに

従って、グレイがアナを叩き、耐えられないと悟ったアナが、別れを決意

する。彼からの卒業と大学からの卒業が重ねられた後、第二部の冒頭

では、新人OLアナが。彼からの誘いに再び応じてしまう。この間、僅か

数日しか経ってない♪

 

そして、アナが友人ケイトのハイヒール・ブーツを借りて履いてた時、グレ

イの目が暗く光るのだ。この時点では、幼い頃の父親のブーツを思い出

させるものだろうと感じるのだが、『ダーカー』の終盤までには、どうやらも

う一つの意味がありそうだと気付くことになる。つまり、十代の少年グレイ

を支配した年上の美女、エレナ・リンカーンの象徴ということだ。ハッキリと

は書かれてないが、女王様と言えば定番アイテムがハイヒールのブーツ

だろう。とりわけ、BDSMの世界では。ちなみにグレイのハイヒールへの

こだわりは、他の場所にも書かれてた。

 

幼い頃のグレイには、暴力的な男(父でないと語ってる)のブーツが目の

前に君臨した。少年時代には、エレナの女王様ブーツが君臨した。そし

て今、目の前には、サブミッシブ(服従者)に仕立てようとして上手くいか

ない女性、アナのブーツがある。グレイの目が「より暗く」(ダーカー)なっ

た後、あっさりアナの前でひざまずいてしまうのは、自然な流れだろう。

 

ただし、一時的な服従だし、比較的ノーマルなアナとしても、支配者の側

に転じる気は毛頭ないわけだ。。

 

 

         ☆          ☆          ☆

ここで、五十通り(フィフティ・シェイズ)とまでは言わないものの、グレイの

歪みを要素に分解してみよう。

 

まず、かなり単純な模倣、あるいは反復がある。幼い頃、心に固着してし

まった父親の姿のように、支配的な男性として女性を服従させるのだ。あ

る意味、退行と言ってもいいし、強迫的なロールプレイ(役割演技)と言っ

てもいい。次に、自己否定とか無力感。つまり、幼い頃、何も抵抗できな

いまま虐待されてしまった経験(自分&母)が、そのまま残ってしまってる。

 

続いて、母親へのアンビバレント(両面価値的)な強い思い。言葉の本来

の意味での、マザー・コンプレックス。つまり、母はどうしようもない状態に

なってたし、自分を助けてもくれなかったから、憎むべき対象である。しか

しそれでも、自分は母が好きだったし、暴力的に支配される母を見て、幼

心に可哀想だとも思っただろう。倒錯的快感も混ざってた可能性がある。

 

こうした複雑な思いが、若き億万長者へと成長した後のグレイにも潜んで

るので、つい母親に似た女性を愛し、かつ支配してしまう。その最たるもの

が、アナだったわけだ。そうすると『ダーカー』の序盤で、友人男性・ホセが

アナを撮った写真を、グレイが買い占めた意味も分かるだろう。単なる男

の嫉妬ではなく、「母親」の写真を買い占めたということになる。そう言えば、

グレイのヨットにも、「育ての母」の名前(グレース)が付けられてた。それを

知ったアナは、複雑な反応を示していた。

 

さらに言うなら、グレイが支配者として、服従する女性を叩くことは、要する

に自分を叩くことでもある。支配者に逆らえなかった幼い無力の自分を、

目の前の女性へと投影して叩き、罰すること。その思いを、普通の性的欲

望と重ねると共に、自分自身はもはや痛い思いをしなくて済む。

 

ただし、15人ほどいたらしい服従女性はやはり、「本物」ではなかったから、

関係(あるいは契約)はすぐにアッサリ終了した。ところが幸運にも。ようや

く「本物」に巡り合えたのだ。自分を愛してくれると共に、BDSMの趣味も

適度に共有してくれて、しかも自分に服従してしまうことはない、絶妙な位

置を保つ素敵な女性。それこそ、アナ・スティールだった。。

 

 

          ☆          ☆          ☆

精神分析的には、グレイは、歪み過ぎたエディプス・コンプレックスに苦悩

し続けてる。つまり、両親への複雑な思いが、あまりに強くて複雑なので、

正常な大人への成長が出来ないままなのだ。あるいは、ファルス(男根=

男性性)の欠如をめぐる複雑な思い、去勢コンプレックスに苛まれ続けて

ると言ってもいい。

 

この美青年を救うのは、最終的にはヒロインのアナだが、媒介役として登

場する医師(ドクター)は、やや変わった治療法を提案している。SFBT。

ソリューション・フォーカスト・ブリーフ・セラピー(Solution Focused Brief

 Therapy)で、「解決志向短期療法」と訳されてた。

 

現代の精神医学は薬で治療するし、普通の心理療法は患者(クライエント)

の過去(と現在)を重視する。それに対して解決志向短期療法では、患者

の未来をどう決定し、どうやってそこに向かうか、その点にフォーカス(焦点)

を絞り、未来志向で少しずつ対話を進めて行くらしい。プラトンからヘーゲル

に至る哲学の歴史も踏まえてのことか、「弁証法的アプローチ」という言葉

も使われてた。

 

『フィフティ・シェイズ』の物語全体も、文章的には長編だけど、時間的には

まだあまり経過してないと思われる。わりと「短期」間にグレイとアナが結婚

し、子どもも生まれ、グレイが過去の束縛からフリーになる(フリード)。一

方、グレイの過去については、直接的には少ししか語られないわけで、その

意味では、グレイに対するアナの支え自体が、解決志向短期療法(SFBT)

とも言えるだろう。    

 

本物の(狭義の)SFBTという談話療法については、英語版ウィキに興味深

い説明がある。例えば、こんな風変わりな質問&応答が行われるらしい。

 

  カウンセラー: 「この後、今夜あなたが眠ってる間に奇跡的な変化が

            起きて、問題が解決したとします。あなたが翌朝、そ

            の事に気付くとすると、何が改善のしるしでしょうか?」

 

    患者:   「分かりません・・・・・・あぁ、例えば、誰かに悪口を言わ

           れても心が乱れないということでしょうかね」

 

この時、差し当たりの目標として、「悪口を言われても心が乱れない自分」

というものが置かれる。では、心を乱す代わりに何をするのか、といった感

じで、より良き未来の自分を志向していくようだ。。

 

 

          ☆          ☆          ☆  

なお、世俗的興味が向かいやすい性的な描写は、『ダーカー』よりむしろ『グ

レイ』の方が目立ってた気がする。『ダーカー』ではむしろ、精神医学的な話

や、周囲からの様々な嫉妬(男&女)などが描かれてるので、『グレイ』の方

が発行部数が多いのは自然なこと。英語版ウィキが『グレイ』しか扱ってない

のも理解できるだろう。

 

まあ、折角、本の表紙に仮面を描いてることだし、仮面舞踏会のシーンくら

いはもう少しエロスを表現して欲しかった気はする。普通のSM小説なら、

「おそらく」もっと過激なエピソードが組み込まれる所「だろう」♪ その辺り

は、今後の映画化に期待するべきかも知れない。

 

男性読者として、ちょっと思ったのは、解放された後のグレイにとって、今度

は女房と子どもが手枷・足枷になるのではないか、ということ。まあ、それは

健全なBDSM、束縛&攻撃プレイなのかも。ちなみにアナも、グレイの医師

も、合意に基づく健全なSMプレイには賛成してた。

 

特にアナのお気に入りは、紐でつながれた2つの銀の球を入れた状態で

叩かれることらしい♪ 名前はアナ・スティール(Ana Steele)だが、アナ

ル(anal)の奪取(steal)については少し待って、という感じだった。この辺

りも、女性向けSM小説の特徴の一つかも知れない。

 

ここまで来たら、3月22日刊行予定の第三部『フリード』も読んで、レビュー

したいと思ってる(☆追記: 4月上旬に延期)。ただ、既に物語の全体が見

えた気もするので、意外性が無かった場合、レビューと言うより単なる短い

感想記事で済ませるつもりだ(15年2月現在まだ延期中)。解放された2人

が自由にプレイする様子が刺激的なら、話は別だけど♪

 

それでは、今回はこの辺で。。☆彡

 

 

 

P.S. 15年2月11日のベルリン映画祭での上映では、評価が分かれてる

     ようだ。公式動画から予想されるように、かなりソフトな内容らしい。

     続編2本は既に確定してるようで、『ダーカー』公開2016年の予定。

 

P.S.2 17年の夏になってようやく、既に日本で『ダーカー』の

      映画が公開されてることに気づいた。『グレイ』と違って、

      あまりにも話題になってないが、6月23日に公開開始。

      関東では早くも公開終了。

 

      一方、海外では、評価はさておき、まずまずヒットしてる

      ようだ。全世界の興行収入は現在、約400億円。日本

      のデータは見当たらないが、この100分の1くらいか。。

 

 

 

cf. 大ベストセラーのママ向けSM小説、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』

 

                 (計 5441文字)

       (追記 174字 ; 合計 5615字)

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自我(エゴ)、超自我、欲望~『鈴木先生』第7話

(☆6月28日追記: 最終回の記事をアップ。

     ソクラテスの弁明~『鈴木先生』最終回レビュー(by哲学的対話法) )

   

   

          ☆            ☆           ☆      

通勤JOG 4km,23分程度

   

私は現在まで、5年9ヶ月の間、このブログを毎日更新し続けて来た。去年

の秋からは、1本の記事当たりの字数もすべてカウント。平均するとおそら

2500字以上だろう。内容的にも、理数系から人文系まで、マニアックな内

がかなり入ってる。スポーツ好きの社会人が、こんな1円にもならないPC

操作を続けるには、某大な精神的エネルギーとか、(ちから)が必要だ。

                 

何の話をしてるのかって? これが『鈴木先生』第7話の核心とつながって

るのは明らかだろう♪ もちろん今回は、自分を内側から厳しく律する

自我=スーパー・エゴ」(super-ego)の問題、とりわけ負の側面が、真正面

から扱われていたのだ。第4話で扱われた「浄化法」よりは、心理学的にメ

ジャーだし、遥かに重要なもの(心的装置の一部分)でもある。

             

私は、中学生の教室掃除の何倍もの作業を、数倍の期間継続して、今の

所は(建前上の)「突然死」もしてないし、「悟りの境地」の美しい光りも放っ

てない。急にパタリと日記=ブログを止めて、ネット上から消えてしまうこと

も、もうしばらくはないだろう。これは、私の自我=エゴに対する、内なる命

令係・超自我上手く機能してるわけだ。もし、精神分析学の創始者・フロ

イトが晩年に導入した、理論(第二局所論)と概念を用いて説明するのなら。

       

それに対して、鈴木先生(長谷川博己)の教育法に決定的な影響を与え

丸山康子(滝澤史)の場合は、しっかりした両親に育てられた強過ぎる

超自我(≒良心=内なる両親)が、マイナスに働いてしまい、遂には自我

=エゴも欲望も消してしまったのだ。残ったのは、神の領域のみとなる。

         

そんな事が現実の中学生に起きることかどうかは分からないし、事の良し

悪しもビミョーだが、ドラマの中では悪い事のように扱われていた。そして、

そのプロセスを止めるどころか、結果的に推し進めてしまった鈴木先生は、

深く後悔、反省することになる。

    

         ☆          ☆          ☆

ここで、もっとも素朴な疑問に答えてみよう。「要するに、丸山に根性が無

かっただけじゃないの?」という問いかけ。これは、特に「大人」の本音とし

ては自然なものだろう。口に出すかどうかは、ともかくとして。

       

たかが、中学の教室掃除を少しの期間、続けるだけ。5人分を1人でやっ

たとしても、1時間程度だろう。その程度の運動は、運動クラブに入ってる

中学生なら週5日前後、平気でこなしてるはずだ。周囲にサボる生徒がい

て、自分もつられそうになる点についても同様。

       

また、今年公開された山P=山下智久の映画でもおなじみ、スポ根(=ス

ポーツ根性)マンガの金字塔、『あしたのジョー』だと、ジョーがラストで妙な

光り=白さを帯びるまでの努力は凄まじいものがあった。同じフィクション

の登場人物でも、『鈴木先生』の丸山は余りにもひ弱な優等生にすぎない。。

    

こういった考えは、今でも「ある意味」、「正論」だと思う。つまり、人間は本

来、その程度のストレスには耐えれるはずだし、また、耐えるべきなのだ。

実際、大人の社会人なら、何十倍ものストレスの中で、何十年も耐え続け

ることになる。

            

けれども、現実の日本社会は、ここしばらくの間、必ずしもそうはなってな

い。ある意味で些細なことにも、心が「摩耗」してしまい、もはや維持も修

復もできず、やがて「キレて」しまったりする。割合はともかく、そうゆう子が

増えてるという情報は溢れてるし、私もそんな気がしている。

    

だから、教育者精神医学者の世界でも、そういった子供に着目し、優しく

繊細な配慮を目指す傾向が強まって来た。それでは、現状のひ弱さを追認

することにもなりかねない訳だが、今は大きく見て、「優しさの時代」。かつ

ての「厳しい時代」とは逆に、優しく接することがいいことだという価値観が

長く支配し続けてる状況だ。心理学的には、自分を厳しく律する超自我の

強化よりも、あるがままの私、自我=エゴの防衛を重視してることになる。

        

こうした現在の教育事情を反映してるのが、『鈴木先生』という作品であっ

て、切り口は斬新で面白いが、本質的には「正統派」、優等生的な教育思

想とも言えるだろう。

           

この場合、今度は、優等生教師・鈴木先生の側が不安になって来るわけだ

が、主役だからなのか、今の所、上手くやってるように見える。崩れそうに

なると、理解力があって魅力的な彼女&カウンセラー・麻美(臼田あさ美)が、

巧みに手助けしてくれるのだ。代わりに、つぶされ役の教師になったのが、

もっとガチガチの正統派・足子先生(冨田靖子)と、色んな意味で通俗的な

山崎先生(山口智充)であった。。

     

         ☆          ☆          ☆

ここまでの文章を読んで、エゴという言葉の使い方がドラマと違うこと、遥

かに広く一般的な意味だということに気付いたかも知れない。他人との区別

を付けて、自分を意識し、愛する心。ドラマの序盤、鈴木先生が連発した「エ

ゴ」という言葉は、エゴイズム=利己主義という意味であって、自我=エゴを

まず大切にしようとする傾向を指してた。エゴイズムは、エゴの主要な一般

的特徴の一つであって、わがまま人間特有のものではない。

                 

もちろんそれは、行き過ぎると社会的、対人関係的に問題となってしまう。

例えば、処女性にこだわる自分を一番に考えてしまう山際の行動、エゴイズ

ムは、河辺(小野花梨)を傷つけ、間接的に自分をも傷つけてしまう。おまけ

に、おそらく処女ではないはずの女性・足子先生にも、ヒステリックに怒られ

るわけだ♪

                    

でも、自我=エゴをまず大切にしようとするのは、「個体保存本能」などと

いう概念を持ち出さなくても当たり前であって、鈴木先生が山際のエゴイズ

ム(処女執着)差し当たり認めた(「許されている」)のはもっともな事。た

だ、これは処女への執着だからであって、もし「幼女への性的欲望」とか、

「殺人への(性的)衝動」であれば、教師として、「許されている」と言うこと

さえ難しい。私が前回指摘して、鈴木先生も今回認めてたように、何かあっ

た場合には、「訴えられる」リスクさえあるからだ。

        

そこまで極端な例を考えなくても、自我=エゴのあるがままの姿、あるいは

欲望は、かなりの程度制御する必要がある。自我(エゴ)は社会的現実の

中で、他のエゴ(=他我)と共に生きるのであり、自我と他我、自我と現実は、

しばしば衝突する。したがって、ルール==掟とか、「妥協形成」が必要

なのだ。

                        

ここで、フロイトが発見した「不条理」(absurdity)、受け入れがたいバカげた

(absurd)事実が浮上する。良い家庭で良い両親に育てられ、超自我が発

達した「いい子」が、良過ぎて逆に壊れてしまいがちだという臨床的事実だ。

        

人間の心の奥、無意識には、様々な根源的・本能的衝動のうごめく場所

=「エス」(英語: id)があり、そこから生じる表面的な欲望は、意識的自我

の中だけでも大量&強固に存在する。それも大切な私の一部なのに、強

発達し過ぎた超自我は、全面的に「抑圧」(広い意味)してしまう。という事

は、私=自分が壊れてしまうリスクが高まるのだ。  

          

だからと言って、本当に壊れる人間は、現代日本でもそれほど多くは無い

し、一部が壊れたとしても、そのまま維持する可能性、修復する可能性も

ある。今回の大震災でも改めて思い知らさせたように、自然の予測は難し

い。それと同様、あるいはそれ以上に、人間の心の行方を予測することは

困難だ。

   

したがって、鈴木先生が、丸山康子の苦悩に気付かなかったことには、

とんど「指導ミス」ではないし、「誰一人摩耗しない」ような教育を目指す必要

も無。それは、不可能な幻想だし、理想像と言えるかどうかも相当怪しい

だろう。むしろ、深刻な摩耗は防ぎ軽い摩耗に耐えれる子供、摩耗しても

復できる子供を育てる方が現実的で、有効だと思う。

       

特に、私が気になるのは、今現在の教育論や精神医学の建前で忘れられ

がちな部分だ。「手のかからない生徒の心の摩耗」よりも、実際に大きな影

響が出てるのは、「生徒に配慮する先生の心の摩耗」だ。手のかかる生徒

だけでも大変なのに、手のかからない生徒の摩耗まで引き受けようとした

時、教師の摩耗した心は休職や退職、あるいは通院や薬物摂取に追い込

まれている。けれども社会は、生徒の方に関心を向けて、教師の側はしば

しば非難するのだ。。

     

         ☆          ☆          ☆

ドラマの主人公は、魅力的な彼女や神秘的な女子生徒らのおかげで、上手

く行くようになってる。しかし、現実の教師や学校の場合、そうは行かない。

そこで、教師の献身的な努力と共に重要となるのが、生徒の側の「戦略」だ。

     

丸山康子の場合、自分の超自我も、(結果的に)鈴木先生も、サボることを

許してくれなかったから、バケツの水に映った自分の姿=「鏡の中の自我」

に許してもらおうとする。これでは、自我の基本的なまとまりが失われてい

るし(「自我の分裂」)、他者と自分との区別も消失することになる。つまり、

一時的にせよ、自我成立以前に「逆戻り」するわけで、ラカン派精神分析

であれば、「鏡像」段階への「退行」と呼ぶ所だろう。

     

それは、自己防衛のための一時的な非常手段として、必ずしも悪いことで

はない。ただ、ドラマの中では、鈴木先生の登場によって、鏡の中の自我、

自我を許してくれる分身は、消えてしまった。その結果、心の全体は、自我

を丸ごと消して超自我の独裁状態を形成し、表面的な苦悩を抑圧・削除す

る形で作動したのだ。

    

しかし、もっと普通の解決方法が2つある。それは、「届かない心の叫び!」

(サブタイトル)を届かせる練習を少しずつ行うこと。ネットで匿名で叫ぶだけ

でも、すぐに反応があるだろう(特に女の子の場合)。理解あるお母さんに

少し話すだけでも、交換日記やメールでもいい。

         

そして、もっと重要なのは、超自我と欲望の妥協点を、自我が(半ば意識的

に)作り出すことだ。例えば、鈴木先生を適度に好きになる。この場合、好き

な人に褒めてもらいたいから、掃除をサボリたい欲望よりも、掃除したい欲

望の方が前面に出て、超自我との衝突も消えるのだ。これは、幼稚園・小

学校時代の私が実際にやってたことに近い♪

        

あるいは、掃除をサボること以外に、欲望の「他のはけ口」を探す。恋愛そ

の他、性的なもの、友達との遊び、ファッション、料理、テレビ、ネット、携帯、

ゲーム。現代日本には、欲望を発散する場が溢れ返っている。そうした形

で、超自我と欲望の妥協を形成すれば良かったのだ。実際、大人なら誰で

もやってる事だろう。ところが、丸山のそうした姿は、日記を書くことくらいし

か映されなかった。これでは、「他のはけ口」としては不十分なのだ。。

     

          ☆          ☆          ☆

ちなみにの場合、厳しい超自我の監視のもとで、1円にもならないブログ

を毎日更新し続けることは、エゴイズムの承認や尊重にもなっている。かな

り自由に、自分独自の内容を書いてるし、毎日着実に、自分自身の一部で

あるブログが拡大してるわけだ。ブログもエゴであり、エゴイズムでもある。

その意味で、私の中ではもうしばらく、自我(エゴ)、超自我、欲望が、それ

なりに仲良く共存し続けるだろう。

     

こうして今日もまた、私の自我は5000字以上、ネットの中で拡大したわけ

だ♪ 電脳空間での、匿名の言語的拡大に過ぎないにせよ、私の欲望もお

そらく妥協してくれると信じてる。

    

なお、今日のランニングも、通勤ジョギング4kmのみ。昨日より涼しくて、

適度な風もあったの、勿体ないことをした。ここ数日、マトモにランニングし

てないけど、あれこれと身体は動かしてるし、心はフルパワー状態だから、

スポーツ担当の超自我渋々許してくれるはずだ。そもそも、超自我も自

の一部。そんなに厳しい姿勢を貫けるはずはない

      

それでは、今日の所はこの辺で。。☆彡

         

       

         ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

P.S. 9日(木)の夕方、ウィキペディアに書き込まれた情報によると、

     第7話視聴率2.1%。現在までの平均視聴率2.2%となった。

   

P.S.2 関連する心の話を、ドラマも含めて、より一般的な形で記事にした。

        「強い心」~色々な意味、様々な形

      

     

cf. テレビ東京の学園ドラマ『鈴木先生』、マイナーだけどお勧め☆

   ドラマ『鈴木先生』、精神分析的レビュー(第1~3話)

   『鈴木先生』原作コミック立ち読み(Yahoo!)&第4話

   探し物に夢中で、ブログどころじゃない状況・・ (第5話関連つぶやき)

   疲れ切って帰宅、笑い転げた夜♪(鈴木先生・第6話ほか)

   『鈴木先生』第8話、軽~い感想♪

   最高気温30度の季節が到来&『鈴木先生』第9話

   ソクラテスの弁明~『鈴木先生』最終回レビュー(by哲学的対話法)

   『鈴木先生』映画公開記念、原作漫画ネット無料立ち読みの感想

        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

   眠過ぎるし翌朝も早いから、単なるつぶやきで・・

               (小川と中村が仲良く出没したらしい場所の写真♪)

           

                                  (計 5284文字)

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『鈴木先生』原作コミック立ち読み(Yahoo!)&第4話

(☆6月28日追記: 最終回の記事をアップ。

     ソクラテスの弁明~『鈴木先生』最終回レビュー(by哲学的対話法) )

   

     

           ☆          ☆          ☆

特番を1本半と、第3話の後半を見ただけで、2本の記事を書いてしまった、

テレビ東京のマイナー・ドラマ、『鈴木先生』。公表されてる視聴率(1、2話)

の低さだけから考えると、視聴者がほとんどいないような気もするが、ウチ

記事には続々とアクセスが入って来る。

     

   テレビ東京の学園ドラマ『鈴木先生」、マイナーだけどお勧め☆

   ドラマ『鈴木先生」、精神分析的レビュー(第1~3話)

      

その大部分は、単に視聴率を求める検索アクセスだが、3年前の『ラストフ

レンズ』のバブル的人気の3分の1くらいだろうか。昨夜22時~24時の僅

2時間で、PCだけでも423アクセス入ってるのだ。他の番組との比較はと

もかく、『鈴木先生』にも、意外なほど人気があるのは間違いない。

(視聴率は18日にようやく判明したので、この記事末尾に追記。)

       

私が本放送を最初から最後まで見たのは、日付け変わって昨夜の第4話

が初めてだが、予想を上回る出来の良さに感心した。正直、第4話の記事

は書かないつもりだったけど、Yahoo!コミックの立ち読みも合わせて、簡

単に感想記事をアップしとこう。マニアック・ブロガーとして、これほどのドラ

マを埋もれさせるわけにはいかない。『仁』の10分の1の視聴率というの

はあまりに不条理。いくら何でも不公平すぎて、見過ごせないのだ。。

      

         ☆          ☆          ☆

ではまず、Yahoo!コミックの「立ち読み」から。第1巻は、158ページ中

の78ページも無料で閲覧可能。2~5巻は10ページ、6~8巻は15ペー

ジだ。3巻でドラマに追いついたようなので、そこで立ち読みは止めた。私

は、狭い意味での「ネタバレ」、つまり、ドラマの前に原作・PR番組・TV雑

誌などで情報を得るような行為は、なるべく避けてるのだ。

      

1巻の目次は、「@げりみそ」(前篇)、「@げりみそ」(後編)、「@酢豚」(前

篇)、「@酢豚」(後編)、「@教育的指導」(前篇)、「教育的指導」(後編)と

なってる。つまり、最初の2つのエピソード(げりみそ&酢豚)を融合させた

のが、ラマの第2話のようだ。

         

教育的指導」の所は立ち読み出来なかったが、2巻冒頭に「岬事件も何

とか決着」と書いてるから、ドラマ第1話の低年齢セックスのエピソードだ

ろうと思う。あの当事者が、岬という男子生徒だった。滑稽でアブナイ「

川病」(動悸&妄想)も、言葉が2巻冒頭に登場する所を見ると、1巻終

盤の「教育的指導」か、中盤の「酢豚」(後編)で登場するらしい。

       

         ☆          ☆          ☆

さて、「げりみそ」と「酢豚」を原作で立ち読みして、すぐ目に留まったのは、

登場人物の外見。原作の鈴木先生とドラマの長谷川博己は良く似てるが、

原作の小川蘇美とドラマの土屋太鳳は似てない。明らかに、土屋の方が

魅力的だ♪ 長谷川も土屋も、キャスティング的には成功だろう。原作の

麻美とドラマの臼田あさ美は、適度に似た外見で、雰囲気的には臼田の

方が上手く翳りを出せてる。その意味で、このキャスティングも成功だ。

     

一方、内容について。原作では、立ち読み可能な1巻の中盤まで、「小川

病」は現れず、非常にマジメな物語になってる。イチイチ深く理屈を考える

点はドラマと同じだが、原作では各コマに単語が浮かび上がることはない

あのアイデアは、ドラマ独自のものだろうか。とにかく、ドラマが美少女萌

えや映像の単語で親しみやすさを醸し出してるのに対して、原作はひたす

らマジメで、古風な感じさえある。意図的なものか、原作者・武富健治の特

徴(年代、趣味など)によるものかは分からない。           

        

台詞や筋書きは、ドラマが原作を忠実に反映してるようで、原作を読んで

も既視感が強かった。ただ、「げりみそ」と「酢豚」からスタートする原作の

物語構成は、やはり非常に精神分析的だと思う。と言うのも、精神分析

「発達段階」論では、人間の最初は口唇期(口に関心が集まる段階)、

次が肛門期(or 肛門サディズム期)だからだ。その次は男根期あるいは

性器期になる。

           

ドラマでもそうだが、原作の一番最初は、食事のカットで、その後にげり

みそという攻撃が行われる。まさに、口唇期から肛門サディズム期への

移行と重なるわけだ。そして、原作の1巻終盤は、おそらくセックスの話

だから、キレイに口唇期→肛門サディズム期→性器期の流れが出来て

ることになる。

      

早くから「無意識」という言葉も使われてるし、喫煙室指導室の使い方

狭い空間で2人が深く面談)を見ても、原作が精神分析を背景に持って

るのは間違いないだろう。意識的か、無意識的かはともかく。

      

第2巻の目次は、「@人気投票」(前篇)、「@人気投票」(後編)、「@昼休

」、「@嵐の前夜」、「@恋の嵐」(その1)、「@恋の嵐」(その2)。10ペー

ジしか読めないが、ドラマ第3話で山崎先生(山口智充)が壊れる話に対

応するようだ。山崎先生は、原作マンガの方が嫌われそうな顔になってて、

納得した。山口智充だと、親しみやすい顔と体型だから、むしろ人気者に

見えてしまうのだ。

       

第3巻の目次は、「@恋の嵐」(その3~5)、「@恋の終わり」(その1~6)。

最初の10ページは、ドラマ第4話で中村がケガした直後を扱ってる。とい

うことは、この一連の恋のエピソードが、ドラマ第4話と第5話に対応して

るような気がする。実際、ドラマ第4話の終わり方は、明らかに恋の話が

続く感じになってた。ドラマの5話では、小川に対する女子生徒の嫉妬が、

何か問題を引き起こしそうな気配だ。小川が好きな相手が本当に鈴木な

のかどうかは分からないし、引き延ばしてくれた方が楽しめると思う。

   

以上、ドラマと原作の関係を、立ち読みできる範囲で簡単に見て来たが、

ドラマの最大の工夫は、あの独特のメガネかも知れない♪ 原作では、ご

普通のメガネで、いかにも型にハマった教師という感じなのだ。青年漫

画ならともかく、ドラマとしては、あのちょっと可愛いメガネと、長谷川の独

特の微笑みがポイントだろう。実際、初めて見たタイトルバックでは、全面

的にメガネの魅力を押し出してた。もちろん、じっくり人間や心を見つめ

うという意味だろう。やはり、メガネ屋で探すべきかも。。♪

     

     

       ☆          ☆          ☆

一方、ドラマ第4話の感想は、もう時間が無くなってしまったから、ごく簡単

に済ませよう。これまた、精神分析的な内容で、それが分かるためには、

歴史的背景を知る必要がある。

     

フロイトが20世紀初めに、精神分析を作り出し、それが20世紀以降の

精神医学・カウンセリングほか、様々な領域に影響を与えたわけだが、そ

直前の段階、19世紀末には、「浄化法」と呼ばれる方法が使われてい

た。英語だと、「catharsis」か「cathartic method」。これをカタカナで表現

すると「カタルシス・メソッド」で、『鈴木先生』の「鈴木式教育メソッド」を思

わせる名前だ。

      

その方法では、患者はまず、催眠術にかけられるか、寝椅子に横たわっ

て楽な状態になる。その上で、心の中に溜まったネガティブなものを、治

療者に向けて言葉などで吐き出す(=浄化する)と、症状が治まるとされ

ていた。ただしその後、吐き出すだけでは不十分と考えたフロイトは、より

洗練された治療方法&理論として、精神分析を考案することになる。

     

今回、鈴木式メソッドでは、竹地の心の中の思いをすべて吐き出させるこ

とになった。竹地は、まるで催眠術にでもかかったかのように、夢中で「テ

ンパって」、延々と語り続けたわけだ。その姿を、鈴木先生はじっと見つめ

ていた。まるで、治療者、医師、カウンセラーのように。

     

では、その結果、竹地がスッキリしたかと言うと、全く逆効果で、「最悪」に

なってしまったのだ。象徴的だったのは、竹地が最後に文字通り吐いて

まうカット。吐いた物は、やはり本人にとっても周囲にとっても汚いし、吐い

たからと言って本人がスッキリするとも限らない。少し吐いて、その見た目

や悪臭などで、余計に気分悪くなるのはよくあることだ。

        

ちなみに、竹地の「長ウ○コ」というのも、非常にカタルシス・メソッド的、

あるいはその失敗みたいなものになってた。内部の汚い物を外部に排

する行為だからだ。別の観点から見ると、口唇期・肛門サディズム期的

応であって、発達段階的な幼さを表してる。

     

         ☆          ☆          ☆

今回のラストシーンも非常に象徴的なものだった。現実としては、鈴木が

台所の流しで吐く様子が映されてた。あれを鈴木式カタルシス・メソッドと

呼ぶのは、あまりにシニカル=皮肉だが、あの時も、少しもスッキリした

感じはなかったわけだ。

     

では、鈴木はなぜ吐いたか。それは、二重の意味で、麻美というカウンセ

ラー&患者に「吐かされた」のだ。すぐ分かるのは、鈴木が麻美に強烈な

ダメージを与えられて、吐かせられたこと。でも、その前に、鈴木は秘めた

る思いを麻美に読み取られてしまってる。心の内を、「吐かされた」のだ。

      

個人的には、超能力とかオカルトのような話は趣味じゃないが、全否定す

るつもりもないし、今の時代、一般ウケしてるのも事実だろう。断トツ人気

の『仁』も、タイムスリップ時代劇なのだ。理論的・心理的で真面目な学園

物語から、あまり脱線しない範囲で、現代的味付けを施して欲しいと思う。

    

なお、あの女子生徒・中村も、原作よりドラマの未来穂香の方が可愛い

これはもう、来週も見るしかなさそうだ。ちなみに昨夜は一応、香取慎吾&

黒木メイサ&藤木直人『幸せになろうよ第5話も流し見したけど、黒木の

スタイルの良さが目に焼きついた程度。

          

夜の真っ暗な海でたたずむシーンとか、朝焼けの海岸とか、イメージ=映

像的にはキレイなんだけど、脚本=物語的には魅力を感じない。黒木には、

もっと短い台詞を喋らせた方がいいと思う。

ではまた。。☆彡

    

   

P.S. 5月18日の夜、ウィキペディアに第3話視聴率(2.5%)第4話

     視聴率(2.3%)が書き込まれた。今回は履歴を見ても出典が書

     かれてないので、やや不安が残るが、まあそんな数字だろう。ちな

     みに2話までの出典になってたスポニチHPでは、視聴率の更新

     が止まったままだ。

    

         

cf. 探し物に夢中で、ブログどころじゃない状況・・  

                         (第5話関連のつぶやき記事)

   疲れ切って帰宅、笑い転げた夜♪(鈴木先生・第6話ほか)

   自我(エゴ)、超自我、欲望~『鈴木先生』第7話 

   『鈴木先生』第8話、軽~い感想♪

   最高気温30度の季節が到来&『鈴木先生』第9話

   ソクラテスの弁明~『鈴木先生』最終回レビュー(by哲学的対話法)

    

                                  (計 4402文字)  

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